人口減少に悩む地方自治体において、定住者を増やすことは容易ではない。そこで注目されているのが、観光以上・定住未満の関わりを持つ「関係人口」の創出だ。しかし、この取り組みを持続可能なビジネスモデルとして成立させるには、資金と人材の壁が存在していた。この課題に対し、長野県の果樹の里がデジタル技術を用いた独自の「住民権」を発行し、新たな経済循環の構築に挑んでいる。仮想の絆を現実の体験へと変える、ユニークな地方創生モデルに迫る。(文=MetaStep編集部)
2026年6月、長野県松川町は株式会社SAGOJOと共同で、NFTを活用した関係人口創出事業「南信州まつかわ『おもしろがりのくに』」を開始した。町制施行70周年を記念したこのプロジェクトは、デジタル技術を用いて松川町とのつながりを可視化・持続化し、新たな地域経済の循環を目指すものだ。
(引用元:PR TIMES)
販売されるNFTは4種類の「住民権」として設定されている。年間1万円から参加できる「たびびと」をはじめ、「おとな住民」「おやこ住民」、そして限定3組の「おやこ住民プレミアム」が用意された。すべての所有者に共通する特典として、年1回の特産品の配送や、企画から関われる限定コミュニティへの参加権が付与される。
(引用元:PR TIMES)
さらに注目すべきは、各住民権に紐づくユニークな体験型の特別特典だ。「おとな住民」は1本のりんごの木のオーナーとなり、手入れから収穫までの過程を楽しめる。「おやこ住民」は年4回のイベントを通じて、森の中に秘密基地(ツリーハウス)を制作。「おやこ住民プレミアム」に至っては、子どもが「1日町長」として町のパトロールやPRを体験できるという画期的な内容だ。
(引用元:PR TIMES)
NFTアートのデザインは人気イラストレーターによる描き下ろしで、購入したNFTは有効期間後も松川町とのつながりのシンボルとして手元に残る。マッチングプラットフォームを運営するSAGOJOが運営を一貫して担い、オンラインと現地の双方で関係人口を丁寧に育てていく構えだ。
今回の松川町とSAGOJOの取り組みが提示する本質的な価値は、関係人口の創出を「一過性のイベント」から、担い手と消費者を兼ね備えた「持続可能なエコシステム」へと昇華させた点にある。
(引用元:PR TIMES)
多くの自治体が関係人口の拡大を目指しているが、参加枠の制限や運営資金の確保といった経済的な持続性が大きな課題となっていた。しかし、NFTというデジタル資産を用いて「住民権」を販売するモデルは、その仕組み自体が運営費を生み出すエンジンとなる。参加者は単なる寄付ではなく、「りんごの木のオーナーになる」「秘密基地を作る」といったワクワクする具体的な体験を求めてお金を払う。仮想空間での帰属意識が、現実世界での消費行動と能動的な参加を力強く誘発するのだ。
さらに、限定コミュニティを通じて参加者同士や地域住民と交流することで、松川町への愛着はより深く、強固なものへと育っていく。彼らは年に数回町を訪れる「熱狂的なリピーター」となるだけでなく、SNSなどを通じて町の魅力を外部へ発信する「自発的なアンバサダー」としても機能するだろう。デジタルの証が、人を動かし、地域に新たな熱量をもたらす強力な触媒となっている。
将来的にリニア中央新幹線や三遠南信自動車道の開通を見据える松川町にとって、この強固な関係人口の基盤は、ふるさと納税の拡大や将来的な移住・定住へとつながる重要な布石となる。地方が抱える人口減少という重い課題に対し、デジタルの力と地域のポテンシャルを掛け合わせたこの挑戦は、全国の自治体が歩むべき持続可能な未来への道標となるはずだ。