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  3. 【インタビュー】NFTで日本のツーリズムをアップデート

コロナ禍だった2020年からの約3年間、国内外の旅行者が激減したことで、日本のツーリズム業界は大打撃を受けた。現在は円安も追い風にインバウンド需要が高まっているものの、外的要因に左右されやすいツーリズム業界は常にリスクを伴う。

NFTで日本のツーリズム産業をアップデートしたい。そんな思いで、業界を巻き込み活動するのが、日本NFTツーリズム協会で代表理事を務める岩下拓氏だ。

新型コロナウイルスのような外的要因への脆さ、DX推進の遅れ、人材不足など、多くの課題を持つ日本のツーリズム産業。ここにNFTがどう絡んでくるのか? 情報格差が生まれている地域にとっても経済活性化の切り札となるのか? 並々ならぬ思いが詰まった岩下氏への独占取材。その熱量を受け取ってほしい。(文=MetaStep編集部)

一般社団法人日本NFTツーリズム協会 代表理事 岩下 拓 

中国西北大学卒業。上海、東京での広告会社等勤務を経て、 株式会社JTBに入社。 「トップセールス賞」「サービスイノベーション賞」等を受賞。 JTB退職後、約4か月の全国視察を経て、今後ツーリズム業界、 観光地に最もメリットと変革をもたらすツールが 「NFT」や「Web3」との考えに至り、2022年4月に同協会を設立。現在、観光庁への政策提言や 「ツーリズム×NFT フォーラム」「Tourism NFT Awards」等の開催を行う。24年3月に「TEDx軽井沢」に登壇。  

いま、ツーリズム業界が抱えている課題とは

−そもそもツーリズムとはどういう意味なのでしょうか?

「ツーリズム(tourism)」という言葉は、「旅先での観光や宿泊、飲食、体験ごとなどを含む産業全体やその関連活動」のことです。すでに「アニメツーリズム」や「ゴルフツーリズム」のように、「〇〇ツーリズム」という分野は多く存在し、これまでレジャーや遊びという意味しか持たなかった観光業を、特定のテーマでカテゴライズする事で、違った楽しみ方やビジネスを生み出すことができる概念です。

(引用)ツーリズムEXPOジャパン 毎年20万人近くが訪れる「ツーリズムEXPOジャパン」。世界70ヵ国の地域から1,200以上の企業や団体が集まるほど「ツーリズム」の枠は広い

また、観光業に関する問題提起としても使われます。京都の清水寺に、大量の観光客が押し寄せ、道端にゴミが散乱し、地域住民の生活や自然が乱されることは「オーバーツーリズム」と呼ばれています。

このように多岐に渡るツーリズムというカテゴリ・概念において、我々は「『NFT』ツーリズム」を掲げています。

ただ、我々の捉えている『NFT』ツーリズムと言うのは、NFTが旅のテーマや目的、コンテンツになっている、と言う事だけではありません。NFTによる観光地経営の在り方の刷新、資金調達、新たな関係人口づくり等、ツーリズム×NFTを掛け合わせる事での様々な課題への解決、または新規市場の創出等の新しい取組み全体を指しています。

―現状、ツーリズム産業が抱える課題とは何でしょうか?

多くの課題がある中で代表的なものとしては、産業の収入が「人の移動」に大きく左右されることです。ツーリズムは、現在はリアルに人が移動してお金を使うことが前提の業界です。だからこそ、地震・台風等の自然災害やウイルスの蔓延、テロ行為や戦争など、人の移動に影響を与える出来事が起こった瞬間、すぐに業界の動きも止まってしまう。最近はインバウンドなどでニュースに取り上げられポジティブなイメージもありますが、実際は外的影響を受けやすく脆弱な基盤のもと成り立っている産業です。ツーリズム産業が抱える様々な課題。とくに過疎化が進む地域は、財源確保や人材不足が顕著であり、想像しているより事態は深刻と言える

そのうえ「シーズンごとの繁閑差」という課題もあります。夏であれば、都内には無い海や山といったアウトドアが盛んな地域でも、冬になると注目スポットが無く閑散としてしまうという事象は少なくありません。もし、繁忙期の稼ぎ時に外的要因により旅行者が大幅に減ってしまったら大打撃ですよね。

リアルの観光資源がNFTとつながることで市場が広がる

―これらの課題はデジタルとはかけ離れた問題という印象ですが、NFTでどう解決に導くのか全く想像がつきません……。

想像できないのも無理はないです(笑)。NFTは唯一無二のデジタルデータとして、インターネットでの活用や取引で使われることが主ですから、リアルが主の観光事業との接点はイメージしにくいと思います。

NFTのツーリズムにおける活用方法をご紹介させてください。まずは、例えば、現地に訪れた人に配布する御朱印やスタンプのように使うイメージです。お寺に行ったら御朱印を集めている人を見た事があるはずです。御朱印やスタンプの代わりにNFTを配布するという、既存のものを単純にデジタル化するようなイメージの使い方です。

