朽ちゆく歴史的建造物を前に、私たちは何を未来に残せるのか。古い蔵の再生に向け、国境を越えた投資家たちが新潟県佐渡市に集結した。彼らを結びつけたのは、ブロックチェーン技術を活用した「DAO(分散型自律組織)」という新たな仕組みだ。利益を追求する従来の投資ではなく、文化を共に守る価値観を共有する共同オーナーたち。デジタル技術が現実の文化財を救う、次世代の保全プロジェクトを追う。(文=MetaStep編集部)
2026年6月、歴史的建造物の保全支援などを行う株式会社Planet Labsは、新潟県佐渡市にある「北條家住宅」にて、国内外の共同オーナーが集結するステイオーバーイベントの開催を発表した。
(引用元:PR TIMES)
同社は日本初(※)の「株式会社型DAO」という枠組みを用い、江戸時代から約350年続く医師の家系である北條家住宅の蔵を、世界中の有志と地域住民で共同所有し、宿泊や体験施設として再生するプロジェクトを進めている。2025年9月に資金募集を開始し、2026年5月時点で世界12カ国から63名の個人投資家が参加。目標株式数に対する充足率は90.1%に達している。
(引用元:PR TIMES)
特筆すべきは、出資者たちが金銭的リターンを求めているわけではない点だ。5月下旬に佐渡を訪れた香港やシンガポールなどの海外オーナーたちは、当事者として北條家の人々や建築士とワークショップを行い、今後のプランについて熱い議論を交わした。彼らの口から語られたのは、「投資というより、文化を守る仲間のためのお金」という想いや、「新築にはない、暮らしの痕跡をそのまま残してほしい」という要望だった。
(引用元:PR TIMES)
綺麗にリノベーションされた観光施設ではなく、ありのままの歴史の価値を求める声に、北條家の関係者も強く心を動かされたという。「朽ちていくのを半ば諦めていた建物に再生の光が見えた」と語るように、海を越えて集まったデジタルの絆が、地方の貴重な文化財を未来へとつなぐ確かな希望となっている。
※日本ブロックチェーン協会 理事およびISO/TC307 国内審議委員の峯 荒夢 氏より、PlanetDAOが、株式会社という法人格を利用し出資を募るインベストメントDAOであり、これが日本で初めての試みとなることを確認。株式会社型DAOとは、DAOのリーガルラッパーとして株式会社を使用するケースを指す、造語
かつての地方創生や文化財保全は、国や自治体の補助金に依存するか、外部資本による画一的なリゾート開発に委ねるケースが多かった。しかし、株式会社型DAOというWeb3の新しい仕組みは、この閉塞した構造を根底から変革するポテンシャルを秘めている。
ブロックチェーンを通じて発行される株式は、世界中に散らばる個人の「応援したい」という想いを束ね、建造物再生の資金として活用する。所有権を分散させることで、参加者は単なる観光客ではなくなる。建物の未来を語り合い、喜びを分かち合う「共同オーナー」としての強い当事者意識を持つようになるのだ。
(引用元:PR TIMES)
さらに興味深いのは、デジタルの仕組みが現実世界にもたらす「価値の再定義」である。海外の投資家たちが求めたのは、綺麗に改修された便利な宿泊施設ではなく、先人たちが生きた「暮らしの痕跡」そのものだった。近代化で自国では失われてしまった古い歴史の息吹を佐渡に見出し、ありのまま維持することに価値を感じている。
この気づきは、日本の地方都市にとって極めて重要だ。私たちが「古くて使い道がない」と諦めかけている建物こそが、世界的な視点で見れば唯一無二の資産になり得る。DAOは、その埋もれた価値に光を当て、国境を越えたコミュニティの共感で守り抜くためのインフラとして機能している。
テクノロジーは、現実から切り離されたデジタルな遊び場にとどまらない。海を越えた人々の想いを可視化し、失われゆく文化財を再生させるための強固な基盤となった。佐渡の蔵から始まった共創の輪は、日本の地域社会を持続可能なものへと導き、世界と地方をダイレクトに結ぶ力強い一歩となるだろう。