1月の冷たい風の中、窮屈な正装で整列し、長時間の式辞に耳を傾ける――。それが、私たちが共有する日本の「成人式」の原風景かもしれない。しかし2026年1月、その常識を軽やかに飛び越えるイベントが開催された。ソーシャルVRプラットフォーム「VRChat」で行われた「メタバース成人式」だ。
主催したのはIT企業ではなく、長年にわたり和装文化を発信してきた株式会社TeraDox。伝統的な振袖を扱う企業が、物理的な制約から解き放たれたデジタル空間で仕掛けたのは、単なるイベントのオンライン化に留まらない。それは、人生の節目を祝う「体験そのもの」の再定義だった。(文=MetaStep編集部)
(引用元:PR TIMES)
2026年1月10日と13日の2日間、VRChat上の特設ワールドにて「Kimonowa メタバース成人式 2026」が開催された。この試みを主導したのは、「My振袖.com 」などのポータルサイト運営で知られるTeraDox社だ。リアルの着物市場に深く根ざした企業が、アバター文化の中心地であるVRChatへ参入した背景には、成人式という文化行事が直面している変化がある。
成人年齢の引き下げやライフスタイルの多様化により、地元の式典に参加しない、あるいは参加できない若者が増えている。同社はこうした現状に対し、リアルな式典の「代替」ではなく、全く新しい「選択肢」を提示した。
会場となったのは、この日のために制作された、和モダンをテーマとした専用ワールドだ。そこには、きらびやかな3D振袖「MyFurisode 2026」などをまとったアバターたちが集った。
(引用元:PR TIMES )
特筆すべきは、その参加資格の広さだ。年齢、性別、居住地といった現実世界の属性による制限は一切設けられなかった。「今年新成人を迎える人」はもちろん、「過去に成人式に行けなかった人」や「もう一度祝いたい人」まで、祝う意志を持つすべての人に門戸が開かれた。
イベントでは、主催者による挨拶や記念写真の撮影といった、現実の成人式が持つ「儀式としての厳かさ」を踏襲しつつも、物理法則に縛られないバーチャルならではの自由な交流が行われた。厳粛さと祝祭感が同居するこの空間は、参加者に対し、現実の公民館やホールでは得られない没入感のある「ハレの日」の体験を提供したようだ。
今回の取り組みが示唆するのは、メタバースが文化行事の新たな「受け皿」として機能し始めたという事実だ。
これまでの成人式には、見えない「参加の壁」が存在していた。地元を離れて疎遠になった人、対人関係に不安を抱える人、あるいは身体的な事情で外出が困難な人。そして、既存のジェンダー観に基づく服装(男性は袴やスーツ、女性は振袖といった固定観念)に抵抗を感じる人たち。リアルな成人式が構造的にこぼれ落としてしまっていたこれらの層に対し、アバターという「なりたい自分」で参加できる場を用意したことの社会的意義は大きい。
(引用元:PR TIMES )
また、伝統文化の継承という観点からも興味深い。若者の着物離れが叫ばれて久しいが、メタバース上では「3D衣装としての和装」が高い人気を誇っている。デジタルネイティブ世代が、アバターを通じて振袖の美しさや「装う楽しさ」に触れることは、結果として伝統文化への関心や敬意を育む入り口になり得る。伝統産業が守るべきは「布としての着物」だけではなく、「装いで節目を祝う」という精神文化そのものであるということを、今回のイベントは証明したと言えるだろう。
TeraDox社は今後、この取り組みを単発で終わらせず、自治体や教育機関との連携をも視野に入れているという。自治体からの案内状に「市民ホール会場」と並んで「メタバース会場」のQRコードが記載される。そんな未来は、そう遠くないのかもしれない。場所や形式、肉体という制約を超えて、純粋に「成長を祝い、祝われる」という気持ちを共有する。メタバース成人式が提示したのは、テクノロジーによって優しくアップデートされた、新しいコミュニティの形だった。