つぎに観光地を訪れた旅行者に、「観光地を盛り上げるコミュニティへの参加権」としてNFTを付与する。そのNFTを持っていると、観光地の特産品が安く買えたり、少量生産の特産品が買える抽選イベントに参加できる等があると思います。旅行者側からすると、スマホ一つで完結し、様々なメリットを享受できる。こうした仕組みを使えば、多くの人を巻き込んだ施策が打て、「その場所に行く理由」を作ることができます。

一方で、観光地側から見れば、「地元の米を使った新しい日本酒を作ります」とか、「メタバース上で交流会を行います」といったイベント周知をするときに、広告を打ったりせずとも、NFTを持っている地域のファンや関係者にメッセージを送ってアプローチすることで集客が可能になります。NFTを通じて、長く観光客とつながり続けることができる。デジタルになったからこその手法ですね。

大手旅行会社HISのNFTプロジェクト「トラキャン」。NFT所有者への特典を設け、誘客プロモーション等に活用

これらをNFTによる新しい形の関係人口づくり、と捉える事が出来ますが、スムーズな形で旅行者のリピート化・施策への取り入れが可能となり、なおかつその繋がりをリアルでもバーチャルでも維持し続けられます。もちろん「リアルだから楽しい」という観光の魅力は忘れずに、共存させて新しい価値・楽しみ方を提案提示できるように意識しています。

また、国内だけでなく、海外へ簡単にアプローチできる事も技術インフラであるNFTの強みです。例えば、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産(以後、「隠れキリシタン遺産」)」があります。隠れキリシタンとは日本の17世紀から19世紀にかけて行われたキリスト教禁教政策の下で、長崎と天草地方でひそかに信仰を伝えた人々です。彼らの貴重な遺産が2018年7月に世界文化遺産に登録されました。

ところが、地域人口の減少が進んだことで、自治体の財源が減少し、またその予算も高齢者を支える福祉にを回さねばならない、という構図があると思います。そこで、新たな観光開発のための資金調達の問題が出てくると思いますが、国内でクラウドファンディングを行っても、日本のキリスト教信者は人口の1%以下(190万人)のうえ、「隠れキリシタン」というマイナーなテーマなわけですから、必ずしも国内で多くの人に興味を持ってもらえるとは限りません。

しかしここで、隠れキリシタン遺産をNFT化して販売し、外国人も利用できるNFTマーケットプレイスに出品することで、グローバル市場に直接アプローチすることができます。特にキリスト教文化圏の国などでは、「あのような禁教、弾圧下で、数百年もキリスト教の文化を継続してくれた」というリスペクトとともに、NFTを購入してくれ、またこれをきっかけに将来の来訪に繋がる可能性があります。

このように、日本の強みである観光資源に対して、国内外問わず多くの人に興味を持ってもらい、さらにNFTを媒介として一種の資金調達のようなこともできる。まさにこれはNFTだからこそ実現できるユースケースなのかなと思います。

観光地の地元住民にとっては当たり前で価値に気づかないものも、他県や海外では、非常に面白く、観光資源として高評価される事もあるわけです。そのアピール方法にNFTを使い、販売収益も得て、潜在旅行者の新たな消費喚起にも繋げられます。我々はツーリズム×NFTの掛け合わせを推進する団体として、全国各地にある「過小評価されている観光資源」をNFTでまた輝かせるため、各自治体や観光事業者に発信をしています。

NFTツーリズム協会の取り組み

―NFTを絡めることで、新しい楽しみ方や、ビジネスを生み出しているんですね。NFTツーリズム協会としての取り組みや支援活動を具体的に教えてください。

前述のような「NFTをツーリズムに活用する」という手法を、業界内外を問わず多くの方に知ってもらう活動をし、企業や自治体、DMO等に提案をしています。日本の「NFT×ツーリズム」プロジェクトや市場を創出していく存在として、知見を増やし、発信をしています。

協会の会員様も増えており、NFT関連のソリューション企業から旅行会社、鉄道会社、教育機関、出版社、法律事務所、さらに個人では政治家の方などに入会いただいています。現在は36者ほどですが、全国、全観光従事者にNFTやWeb3の価値を届けたいと考えています。最低でも47都道府県に各3者あれば150者程度になりますから、簡単ではないですが、まずはそれくらいを目指しています。

複数の会員向け事業のうち「研究及び知識の普及啓発事業」に最も力点を置いています。協会外に向けても2024年3月には「Tourism×NFT Awards」というアワードイベントを実施しました。

国内ツーリズム業界においてNFTプロジェクトを行っている事業者等に表彰を行う「Tourism×NFT Awards」。

“顕著な結果を残した”、“新しい可能性を広く業界に示した”等の優良なNFTプロジェクトの表彰をしている

最終的に、私たち協会が提供する価値は「NFTプロジェクトの創出と成功」です。観光地や観光事業者の課題やビジョン、顧客ニーズに基づいたNFTプロジェクトが全国から生まれてきて、成功するということを目指しています。そのために、NFTやWeb3リテラシーの向上を図るセミナーや講座、NFTの体験機会や交流会などの場も設けています。

―どうしてNFTツーリズム協会を立ち上げるに至ったのでしょうか?

