ブロックチェーンの実用化が進む中、スケーラビリティ(拡張性)の問題が大きな課題となっています。スケーラビリティとは、システムやネットワークの規模を拡大する際の対応力を表す言葉。ブロックチェーン、暗号資産の世界では、主に1秒あたりに処理できる取引件数(TPS)を指します。
具体的には、取引需要が処理能力を上回った際に送金遅延や手数料高騰などが起きることです。解決策として注目されている仕組み、それが「レイヤー2」と「サイドチェーン」です。
ビジネスでブロックチェーンを活用する際、この2つの選択肢のどちらを採用するかは、サービスの性質や目的によって慎重に判断する必要があるのですが、この仕組みすら知らない方も多いかもしれません。
本記事では、それぞれの技術の特徴を理解した上で、実際のビジネスへの活用方法や選択のポイントを、具体的な事例を交えながら解説します。
(スケーラビリティの基礎については、「処理能力に限界!?暗号資産のスケーラビリティ問題を解説」をご覧ください!)
ブロックチェーンのスケーラビリティを向上させる方法として、レイヤー2とサイドチェーンという2つの選択肢があります。ビジネスでの活用を検討する前に、まずはこれらの違いを明確に理解しましょう。
引用元:Arbitrum
レイヤー2とサイドチェーンの最も本質的な違いは、セキュリティモデルにあります。
レイヤー2は、メインチェーン(例:イーサリアム)の上に直接構築される追加レイヤーです。一般的なブロックチェーンシステムを「レイヤー1」と考えるとイメージがしやすいでしょう。
追加レイヤーのため、メインチェーンのセキュリティをそのまま継承します。代表的な例として、ArbitrumやOptimismなどが挙げられます。これらのプロトコルでは、すべての取引データの正当性がメインチェーンによって保証されます。
一方、サイドチェーンは、メインチェーンとは独立した別のブロックチェーンとして動作します。独自のバリデーター(検証者)ネットワークを持ち、独自のセキュリティモデルを採用します。例えば、Polygon PoSは、独自のバリデーターネットワークを持つサイドチェーンとして機能しています。
引用元:Optimism
処理能力を向上させる方法においても、両者は異なるアプローチを取っています。
レイヤー2は、トランザクションの処理をメインチェーンの外で行い、その結果のみをメインチェーンに記録します。例えば、Optimismは「オプティミスティック・ロールアップ」と呼ばれる方式を採用し、複数の取引をまとめてメインチェーンに記録することで効率化を図っています。
一方、サイドチェーンは、完全に独立したブロックチェーンとして動作するため、より自由なパラメータ設定が可能です。ブロック生成時間やブロックサイズなどを柔軟に設定でき、必要に応じて高いトランザクション処理能力を実現できます。
レイヤー2とサイドチェーン、それぞれの特性を理解した上で、ビジネスでの活用を検討する際の重要なポイントを見ていきましょう。
ビジネスモデルや取り扱う資産の性質によって、どちらの技術を選択すべきかが変わってきます。
DeFi(分散型金融)プロトコルのように高額な資産を扱うサービスでは、メインチェーンのセキュリティを継承できるレイヤー2が選ばれる傾向にあります。例えば、大手DEX(分散型取引所)のUniswapは、複数のレイヤー2上にサービスを展開し、安全性を確保しています。
一方、ブロックチェーンゲームやNFTマーケットプレイスなど、高頻度の取引が発生するサービスでは、カスタマイズ性の高いサイドチェーンが選ばれることが多くなっています。例えば、Axie InfinityのRoninチェーンは、ゲームに特化した設定のサイドチェーンとして機能しています。
引用元:Axie Infinity
両技術は、運用コストの面でも大きな違いがあります。
レイヤー2の場合、定期的にメインチェーンへデータを記録する必要があるため、その際のガス代(取引手数料)が発生します。ただし、多数の取引をまとめて記録するため、1取引あたりのコストは大幅に削減されます。
サイドチェーンは独自のブロックチェーンを運用するため、バリデーターのインセンティブ設計やネットワークの維持管理コストを考慮する必要があります。その代わり、取引手数料の設定を柔軟に行うことができます。
開発リソースやタイムラインの観点からも、両者には重要な違いがあります。
