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2026.07.06

AIが戦い、守る。DeFiの盾となる専用L2

2025年、暗号資産の盗難被害は34億ドルという巨額に達した。高度化するエクスプロイト(脆弱性攻撃)を前に、人間によるコード監査やバグバウンティといった「静的」な防壁は、もはや絶対的な安寧を保証するものではなくなっている。複雑に絡み合う流動性とアルゴリズムの隙間に潜む、事前に捕捉しきれない動的なリスクをいかにして防ぐのか。この難題に対し、あえてAIエージェント同士を経済的インセンティブの中で競わせ、攻撃と防御をシミュレーションし続けるという論理的な解決策が提示された。

2026年5月14日、一般社団法人Nyx Foundationは、AIエージェント専用のEthereum Layer 2「Eris(エリス)」の開発開始を発表した。知能が知能を試し、強固な金融インフラを自律的に構築する。この新たな公共財の誕生は、Web3の安全保障を根本から書き換える契機となる可能性を示している。(文=MetaStep編集部)

AIエージェントが「戦う」検証場。L2「Eris」とASCONの衝撃

Nyx Foundationが発表したAIエージェント専用L2「Eris」は、従来のパブリックなブロックチェーンとは一線を画す設計思想を持っている。

最大の特徴は、認証付きRPC(リモート・プロシージャ・コール)とエージェント・レジストリにより、人ではなく登録済みのAIエージェントのみがトランザクションを発行できる「Agent-only」環境を構築した点にある。

この閉ざされた、しかし自律的な空間において、Nyx Foundationは定期的な経済コンペティション「ASCON」を開催する。参加者は、収益性を追求する「Trader」、脆弱性を突いて他者を欺く「Hacker」、そして攻撃を事前に検知・回避する「Verifier」という3つの役割を担うAIエージェントを投入する。

特筆すべきは、その継続的な検証プロセスだ。コンペティションで優秀な成績を収めたエージェントは終了後もEris上に常駐し、次回のコンペにおける「仮想敵」として機能し続ける。回を重ねるごとに攻撃の質が上がり、同時に防御の厚みも増していくという、自己進化型のセキュリティ環境が実現するのだ。

また、Erisには市場ショックを意図的に注入する「シナリオエンジン」も備わっている。ステーブルコインのデペッグ(価格乖離)や急激な価格変動、巨大な注文フローなど、平時のテストネットでは再現できない極限状態を擬似的に作り出し、コントラクトの挙動を観測できる。2026年Q4に予定されている第1回ASCONでは、賞金総額3万USDを掲げ、100チームの参加を目指して準備が進められている。

静的監査から動的シミュレーションへ。金融インフラの新たな盾

今回の「Eris」および「ASCON」のプロジェクトが示唆するのは、ブロックチェーンのセキュリティにおける評価軸が、箇条書きの監査レポートから、市場の挙動をダイレクトに可視化する「テレメトリ」へと移行したという事実である。

これまでのセキュリティ対策は、専門家による一度限りのコード確認や、バグを発見した者に報酬を支払うといった断片的なアプローチにとどまっていた。しかし、DeFi(分散型金融)におけるリスクは、単一のコードの誤りだけでなく、複数のプロトコルが相互作用する複雑なフローの中でこそ顕在化する。AIエージェントに実環境に近い経済インセンティブを与え、数千ブロックにわたり継続的に競わせることで得られるデータは、従来の監査では捉えきれなかった「動的な脆弱性」を白日の下にさらすことになる。

この取り組みは、2030年までに2〜16兆ドル規模に拡大すると予測されるRWA(実物資産)のトークン化市場において、不可欠なインフラとなる可能性を秘めている。巨額の資産がオンチェーンで扱われる時代において、金融プロトコルの安全性を「実戦」を通じて担保する仕組みは、機関投資家が参入するための最低限の条件となるからだ。さらに、ERC-8004などの最新のAIエージェント関連規格を、理論上のスペックではなく実運用に近い環境下でテストできる場としての価値も大きいといえるだろう。

2026年、ブロックチェーンのセキュリティは、守るという受動的なフェーズから、戦いを通じて洗練させるという能動的なフェーズへと進んだ。Nyx Foundationが提示した検証基盤は、これからの金融インフラが備えるべき標準的な試金石となるだろう。AIという名の剣と盾が交差するこの場所から、Web3の新たな信頼が形作られていく。その真価が発揮される日は、もう目の前まで来ている。