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2026.02.02

郵便局が繋ぐ「見えないWeb3」、島根・石見で始まった静かなる観光革命

かつて銀山で栄え、世界にその名を知らしめた島根県石見地域に今、最先端のデジタルの風が吹き込んでいる。2026年1月14日、島根県西部および益田市を中心とした広域エリアで、ある実証実験が幕を開けた。日本郵便が仕掛ける「デジタルスタンプラリー」だ。一見すると観光地によくあるイベントのように映るかもしれないが、その基盤にはWeb3の重要技術である「NFT(非代替性トークン)」が実装されている。日本全国に広がるアナログな郵便局網とデジタルの技術が融合するこの取り組みは、日本の地域活性化における新たな可能性を示唆している。(文=MetaStep編集部)

郵便局網とブロックチェーンの融合

 
(引用元:PR TIMES )

今回スタートした施策は、日本郵便  株式会社が公益社団法人 島根県観光連盟  および島根県教育委員会から業務を受託し展開するものだ。対象となるのは、浜田市や益田市などを含む石見地域の9市町と、益田市の日本遺産「中世日本の傑作 益田を味わう」の関連スポット。これら広大なエリアに点在する観光資源を、デジタルの糸で結びつけようという試みである。

仕組みは極めてシンプルかつ巧み だ。参加者は対象スポットやチラシにある二次元コードを読み取るだけで、NFT化されたデジタルスタンプを取得できる。これを実現しているのが、SUSHI TOP MARKETING株式会社の技術だ。LINEなどの既存アプリ上でNFTを受け取れる仕組みを採用することで、専用アプリのダウンロードや難解なウォレット開設といった、Web3サービス普及の障壁となっていた手間を極限まで省いている。

現在開催中のキャンペーンでは、集めたスタンプ数に応じて、地元特産品や航空券、そして人気キャラクター「しまねっこ」の限定画像  などが手に入る。

 
(引用元:
PR TIMES

1月17日、18日には広島市でPRイベントが開催されるなど、リアルな接点での周知も進められているが、このプロジェクトの真価は「景品交換」という短期的なメリットだけにあるのではない。

「体験の所有」が変える地域の絆と未来

本施策が示唆する最大の価値は、観光における「体験の所有」だ。これまでの観光キャンペーンは、一度訪れて終わりという消費型の行動になりがちだった。しかし、NFTはデジタルデータに唯一性を付与し、改ざん不可能な記録として参加者の手元に残る。旅の思い出として手に入れたデジタルスタンプは、「私はあの時、あの場所に行った」という証明であり、地域との絆の証となる。

 
(引用元:PR TIMES

ここで重要な役割を果たしているのが、日本郵便という物理的なネットワークだ。全国津々浦々に拠点を持ち、地域住民と深い信頼関係を築いている「アナログなインフラ」が、NFTという「デジタルなインフラ」を実装し、地域のハブとして機能し始めている。過去に島根県太田市大森町  や宮城県東松島市で行われた実証実験を経て、今回は対象エリアを大幅に拡大した。これは「郵便局×NFT」のモデルが、特定の条件下だけでなく、汎用的な地域活性化策として機能することの実証段階に入ったことを意味する。

将来的には、このNFT保有者に対し、翌年の特産品の案内や特別なイベントへの招待状を送るなど、継続的な顧客関係管理への活用も期待される。一過性の観光客を、継続的に地域と関わる「関係人口」へと変える触媒になり得るのだ。

ユーザーが「ブロックチェーンを使っている」と意識することなく、利便性や楽しさを享受できる状態こそが、新しい技術が社会へ浸透していく上での理想形である。石見の赤い瓦屋根 の下で進行するこの実験は、物理的な距離の制約を超え、地域と世界をデジタルでつなぐ次世代の観光モデルとなるかもしれない。