原点をたどるとかなり遡るのですが、学生時代、中国の西安と言う内陸の街に留学していました。そこでできた親友が黄土高原という地域出身で、実家は「数千万人が住んでいる洞窟ヤオトン」でした。

(引用:Wikipedia)中国北部の農村に見られる住居形式の窰洞(ヤオトン)。約一千万人の人々が、崖や地面に掘った穴を住居として利用している

都会に住んでいる人々に取ってはなかなか見られない暮らし方で、すごく面白い地域ですよね。しかし、そこには独自の文化も観光資源もあるのに、観光開発がなされていない。つまり、地元の人たちはその魅力に気づいていないんです。彼らにとっては当たり前の生活スタイルなだけですから。

その地域の魅力や特色は、私が外部の人間だからこそ気付けた視点だと思っています。そこから私は、将来観光開発や観光地域経営の仕事に携わりたいと考えるようになり、観光業界において様々な事業展開をしている旅行会社に就職しました。ですが、入社後思うようにそのスタート地点にたどりつけないもどかしさを感じていました。そして、家庭の事情(中国への移住)での退職をきっかけに、現時点で最も業界に価値をもたらせるビジネスアイデアを考えました。

100個程アイデアを絞り出したのですが、「NFTが観光プロモーションとして使えるんじゃないか?」というヒントをきっかけとして、「NFTやWeb3は業界そのものをアップデートする、ものすごい技術だ」、「自分の強みである“中国”をからめるよりインパクトをもたらせそうだ」と言う考えに至り、2022年4月に本協会を設立することになりました。

「日本らしさ」とNFTの掛け合わせで、ツーリズム業界を盛り上げていく狙いだ

NFTの活用法についてより深く学んだり探っていくと、ブロックチェーン、暗号資産、DAO、メタバースなど、Web3関連のさまざまな技術が一つのエコシステムや経済圏を形成し、それらとの掛け合わせも可能であると知りました。これは集客どころか「社会・技術インフラ」として、多くの業界課題も解決できるツールになりうるとの確信に至りました。

別々の産業をNFTで繋げることで、日本を盛り上げたい

−「NFT×ツーリズム」の動きを拡大していくにあたり、ハードルとなっている事柄などはありますか?

行政機関との連携をより深めること、そのための理解が広がることでしょうか。現状は観光庁に話を持っていっても、前例が少ないことを理由に相手にされない事がほとんどです。
日本のツーリズム産業は「地方創生の切り札」、成長産業の中でも「柱となりうる」と言われ、またNFT/Web3が成長戦略に位置付けられていても、NFTを活用した取組みについて観光庁から後ろ盾を得るのは、まだ難しいのが現状です。まずは、少しずつでも実績を積み上げていき、いつか大きなムーブメントを起こしたいと思っています。


−日本全体で「NFT×ツーリズム」の取組みが加速するのはまだ時間が掛かりそうですね。その中で、協会としての今後の活動予定や目標などをお伺いします。

市場づくり、知識の普及としてのセミナーやフォーラム、アワードのようなイベントは、継続して行っていきたいと考えています。また、業界をまたいだコラボレーションも当たり前になるように発信していきたいと思っています。

例えば、海外の百貨店で日本酒を買ったお客さんに、QRコードを読み取ってNFTを受け取ってもらう。そのNFTを持って製造元の酒蔵を訪れたら、特別な見学ができる、など。このように業界をまたいだ取組みは、確かに「観光業」の一端ではありますが、同時に「小売業」「製造業」の活性化にもつながるわけです。

他にも、日本の自動車メーカーの海外支店で車を購入した顧客に特別なNFTを付与し、その顧客が日本を訪れた際に、北海道の大地で最高級の水素自動車を無料で運転できるというような取組みも、「観光業」と「自動車産業」にまたがったものだと言えます。

我々の活動に対して「NFTとツーリズムをかけ合わせた取り組みなんて、とてもニッチなところを突いていますね」と言われることも少なくありません。ですが私は、NFTを活用することで観光産業そのものがアップデートし、いずれはNFTを観光事業に用いることは当たり前になると思っています。そしてその影響は、他業界や地方創生と言う文脈でも価値を発揮すると考えています。

今はブレイクスルーがやってくる時を待ちながら、NFTおよびWeb3の可能性を信じて日々の活動を積み重ねていきたいと思っています。

取材を終えて

日本には観光資源も多く、地域が持つ可能性も無限です。「NFT×ツーリズム」の取り組みは始まったばかりですが、Web3技術の活用で、世界中に日本の魅力が伝わり、人が集まる。そんな未来は近いのではないかと感じましたし、だからこそ多くの人に、NFTへの理解が深まる必要性も感じました。

MetaStepを運営するクロスアーキテクツも、岩下代表の熱い思いに共感し、取材を契機に日本NFTツーリズム協会に参画しました。今後、連載コラムや勉強会など、NFTや地域創生への理解を深めるための取り組みを協会と共創していく予定ですので、どうぞお楽しみに。