1. MetaStep TOP
  2. ビジネス活用を学ぶ
  3. 【JapanStep Focus】Japan Branding Awardsから考察する 新・ブランド戦略論

日本企業がステップするために必要なトレンドを紹介する「JapanStep Focus」。本記事は、JapanStepのパートナー企業であるインターブランドジャパン全面協力のもと「ブランディング」をテーマにした連載の1回目を掲載する。インターブランドは1974年にロンドンで設立。50年を超える歴史あるブランディングコンサルティングファーム。その日本法人であるインターブランドジャパンが主催する「Japan Branding Awards」はブランディングを評価する日本初のアワードで、優れたブランディングを行う企業や団体の事業・サービス・製品を評価するものだ。

Web3、メタバース、ロボット、AI…あらゆる産業において「ブランディング」は、企業の成長を支える重要なエンジンだ。ブランド戦略にこれまで興味を持たなかった方も、是非最新のブランディングの潮流を学ぶヒントとしてほしい。

グローバルと日本の差は「変化への対応力」予測不可能な時代のブランド戦略とは

ブランドは生き物だ。変化に強いブランドだけが生き残る。コロナ禍を経て、取り巻く環境が激変し、先行き不透明な状況にあることが背景だからこそ、ブランディング戦略は大きく変革する必要がある。こうした背景を受け、2018年に当社が設立した「Japan Branding Awards」が2024年に大幅アップデートされた。評価指標(クライテリア)を根本から見直し、企業様同士がブランディングという共通軸で学び合うプラットフォームとしての真の役割を果たすことを目指した。

アップデート初年度にあたる「Japan Branding Awards 2024」の審査・表彰を終え、本連載では、本アワードを通じて見えた、新たなブランド戦略のあり方を考察していく。第1回は、インターブランド CEO & President ゴンザロ・ブルーホと、インターブランドジャパン シニアエグゼクティブディレクター 佐藤 紀子が、世界で勝つブランドの傾向、日本企業の課題と活路について語り合った。

25年間でブランド価値金額総計は約3.4倍に増加

佐藤 「Japan Branding Awards」を語る上で、インターブランドがグローバルで展開しているブランド価値評価ランキング「Best Global Brands」から、グローバルにおけるブランディングの現在地を考察していきたいと思います。「Best Global Brands」は、顧客に提供する価値だけでなく、現在はもとより未来の社会に対する役割なども加味して評価し、そのブランドが持つ価値を金額に換算しランキング化したものです。2000年から開始し今回の2024年で25回目となります。この25年で2001年の9,883億ドルから2024年の3.4兆ドルへ、ブランド価値金額総計は約3.4倍に増加しています。ブランドをコストセンターとしてではなく、戦略的資産として活用することで、消費者を魅了し市場を変革していく。ブランディングの重要性が高まっていることが数字からもわかります。

インターブランドジャパン シニアエグゼクティブディレクター 佐藤 紀子 氏

ゴンザロ・ブルーホ ブランドが企業イメージだけでなく、収益や競争力につながるという認識は広がってきましたね。企業が顧客との関係を深く追求するプレシジョンマーケティングに注力している成果が出ているのだと思います。一方で、詳細分析によりこの25年間に3.5兆円の未実現価値があったことも明らかになりました。ブランディングは、一度成功していたからといって、永続的に結果が保証されるわけではありません。変化が激しい時代だからこそ、企業ブランドは常に生まれ変わることが必要なのです。

Interbrand CEO & President Gonzalo Brujó(ゴンザロ・ブルーホ) 氏

佐藤 「Best Global Brands 2024」で最も成長したブランドはFerrari(62位)でした。企業視点、カテゴリーの発想ではなく、生活者視点、ニーズ発想への転換を実践している点が高く評価されました。

