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2026.04.27

「作る×語る」で学びは深化する【連載】「教室を飛びこえて」第3回

教育現場のWeb3・メタバース活用事例を紹介する当連載。今回のテーマは、メタバースプラットフォーム「cluster」でのワールド制作です。高精度なバーチャル空間を手軽に作れる現在。だからこそ「作って満足」で終わらせない工夫が教育現場での活用には必要となります。

今回紹介する青翔開智中学校・高等学校では、メタバースでの表現を追求する過程で、他者の視点や意図を読み解き、新しい発想を生み出す教育を進めています。
単なる作業を「深く考える学び」や「他者とのコミュニケーションを通じて深める学習」へと進化させる。その考え方を知るべく、クラスター社の佐久間楓さんより、同校の池田夏暉先生にお話を伺いました。(リード文・編集=MetaStep編集部、本文=クラスター 佐久間楓さん)

※併せて読みたい:【連載】あなたの知らないクラスターの世界 ~青翔開智中学校・高等学校 編

青翔開智中学校・高等学校 社会科主任
池田夏暉 先生(アフロッティ先生)

天然のアフロヘアーをトレードマークに、深い知識と独創的な授業で生徒を歴史の世界へと引き込む。テーマをもとにクラス全体で価値観や考えを共有しながら、日常の当たり前の背景にある歴史を探究する授業を展開している。近年は生成AIやVR、メタバースなどの先端技術を教育に活用し、生徒の探究活動や課外活動を支援している。座右の銘は「ミッション・パッション・ハイテンション」。

バーチャル空間を活用した授業で生徒たちの理解度が深まる

青翔開智中学校・高等学校 社会科主任と学校設定科目「STEAM(※)」担当の池田夏暉先生はこれまで数々の授業でclusterを活用してきました。そんな先生が、直近で取り組んだ事例は、高校1年生の「生物基礎」でバイオーム(生物群系)を扱う授業での活用でした。バイオーム(生物群系)とは、特定の気候(気温・降水量)や環境に適応した植物・動物などの生物集団のまとまりのこと。生徒たちはバイオームについて情報を調べ、その特徴をメタバース空間上に表現する活動に取り組みました。
(※)STEAM=科学・技術・工学・芸術・数学を横断して学び、課題解決と創造力を育てる教育

cluster上で表現された「メタバースバイオーム」

授業は全4コマ構成。1コマ目に生物の担当教員がバイオームの基礎的なレクチャーを受け、2コマ目に各自が担当するバイオームの情報を収集。3・4コマ目にチームティーチングとしてSTEAM担当の池田先生も入り、集めた情報をもとにcluster上でバイオームを表した空間を生徒が制作し、最後に発表という流れです。

「単に知識を整理するだけでなく、『生物が生きる環境をどう空間として表現するか』を考えることで、生徒たちが理解を立体的に深められる授業になったと感じています」と池田先生は振り返ります。バーチャル空間を使って立体的に表現するというアウトプットのプロセスを授業に組み込むことで、知識の定着につながると先生は実感しています。

※生徒が制作したワールドはこちらから体験可能(cluster内)

「発表・対話」のプロセスをセットで設計することが重要

授業を行う中で、特に生徒の反応が大きかったのはclusterのワールドクラフト機能で空間をつくる場面。生徒たちは当初、ボクセルのようなシンプルな表現を想像していたようですが、実際には比較的高解像度の動物の3Dモデルも配置できると知り、驚きの声が上がったといいます。

 青翔開智中学校・高等学校 社会科主任 池田夏暉 先生(アフロッティ先生)

また、発表の場面では単なる作品紹介にとどまらない学びが生まれています。

「それぞれの生徒が『なぜこの配置にしたのか』『どういう意図でこの動植物を置いたのか』を互いに想像しながら発表を聞いており、表現の背景を読み取ろうとする姿が見られました。空間をつくる活動でありながら、同時に他者の視点や意図を読み解く学びにもつながっていたのが印象的でした」と池田先生は話します。

メタバースを教育現場で活かすなら、「作ること」と「語り合うこと」をセットで考えるのが一番のポイント。せっかくバーチャル空間を作っても、ただ完成させて満足してしまってはもったいない。

池田先生の授業のように、作った空間を披露する場をつくったり、その空間をもとに意見を出し合ったり。そんな「対話」のひと工夫があるからこそ、単なる作業が「深く考える学び」や「他者とのコミュニケーションを通じて深める学習」へと進化するといえます。

技術の進化が授業づくりの可能性を広げる

今回の授業で池田先生が驚いたのは、制作技術の進化でした。授業では、著作権フリーの2D画像から、その土地に住む動物たちをAIで3Dモデル化する試みが行われました。さらに、空間が重くならないよう5,000ポリゴン以内に整えてデジタル空間に取り入れます。かつて、こうした一連の作業は難易度が高く、「学校で気軽に挑戦できること」ではなかったはず。

しかし今、その高いハードルは過去のものとなり、生徒たちの自由な学びにしっかりと結びついています。

「メタバース空間自体は2年前には学校現場で手軽に扱えるものではなかった印象があります。それが今では、生徒の学びに接続できる形で活用できるようになっており、技術の進化が授業づくりの可能性そのものを広げていることに驚きました」と池田先生は目を輝かせました。かつては諦めていた表現が、今や子どもたちの手の中で形になろうとしています。