レイヤー2は、メインチェーンと高い互換性を持つため、既存のスマートコントラクトや開発ツールをそのまま活用できることが多くなっています。例えば、OptimismやArbitrumは、イーサリアムのスマートコントラクトをほぼそのまま動作させることができます。
サイドチェーンの場合、独自の開発環境や運用体制の構築が必要になることがありますが、その分、パフォーマンスやコスト面で最適化された環境を作ることができます。
それぞれの技術の特性を活かした活用事例が、様々な業界で生まれています。ここでは代表的な活用シーンを見ていきましょう。
引用元:Aave
DeFi分野では、特に高度なセキュリティを必要とすることから、レイヤー2が採用されるケースが多くなっています。大手レンディングプロトコルのAaveや、デリバティブ取引プラットフォームのdYdXなどが、レイヤー2上でサービスを展開しています。
これらのプロトコルでは、メインチェーンの信頼性を維持しながら、高速で低コストな取引を実現しています。特に、デリバティブ取引のような高頻度取引では、レイヤー2の活用が不可欠となっています。
引用元:Sorare
ゲームやNFTプラットフォームでは、低コストで高速な取引の実現が重要です。SorareやImmutableXなどのプラットフォームは、それぞれの特性に合わせてレイヤー2やサイドチェーンを柔軟に選択しています。
特に注目すべきは、これらのプラットフォームがユーザー体験に重きをおいた技術選択をしている点です。例えば、NFTの発行や取引にかかるコストを最小限に抑えることで、より多くのユーザーが参加できる環境を整えています。
企業向けソリューションでは、プライバシーやコンプライアンスへの配慮が特に重要です。この分野では、カスタマイズ性の高いサイドチェーンが選ばれる傾向にあります。
例えば、サプライチェーン管理や産業用IoTの分野では、取引の詳細を完全に公開する必要がない場合も多く、プライバシーを確保しやすいサイドチェーンが適しています。
新しい技術の採用には、必ずリスクが伴います。プロジェクトの成功のために、以下の点について十分な検討が必要です。
ブロックチェーン技術に対する規制は、国や地域によって大きく異なります。特に、レイヤー2やサイドチェーンについては、規制の整備が十分でない地域も存在します。
例えば、金融サービスを提供する場合、各国の金融規制に準拠する必要があります。レイヤー2の場合はメインチェーンの規制に従う必要がありますが、サイドチェーンでは独自の対応が求められることもあります。
ブロックチェーン技術は日々進化しています。例えば、ZK(ゼロ知識証明)ロールアップなど、新しい技術の登場により、レイヤー2の性能は劇的に向上しています。
また、クロスチェーン技術の発展により、異なるブロックチェーン間の相互運用性も向上しています。これにより、レイヤー2とサイドチェーンの長所を組み合わせた、ハイブリッドな解決策も可能になってきています。
ブロックチェーン技術の進化は非常に速いため、定期的な情報収集と最新動向のキャッチアップが不可欠です。
セキュリティリスクの管理は特に重要です。レイヤー2の場合、メインチェーンの安全性を継承できる一方で、メインチェーンとの接続部分(ブリッジ)が攻撃対象となるリスクが存在します。サイドチェーンでは、ネットワークの安全性がバリデーターの数に依存するため、十分な数のバリデーターを確保・維持することが重要な課題となります。
また、一度選択した技術の移行は容易ではありません。サービスの停止や、多額の開発コストが必要になる可能性があるため、将来の拡張性や他のブロックチェーンとの連携も見据えた技術選択が重要です。
レイヤー2とサイドチェーン、それぞれの技術には固有の特徴があり、一概にどちらが優れているとは言えません。重要なのは、自社のビジネスモデルや目的に合わせて適切な選択を行うことです。セキュリティを重視するDeFiプロジェクトであればレイヤー2、独自の経済圏を構築したいゲームプラットフォームであればサイドチェーンというように、用途に応じた選択が求められます。
また、これらの技術は相互に補完し合う関係でもあります。将来的には、両者の利点を組み合わせたハイブリッドなソリューションが主流になる可能性も考えられます。ブロックチェーン技術の導入を検討する際は、現在のニーズだけでなく、将来の拡張性も見据えた技術選択を行うことが、プロジェクトの成功につながるでしょう。