1. MetaStep TOP
  2. ビジネス活用を学ぶ
  3. ステーブルコインを日常に。交換不要の決済が変える未来

2026.06.16

ステーブルコインを日常に。交換不要の決済が変える未来

これまで暗号資産を日常の買い物に使うには、法定通貨への交換や送金など複数の手続きが必要だった。資産として保有することはできても、普段の支払いに使うには手間がかかる。それが暗号資産の普及を妨げる一因でもあった。
そうした状況を変えようとしているのが、2026年4月20日に日本で発行が始まった「Slash Card」だ。このカードは、米ドル連動型ステーブルコイン「USDC」をそのまま決済に利用できる仕組みを実現した。ユーザーは法定通貨への交換を意識することなく、コンビニや飲食店などVisa加盟店で通常のカードと同じように買い物ができる。
(文=MetaStep編集部)

「交換」を過去のものに。提携が拓く実用化の道


(引用元:PR TIMES

SLASH VISION PTE. LTD.、株式会社アイキタス、そして株式会社オリエントコーポレーション(オリコ)の3社による提携で実現した「Slash Card」は、米ドル連動型ステーブルコイン「USDC」を決済原資として直接利用できる国際ブランドカードだ。2026年4月20日からの発行開始に伴い、事前申し込みを行っていたユーザーへの手続きが順次進められている。同年8月には一般向けの受付開始も予定されており、日本の決済市場におけるステーブルコインの立ち位置を大きく変える契機となりそうだ。

このカードの最大の特徴は、決済の都度発生していた法定通貨への交換手続きを、ユーザーの意識下から完全に排除した点にある。国内外のVisa加盟店でカードを利用すると、ユーザーが保有するUSDCをもとに決済が行われる一方で、加盟店側には従来のカード決済と同様に日本円などの法定通貨で支払いが行われる。システム側で交換を自動化することにより、ユーザーは複雑な操作をすることなく、既存のクレジットカードと全く同じ手触りでステーブルコインを利用できる。(引用元:PR TIMES

また、この仕組みを支えるのは、3社の専門性を活かした強固な協力体制だ。ブランド提供と開発をSLASH VISIONが、顧客管理とシステム運営をアイキタスが担い、国際的な決済ネットワークへの接続(BINスポンサー)をオリコが担当する。特に、国内大手カード会社であるオリコが参画し、日本の割賦販売法や犯罪収益移転防止法といった関連法令に準拠した運用を担保している点は、これまでセキュリティや信頼性の面で慎重だった層に対しても安心感を与える要因となるだろう。

投機から通貨へ。ステーブルコインが日常のOSになる日

Slash Cardが提示した「ステーブルコインをそのまま使う」という体験は、Web3における価値の循環を加速させる重要な転換点となるはずだ。

これまでのステーブルコインは、主に暗号資産取引における資金の退避先や、分散型金融(DeFi)での運用といった「オンチェーン」に閉じた活動が主であった。現実世界で使うためには常に法定通貨への出口戦略を考慮しなければならず、この際の摩擦がステーブルコインの通貨としての機能を著しく損なっていたといえる。しかし今回、Slash Cardがこの障壁を解消したことで、ステーブルコインは「貯めておくためのデジタル資産」から、日常生活の中で「流動する通貨」へと性格を変えることになる。

また、この進化は、高度なブロックチェーン技術を「意識させないインフラ」へと落とし込んだ象徴的なユースケースともいえる。ガス代(※)の計算や法定通貨への換金といったストレスをユーザーに強いることなく、一枚のカードを通じてデジタル上の価値を即座に実世界のサービスへと還元できる環境を整えている。この「当たり前の体験」こそが、Web3を特別な用語から、生活を支える決済OSとして社会に定着させるための必須条件となる。オリコのような既存の金融大手がこの潮流に合流したという事実は、デジタル資産と伝統的金融の境界が融解し始めたことを物語っているといえるだろう。

※ガス代とは、NFTの発行や売買などをブロックチェーン上で処理する際に発生する手数料のことで、ネットワークの混雑状況によって金額が変動する

Slash Cardの登場は、日本のステーブルコイン市場が概念実証の段階を終え、実社会への浸透フェーズへ突入したことを意味している。法令遵守と利便性を両立させたこの決済モデルは、Web3と実体経済をより実効性のある形で接続するための重要な試金石となるだろう。デジタル上の価値が、摩擦なく日常の豊かさへと変換される。その確かな手応えとともに、日本の決済風景はより柔軟で強固なものへと書き換えられていくはずだ。