ゴンザロ・ブルーホ Ferrariは自動車分野の枠を超え、ファッション、eスポーツ、テーマパーク、レストランなど多様な市場で消費者に対し、新たなブランド体験を提供しています。ブランド価値を高めていくためには、1つの市場だけでなく、あらゆる市場にブランドを広げていくことが大切です。また、AIをはじめとするインテリジェント関連のディスラプション(革新的変化)が加速するテクノロジー分野、EVによる大変革が進む自動車分野においてブランド価値が向上しています。両分野では、中国企業の台頭が目立っている点も特徴です。

大企業こそアントレプレナー(起業家)的発想が必要

佐藤 「Best Global Brands 2024」において、トップ100にランクインしている日本企業は少数でした。なぜ、日本企業のブランド価値が低いのか。要因の1つは、日本企業の多くが目標達成を目指し手段を講じるコーゼーションの考え方を採用しているということです。将来を予測し、そこに対して自社のケーパビリティを合わせていくアプローチは、不確実性の時代には適していません。地政学的状況やAIといった技術革新などにより予測が覆るからです。予測ではなく、今あるリソースを活用し将来をコントロールするエフェクチュエーションの考え方への転換が、日本企業に求められています。大企業こそ、アントレプレナー(起業家)的発想が必要だと思います。

ゴンザロ・ブルーホ 1980年代、日本は最大の輸出国であり、世界で勝てるブランドでした。私は、日本企業は長いトンネルを抜けて復活できると思っています。世界経済フォーラム年次総会「ダボス会議2025」では、AI革命によるインテリジェント時代がテーマとなりました。日本は、技術の世界において市場を席捲できる力があると考えています。しかし、課題もあります。日本企業の意思決定は迅速になされていません。消費者は、新たな価値を見出せなければ、魅力的なブランドに移っていきます。インターブランドは、「Best Global Brands」、日本発のブランドを対象としたブランド価値ランキング「Best Japan Brands」、インターブランドジャパンによる、ブランディングの取り組みを評価する日本初のアワード「Japan Branding Awards」を通じて、日本企業にデータやインサイトを提供していきます。今後も、日本企業の成長を支援する体制を強化していきます。

佐藤 インターブランドのカウンターパートは、CMO(チーフ・マーケテイング・オフィサー)や実務者だけでなく、企業の意思決定者である経営トップです。コーゼーションからエフェクチュエーションへの転換は、現場の声だけでは実現できません。トップの強い意志とメッセージが必要です。ポイントは、アントレプレナーのように、トップの顏が見えるということ。多くの日本企業は、トップの顏が見えにくく、メッセージの発信力も弱いと思います。日本企業に対し、インターブランドで力を入れているのは、経営トップのブランディングです。日本企業のリーダーシップを可視化することで、ブランドの進化、マーケットでの体験の変化、収益向上につながるスパイラルをまわすことができると考えています。インターブランドは、画期的なサービスや製品を生み出す非連続な事業会社に対し、非連続な意思決定に寄与します。

グローバルと日本で差がつくのは「変化への対応力」

佐藤 インターブランドジャパンだからできる、日本企業に対する取り組みの1つが「Japan Branding Awards」です。ブランド価値ではなく、ブランディングに対する日本企業の活動を評価するものです。2018年の設立以降初めてクライテリアをアップデートしました。従来の経済指標以外に、社会課題解決への貢献や変化への対応力を加えました。変化への対応力とは、新製品ローンチ、新しいチャネルへのトライ、新技術採用、イノベーションによる新しい顧客体験の創造など、変化を止めずに取り組み続けることです。ブランドは生き物です。お客様の価値観や行動によってブランドは変わります。「企業ブランドは生まれ変わっていく必要がある」と、先ほどブルーホから指摘がありました。グローバルと日本で差がつくのはまさに「変化への対応力」にあると思っています。

Japan Branding Awards 2024授賞式ダイジェスト動画

ゴンザロ・ブルーホ 受賞企業は、歴史ある企業からベンチャー、環境保護や地方創生をテーマとする企業までバラエティ豊かなブランドが集まりました。共通点は、時代の変化を見据え、チャレンジしていることですね。

