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2026.04.17

文化財を仮想空間に出現させる、百貨店と大学の挑戦

由緒ある茶室ににじむ静寂や、ステンドグラスから差し込む柔らかな光。大学のキャンパス内にひっそりと佇む貴重な文化財は、本来なら学生や関係者しか足を踏み入れることのない空間だ。しかし今、その閉ざされた扉が、メタバースの力で世界に向けて開かれようとしている。
物理的な制約を取り払い、歴史的な資産を誰もが体験可能にする試みが、意外な企業の主導で形となった。老舗百貨店が大学とタッグを組み、登録有形文化財をメタバース空間に完全再現したプロジェクトは、伝統文化の継承と次世代のコミュニケーションにおける新たな可能性を提示している。(文=MetaStep編集部)

登録有形文化財「竹立庵」をVRChat上に完全再現

2026年3月10日、メタバース事業を積極的に展開する株式会社大丸松坂屋百貨店は、大手前大学と協働でVRChat内に「大手前大学バーチャルキャンパス」を制作し、公開したと発表した。

(引用元:PR TIMES

このプロジェクトの目玉は、学校法人大手前学園が所有する登録有形文化財の茶室「竹立庵(ちくりゅうあん)」を仮想空間に再現した点にある。京都久田家3代宗全の茶室の写しと伝えられる実物の持つ雰囲気や趣をデジタル上で緻密に表現し、日本のアイデンティティに触れる入り口を創出している。

(引用元:PR TIMES

キャンパス内は「竹立庵」のほかに「講義スペース」と「交流スペース」の3区画で構成される。開放感あふれる講義スペースにはスクリーンが設置され、教員や学生が自由にプレゼンテーションを行える設計だ。交流スペースには、阪神・淡路大震災からの復興の象徴として学内に実在するステンドグラスのモチーフが取り入れられている。

(引用元:PR TIMES

単なる空間の提供にとどまらず、大丸松坂屋百貨店が持つ「伝統文化のメタバース化」の成功事例をケーススタディとし、先端技術と実社会の課題を融合させたコンテンツ企画に関する実践的な教育も学生へ提供していくという。

すでに3月下旬には、実際のキャンパスで開催されるオープンキャンパスと連動した「バーチャルオープンキャンパス」が実施された。遠方に住む高校生や保護者が自宅からアバターで参加し、現役学生とフラットな環境で対話するなど、物理的な距離を超えた交流が実現している。

デジタルアーカイブが紡ぐ、新たな文化交流の場

このプロジェクトが示す事実は、メタバースが単なる「娯楽空間」から「歴史的資産の保存と発信のインフラ」へと進化しているということだ。

近年、老朽化や維持コストの問題で、貴重な文化財や歴史的建造物の存続が危ぶまれるケースが少なくない。今回のような高精細な3Dモデルによるデジタルアーカイブ化は、建物の形を記録して後世に残すだけでなく、そこに世界中の人々を招き入れることを可能にする。距離や時間の制約を超えて伝統文化に触れる機会を生み出し、新たな価値を創造する有効な手段となる。

また、百貨店という「モノを売る」企業が、大学のメタバース空間をプロデュースしている点も興味深い。大丸松坂屋百貨店は、この空間を起点に学生による芸術や建築デザインなどの創作活動を発信する場を創出し、共通の興味でつながる「文化交流コミュニティ」の形成をサポートしていくという。

ただシステムを納品して終わるのではなく、空間を通じた「コミュニティの醸成」に伴走していく、そんな次世代のビジネスモデル。歴史的な資産をデジタル空間でよみがえらせ、そこに多様な人々が集い、知的好奇心を刺激し合う。伝統と先端技術が交差するこのアプローチは、文化の継承やコミュニティ形成を模索する企業や自治体にとって、ヒントとなるはずだ。