「素材がない」「技術がない」という理由で授業におけるメタバース活用をためらっていた先生にとっても、今が始めやすいタイミングなのかもしれません。

メタバースの特性を生かす。探究学習での試み

今年度から池田先生が新たに取り組んでいるのが、高校2年生が「総合的な探究の時間」で取り組んでいる、1人1テーマの課題研究へのアプローチ。「地方の博物館における教育格差」という社会課題に着目し、clusterを活用した展示づくりに取り組んだ生徒がおり、池田先生はこの生徒の研究のサポートを行いました。


(引用:高校生が挑んだ地方博物館の教育格差_バーチャル空間で実現する、博物館の新たな教育普及活動の形

「メタバース空間を単なる鑑賞の場として使うのではなく、メタバースならではの価値を探究して形にしていたと感じています」と先生は静かに語ります。

今回の実践のインタビューを通して、筆者が強く心を動かされたのは、生徒たちがメタバースを単なる「きれいな展示会場」として終わらせなかったこと。

あえて「バーチャル空間で疑問を生み、現実の展示を見に行きたくなる流れ」の設計。実際に、メタバースを体験した後の来場者が、常設展示をより熱心に眺めたり、学芸員へ質問を投げかけたりする姿が数多く見られたようです。

また、別の生徒は「身体性」というメタバースの特性を、ユニークな実験に結びつけていました。読書体験の探究において、物語の曖昧な描写をヘッドセット越しに「動き」として数値化。読書好きな生徒とそうでない生徒の間で、イメージの具現化にどのような差が出るかを可視化しようと試みたのです。 「どこまで情景をイメージできているか」を言葉の感想ではなく、空間内での「動き」から捉えようとする発想。これはまさに、メタバースという舞台があってこそ、生まれた新しい問いの形だと思われます。

「単に新しい技術を使うのではなく、その特性が探究の問いとどう結びつくかを考える生徒が増えてきたことを感じています」と池田先生は手応えを口にします。

身体性を伴うメタバース空間を、他者が観察できる表現・計測のツールとして活用するこの発想が高校生から生まれているという事実は、メタバースの活用が、探究・研究の場として新しい可能性を持つことを示しています。

「やりたいことを実現する」手段に、メタバースが選ばれ始める

池田先生がclusterを活用した学びを実践することで最近特に手応えを感じているのは、課外活動でアイデアを出す際、生徒たちの口から「メタバースを使ってみよう」という言葉が、ごく自然に出てくるようになったこと。

かつては「特別な技術」や「限られた人のもの」と捉えられがちだったメタバース空間。しかしそれは、生徒たちにとって自分の想いを形にするための「当たり前の選択肢」のひとつになりつつあります。「やりたいこと」を実現するための道具としてメタバースが定着し始めた事実に、池田先生は大きな手応えを感じています。

その主体性が結実した、象徴的なエピソードがあります。地元・鳥取の「民藝」の魅力を小学生に伝えたいと考えたある生徒の実践です。

その生徒は、どうすれば若い世代に民藝を身近に感じてもらえるかを悩み抜き、「民藝×VR脱出ゲーム」というユニークな空間を自ら作り上げました。3D空間を冒険しながら、遊びの中で民藝の良さに触れてもらう。中学生が自ら発想し、形にしたその空間には、単なる知識の伝達を超えた「どうすれば相手に届くか」という相手への思いやりも感じられました。


(引用:【課外活動】民藝×VRで謎解き脱出!中3・濵口さんがメタバース空間で伝統文化を用いた新しい体験を作りました!

「メタバースを使うこと」が目的ではなく、「やりたいことを実現する手段」として選ばれるようになった状態は、ツールが現場に本当に根付いたサインだと筆者は考えています。この変化が生まれた背景には、先生が生徒一人ひとりに合わせて学びを提供し続けてきたことが大きく影響しています。     

池田先生の眼差しは、すでにメタバースの「その先」を捉えています。次に形にしたいと考えているのは、バーチャル空間でのアクションが現実世界の機器や場所に影響を与える、リアルとデジタルの融合です。

「メタバースは単なる表現の場で終わるのではなく、現実とつながる実験や探究の場にもなり得ると感じています」と池田先生は語ります。もし、この現実とつながる場が実現すれば、生徒たちの学びは「仮想空間で学ぶ」というフェーズから、「仮想空間を通して現実を動かす」という全く新しい次元へと進化するでしょう。

メタバースが、現実世界をより良くするためのシミュレーターとなり、変革の起点となる未来。そんな壮大な構想が、着々と形を成そうとしています。

メタバースで、教室の外へ学びを広げる

最後に、メタバースの活用を検討している先生方へのメッセージを聞きました。
「メタバース空間には、まだまだ大きな可能性があると感じています。特に学校現場では、知識を覚えるだけでなく、表現する、共有する、体験するといった学びに広げやすい点が大きな魅力です。最初から完成度の高い実践を目指さなくても、生徒と一緒に試しながらつくっていけるのも良さだと思います。実際に使ってみると、『こういう授業にも使えるかもしれない』『この生徒の探究テーマに合うかもしれない』と発想が広がっていきます。まずは小さく始めてみることで、教室の外へ学びを広げる手応えを感じられるのではないでしょうか」

「完成度よりも、まずは試してみること」この言葉はメタバース活用に踏み出せていない先生方への何よりの後押しになるのではないでしょうか。

編集後記

今回の取材を通じて印象的だったのは、clusterが教育現場において、生徒が「やりたいこと」を実現するための手段として自然に選ばれるようになってきているという変化です。技術を使うことが目的ではなく、学びたいこと・伝えたいことから出発して、その手段としてclusterが機能しています。そのような使われ方こそが、教育現場における本質的な活用の姿ではないかと、筆者として感じています。バーチャルと現実をつなぐ次の実践にも、引き続き注目していきます。

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