佐藤 コスメティックブランドSHIROは、新工場を中心に創業地である北海道砂川市のまちづくりの取り組みを行っています。サステナブルソリューションを提供するスペックのKAMIKATZブランドは、環境保護などを軸にクラフトビールブランドを立ち上げました。環境保護への参加意欲の喚起に加え、地域とのつながりや地方創生の実現につながる取り組みを評価しました。重視したのは、セオリー通りにしないといったパイオニア精神です。また体験をどれだけ落としこんでいるか。社会的意味合いはどれくらいあるか。それらが第三者にもわかるという点を評価しました。

ゴンザロ・ブルーホ 過去の成功体験が大きい企業ほど、レガシーから抜け出すことが難しいと思います。今回は、業界を牽引する企業のチャレンジもありました。

佐藤 花王のBioréは、コロナ禍を経てあるべき姿を見直し、新たなパーパスをアジャイルに取り入れ、既存市場の変革に挑み、事業成長につなげています。アシックスのASICSブランドは、「人生100年時代」を迎える中で創業理念に立ち返り、心と身体の健康実現に向けたブランド構築、顧客理解と関係深化に取り組んでいます。成功体験にとらわれることなく、現状を正しく捉え、創業時から大切にしている理念や歴史と「変化に対応する力」を融合することで局面を打開できることが、今回の受賞ブランドからも見えてきます。

日本企業のトランスフォーメーションプラットフォームの“場”に

佐藤 先行きが見えくい時代では、企業が自らの立ち位置や存在価値を、ブランドを通じて示すことを求められます。インターブランドは、マーケティングのパートナーではなく、経営変革のパートナーになりたいと思っています。従来の企業イメージを象徴するブランドから、収益を生み出すブランドへのシフトは、日本企業が暗闇から脱する道標となります。ブランド価値をいかに向上するか。日本企業同士の情報共有・意見交換も大切です。Japan Branding Awardsは、単なるアワードではなく、ブランディングの可能性を信じる日本企業のトランスフォーメーションプラットフォームの“場”としての役割を担うものです。名称にインターブランドを付けなかったのも、当社はあくまでもお手伝いするだけ。主役は受賞ブランドであり、ブランディングに取り組む企業です。他社から学び、さらなる高い目標に向かってチャレンジし続けるきっかけになればと思っています。

ゴンザロ・ブルーホ ブランディングは、差別化を図るうえで重要なレバーです。また財務の観点でも、ブランド価値は株価に影響を与えます。時代が変化する中、従業員、お客様を含むステークホルダーとの関係をいかに構築していくか。経営戦略としてブランドの果たす重要性はますます高まっています。日本企業は、今こそブランドをアップデートするべきです。かつての栄光ではなく、現在と未来を切り開いていく新しいブランディングで、「変化をチャンスに変える」ことができます。

佐藤 まさにその通りです。当社としては、まさに「変化をチャンスに変える」ご支援をしていきたいですし、「Japan Branding Awards」から多くのモデルケースが生まれることを願っています。

本連載のVol.2以降は、インターブランドジャパンの特設ページでご覧いただけます。

JBA2024連載コラム「Japan Branding Awardsから考察する 新・ブランド戦略論」

【Vol.2】「Japan Branding Awards 2024」GOLD受賞企業が語る(前編) 「破壊」と「再構築」でブランドが育つ

【Vol.3】「Japan Branding Awards 2024」GOLD受賞企業が語る(後編) ステークホルダーをいかに巻き込むか

【Vol.4】ブランディングに求められるのは柔軟で解釈の「余白」を持たせた新しいアプローチ

●関連記事

【JapanStep Focus】「Japan Branding Awards 2024」から紐解く今“ブランディング”に求められること(前編)

【JapanStep Focus】「Japan Branding Awards 2024」から紐解く今“ブランディング”に求められること(後編)

今こそ「ブランド」で勝つ ~ キーワードは「アンプリファイ(増幅)」