これまでMetaStepでは、地方創生・観光×NFTの先進事例を数多く発信してきた。一方現場においては、担い手不足、関係人口の定着難、施策の単発化といった課題も長年指摘されている。現場の摩擦や違和感は、理論や成功事例だけを追いかけていては見えてこない。なぜ導入が進まないのか。どこで期待と現実がズレるのか。答えは机上ではなく、地域の当事者たちの「生の声」の中にこそ潜んでいる。
NFT活用のリアルを捉えるべく、MetaStep編集部はWeb3とツーリズム(観光・旅行)を掛け合わせて観光業界のアップデートを図る一般社団法人日本Web3ツーリズム協会主催の「新潟県 燕三条ツアー」に参加した。ものづくりが盛んな燕三条地域では、地元住民によるNFT活用が進み、高い熱量で多くの人を巻き込んでいる。NFTは何ができ、何ができていないのか。本連載では現地で得た知見をもとに、地方観光の文脈から実態を多角的に追っていく。(文=MetaStep編集部)
「みなさん、ようこそお越しくださいました!」気持ちの良い挨拶は、日本Web3ツーリズム協会 代表理事 岩下 拓さんだ。同協会は観光業界に多くの利益と変革をもたらすツールとしてWeb3に注目し、NFTプロジェクトのアワード開催や観光庁への政策提言など活動の幅を広げてきた。
(※同協会の取り組みは、【インタビュー】NFTで日本のツーリズムをアップデート もご覧いただきたい)
今回、協会員へアナウンスされたのは、新潟県中部、雄大な信濃川と五十嵐川に挟まれた燕市と三条市を総称した「燕三条エリア」の視察ツアーだ。
地場産業への理解を深めながら、現地のNFT活用事例と課題について、実際に体験をしながら議論することがその目的。参加者も全国から大手企業のWeb3事業担当者、業界団体理事、自治体アドバイザーなどがWeb3活用の実態を知るべく集まった。
燕市産業史料館前にて、参加者による自己紹介。写真左が岩下さん燕三条は古くからその地理を活かした「物流」と「ものづくり」が融合してきたまちであり、産業構造においてもその歴史が色濃い地だ。特に食器・刃物といった金属加工や精密加工の製造業が密集しており、「パン切り包丁」など日常用途の刃物において全国的に知られる産地である。しかし同時に地域の人口減少、若手技術者の確保難、地域外ファン・関係人口の創出不足という、地方ものづくり産地が抱える典型的な問題も浮かび上がっている。
ニッパー型刃物の製造に特化した金属加工業「諏訪田製作所」の製品
三条市 市民部 地域経営課 中心市街地活性化推進係 係長 中村 健太さんは語る。「我々含め住民の皆さんも人口が減少していることは肌で感じていますが、どうすればいいか分からない状態が続いていました。ただその中でもチャレンジをしたいという若者もいます。彼らと協力するうちに、NFTの地方創生でよくいわれる『関係人口』という概念を知り、何かできないかと考えていました」(中村さん)。
実は数年前から、三条市役所内でNFT活用の動きは進んでいた。「錦鯉NFT」などの先行事例を目にした中村さんは、三条市もNFTで地方創生を盛り上げたいと画策。前任が前三条市副市長 上田 泰成さんと議論を深めていたところを引継ぎ始まったのが、「デジタル三条市民証NFT」・「デジタル三条市長選挙」だ。
三条市 市民部 地域経営課 中心市街地活性化推進係 係長 中村 健太さん。燕三条駅内にあるワーキングプレイス「JRE Local Hub」ではものづくりコンシェルジュが常駐し、燕三条の技術者と商品開発担当者をつないでいる
「デジタル三条市民証NFT」は燕三条エリアのNFTプロジェクトとコラボし、NFTを保有した人を「デジタル三条市民」と認定する仕組みだ(実際の市民権とは別)。市外住民でも保有ができ、オンラインコミュニティ参加や企画提案など、地域政策への関与が可能となる。さらに飲食店や温浴施設の割引、町工場ツアーやイベント優待といったリアル特典も手に入る。
一方で参加企業・店舗はNFT提示による集客・購買増に加え、キャラクター化やゲーム連動を通じたブランド発信、若年層への認知向上・採用間口の拡大といった効果を期待できる。デジタル上の関係人口をリアルな来訪と消費へつなぐ、官民連携の地方創生モデルといえる。
デジタル三条市民であれば誰でも立候補可能なのが「デジタル三条市長選挙」だ。任期1年間で、デジタル市民DAOの活用に関する企画チームで企画権を持つほか、三条市のメタバース空間「バーチャルSANJO」の愛称決定権と空間制作の決定権を持つ。デジタル市民によるデジタル市長を決める選挙は、全国初だ(三条市調べ)。

公開討論は三条市のメタバース空間で、投票はDiscordサーバー上で行われる(引用:三条市PR TIMES )
デジタル三条市民証NFTはQRコードの読み取りだけで、無償かつ簡単に手に入る。ツアーでは、お昼ご飯に新潟名物「タレかつ丼」を食べながら、配布されたチラシのQRコードを読むだけで取得が完了した。「これでもうデジタル三条市民になったの!?」と参加者から驚きの声。
これが関係人口の参加を簡単に促す仕組みとして評価された一方で、参加者からは「入口は簡単でも、参加の継続性は多くのWeb3自治体施策が直面する課題ですね」との発言もあった。全国のDAO型コミュニティでは、初期の盛り上がりをピークに、投票率や発言数が徐々に低下していく例が少なくない。「立候補できる」「意見を言える」という権利があっても、日常生活の中でそれを行使し続ける動機づけをどう設計するかは、今後の課題の1つともいえる。
NFT活用の課題として他にも挙げられるのが「認知の拡大」だが、その点に一役買っているのが、市内で話題を集めるトレーディングカードゲーム「匠の守護者」だ。2019年からスタートし、公式大会も開かれる。カードのキャラクターたちの多くは燕三条の企業や団体などを「匠の守護者」として擬人化したものだ。
イラストは新潟市内の「日本アニメ・マンガ専門学校」の学生が担当。擬人化にあたって地元の企業へ丁寧に取材をし、特色をどうイラストに落とし込むか議論し描かれている。学校側では「このプロジェクトに関わりたい」と入学を希望する学生も増えているという。参加メンバーは選抜制。制作に関われるのは、学内で選ばれた精鋭たちというわけだ。


清掃サービス業、精肉店など、各企業の特色を表したキャラクターたち。実際に大会も開催され、子どもたちにも浸透している(出典:JAM 日本アニメ・マンガ専門学校)
デジタル三条市民証NFTの取得を加速させるため、三条市は当プロジェクトと連携。キャラクターたちをNFT化し、燕三条エリアの企業や店舗を回遊するイベント「燕三条RPG匠の守護者 ーローズ・トゥ・ザ・スプーンズー 」を実施した。燕三条エリアの各所約50カ所にあるQRコードを読み取り、攻撃アイテム「マジックスプーン」をゲットし、ボスキャラに攻撃する。金属加工のまちならではのアイテムだ。期間内で最もダメージを与えたプレイヤーには豪華景品が授与される。

「マジックスプーンの獲得をきっかけに市を知ってもらい、各地を体験することで三条市への愛着を深めてもらう。誰もが選挙権・立候補権を持つことで、自分ごととして三条市を変えたいという方が増えてくれると嬉しいですね」(中村さん)。