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2025.02.26

【最終回】今こそ「サービス」の本質を知ろう《第5回》デジタルサービスマネジメント~デジタル技術を手段としてデジタルサービスによるビジネスをスケールさせる

DIG2ネクストの鈴木寿夫社長に「サービス」や「サービスマネジメント」の本質について、教えていただいた本連載もいよいよ今回が最終回です。

最終回は、デジタルサービスにおける製品(モノ)とサービスの関係などを解説いただきます。では鈴木社長、よろしくお願いいたします。

DIG2ネクスト株式会社 代表取締役 鈴木 寿夫

1993年に日本ディジタルイクイップメント(現日本HP)入社。2007年に日本人第1号として「ITIL V3」のエキスパート認定資格を取得。2008年12月に同社設立。デジタルサービスマネジメント(VeriSM)、マルチサービスプロバイダエコシステムの統合管理(SIAM)の講師と企業向けのサービスマネジメントやDXに関するコンサルティングに従事し、豊富な経験と知見を持つ。

この連載もいよいよ今回で最終回となります。この連載を通じて、「サービス」の本質を再認識していただき、サービスの特性など製品(モノ)と異なることも理解いただけたのではないかと思います。

そして、従来の製品(モノ)を中心とした思考では、サービスは製品に付属するものと考えられてきました。例えば、アフターサービスのように製品を販売した後に、修理や点検もしくは問合せ対応などを「サービス」として提供するという考え方です。

つまり、まず製品(モノ)があり、その製品(モノ)に対してサービスがバンドルされる「製品+サービス」というイメージです。

しかしながら、時代が進化して「サービスに製品(モノ)が組み込まれる」といったサービスを主体とした考え方が非常に重要になってきています。これをサービス・ドミナントロジック(SDL)といいます。

今回は、この考え方についてデジタルサービスのケースで考えてみたいと思います。

デジタルサービスにおける製品(モノ)とサービスの関係

デジタルサービスを利用するためには、スマートフォンやVRデバイスなどのデジタルデバイスが必要となります。このデジタルデバイスは、製品(モノ)という位置付けになります。ただし、この製品(モノ)が手元にあったとしても、「使用価値」を得るためには何らかのサービスが必要ということは理解できると思います。

これは、コンピュータハードウェア(PCやゲーム機)とソフトウェア(アプリケーションやゲームソフト)の関係性に似ています。

デジタルデバイスとデジタルサービス、もしくは、ゲーム機とゲームソフトの関係性は、シナジー効果を生みだします。新しいゲーム機を購入すればゲームソフトが売れる、逆にある人気のゲームソフトで遊びたいから、ゲーム機を購入するという相乗効果(シナジー)があるのです。これはデジタルデバイスとデジタルサービスの関係性もしかりです。

では、この関係は「製品(モノ)+サービス」という位置付けでしょうか? 違いますよね? デジタルデバイス(製品(モノ))を設計、製造、販売して、その製品に関連(依存)したサービスがバンドルされる訳ではないからです。

ここでは、VRデバイスのケースで考えてみましょう。想像してみてください。VRデバイスをコレクションするマニアでない限り、VRデバイス単体を購入して満足する人はいないでしょう(VRデバイスだけでは何も価値を生みません)。VRサービスを利用するために、VRデバイスを購入するという思考が一般的だと考えられます。どちらかと言えば、VRデバイスはVRサービスを利用するために必要な付属品のようなイメージです。

つまり、主体はデジタルサービスであるVRサービスになっているということです。

デジタルサービスマネジメントが重要な理由

この連載では、過去に次のようなトピックスをお話しています。

■「《第2回》メタバースにおける「サービス志向」の重要性」では、消費者体験(CX: Consumer eXperience )を考慮したサービス設計が不可欠であること

《第3回》競争優位性を生みだすサービスマネジメント」では、サービスの品質や価値をマネジメントしなければいけないこと

デジタルサービスは、単なるアナログからデジタル化といったデジタル技術による改善の話ではありません。デジタル技術(AIやロボティクスなどの新興技術)を利用した新たなイノベーションによるデジタルサービス化(デジタルサービス事業)によって、デジタルサービスが人々の日常生活に浸透し、生活をより快適で豊かなものにすることができるようになるものです。ここでは、デジタルサービスが主体となります。

そして、日常生活でデジタルサービスを当たり前のように使う世の中では、デジタルサービスを使用している消費者(ユーザー)が、そのサービスから得られる使用価値と品質を認識します。その使用価値が低く、品質や消費者体験(CX)が悪ければ、すぐに悪い評価がSNSで拡散してデジタルサービス事業に悪影響を及ぼします。

逆に、高く評価されたデジタルサービスは、SNSで瞬く間に広がりデジタルサービス事業に良い影響を及ぼします。

したがって、デジタルサービスの品質と価値をマネジメントする仕組みをデジタル組織が保持していなければならないのです。そして、デジタル技術を手段としてデジタルサービスを世界にスケールさせるためには、変化や拡大に柔軟に適応できる強くしなやか(強靭)なサービスマネジメントの仕組みが不可欠となることは、理解するのに難しくないと思います。

ということで、これまで5回にわたって連載させていただいた『今こそ「サービス」の本質を知ろう』は、ここまでとなります。ありがとうございました。

おわりに~モノを設計する場合でもサービスとしてデザインする

製品(モノ)を設計する場合に、機能性(多機能)や製造コストなど作り手の観点で「製品(モノ)が売れる時点」をゴールとしがちです。つまり、「多機能な新製品を考えれば消費者は購入してくれる」、「製造コストをいかに抑えて利益を出すか」というのは、製品(モノ)が売れて利益がでることに着目して、購入後に消費者が使用する体験までを設計していない場合もあります。

最近スーパーで販売されている「お寿司」のお弁当は、すべて「さび抜き」でワサビとガリが個包装で付いていることがほとんどです。製造者や販売者の観点では、「さび抜き」と「さび有り」をそれぞれ製造・販売すると、売れ残りや欠品のリスクもありますので、全てを「さび抜き」にしておけば効率的であると考えて設計されていると思いますが、消費者である私からすると、やっぱりお寿司はネタとしゃりの間にツンとしたわさびがのっているものを食したいなぁ、消費者体験が下がっているのではないかなぁと感じてしまいます。

ただ、わさびを個包装にした方が、わさびの風味が損なわれないというメリットもあるようで、やはりスーパーのお寿司のお弁当に対する期待値を下げて、美味しいお寿司を食する体験は、お寿司屋さんに期待すべきということなのでしょうか(笑)