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2026.05.15

九州を巡る記憶。NFTが変える旅の価値

車窓を流れる九州の山々、駅に降り立ち肌で感じる現地の空気。旅の記憶はこれまで、個人の心にとどまるか、スマートフォンのフォルダに埋もれていく一過性の消費に過ぎなかった。しかし、ブロックチェーン技術が日常に浸透し始めた現在、そのかけがえのない瞬間をデジタルな資産として刻み、地域との永続的な繋がりに変える試みが本格化している。
2026年3月、九州旅客鉄道株式会社(JR九州)が刷新したデジタル基盤「Next Favorite Things(ネクスト フェイバリット シングス)」は、NFTを単なる収集品から、体験を蓄積し続けるインフラへと進化させた。旅の軌跡がデータとして積み重なり、それが新たな価値を生む。その循環は、観光のあり方を単なる移動から「関係性の構築」へと塗り替えようとしている。(文=MetaStep編集部)

思い出をストック。育つNFTの仕組み


(引用元:PR TIMES

JR九州は2026年3月3日、2023年から展開してきた「JR九州NFT」を「Next Favorite Things」へと改称し、機能を大幅に強化した。本サービスの核心は、これまでのNFTを「買う・取得する」という体験にとどめず 、体験の蓄積を軸とした循環型モデルを構築した点にある。

(引用元:PR TIMES

具体的には、観光やイベントへの参加を通じてNFTを取得し、それをデジタル上に思い出として記録する。貯まった記録に応じて限定情報やクーポンなどの特典が付与され、さらなる再訪問を促す仕組みだ。Web3領域に強みを持つConnectiv株式会社の技術を採用し、手に入れたNFTのデザインが変化・成長する機能も新たに搭載。LINE公式アカウントとの連携やソーシャルログインの導入により、専門的な知識を持たない層でも迷わず利用できる環境を整えた。

これまで約20,500個のNFTが発行され、約8,000人が参加した実績を土台に、今回の刷新ではNFTを「体験のログ」へと位置づけ直した。単なる配布景品という枠組みを超え、個人の行動履歴を可視化するこの仕組みは、一回限りの訪問を持続的な関係性へと繋ぎ止める実効性の高い基盤となるはずだ。

(引用元:PR TIMES)2023年7月に開始した「JR九州NFT」にて販売していたコンテンツも再販

関係人口を可視化。旅を資産に変える力

「Next Favorite Things」の始動は、観光産業における価値の源泉を、施設の集客力から「ユーザーとの多層的な接点」へと移し替える力を持っている。

NFTの価値は今、希少性による所有欲の充足から、地域との「接点の証明」へとシフトしている。旅先での体験がブロックチェーン上に刻まれ、その厚みに応じて特別な権利が得られる環境は、一見の観光客が地域を支える継続的なファンへと変質する契機となるだろう。デジタル技術を介して旅の記憶を資産化するこのプロセスは、人口減少が加速する地方において、関係人口を固定化させるための極めて実効性の高い戦略となるはずだ。

また、鉄道、宿泊、商業など多様な分野の体験を一つの基盤で統合することは、地域の魅力を重層的に伝え、自発的な再訪を促す強力な動機付けにもなる。九州全域、さらには他社とのコラボレーションまでを見据えたこの取り組みは、単なるプロモーションの域を超え、地域経済を循環させるための知的なインフラとして定着していくのではないだろうか。JR九州が提示したモデルは、地域が自らの価値を再定義し、ユーザーとの深い絆を維持するための新たなデジタル戦略の標準となっていく可能性を秘めているといえる。

デジタル上に蓄積された「自分だけの旅の記録」は、単なる思い出の保存にとどまらず 、再び九州を訪れるための確かな動機付けとなるはずだ。体験を重層的な価値へと変容させるこの挑戦は、観光DXの実務的な先行事例として、地域経済を循環させるための不可欠な力となっていくことだろう。