1. MetaStep TOP
  2. ビジネス活用を学ぶ
  3. AIが拓く「物理世界化」する メタバース~社会実装に求められるのはコンバージェンス

2026.02.17

AIが拓く「物理世界化」する メタバース~社会実装に求められるのはコンバージェンス

Web3・メタバース・XRの社会実装とビジネス活用はいまどこまで進んでいるのか。当連載「未来を導く知の羅針盤」では、業界を牽引する経営者・専門家など、有識者16名の証言から、その現在地と未来の可能性を探る。

カーネギーメロン大学 創始者記念全学教授
金出 武雄さん


1945年兵庫県生まれ。コンピュータビジョン・ロボティクス分野の世界的権威。画像認識技術や自動運転の先駆的研究で知られ、Lucas-Kanade法や「No Hands Across America」など多くの実績を持つ。カーネギーメロン大学で長年にわたり研究教育を牽引し、京都賞や文化功労者など国内外で多数受賞。技術と社会をつなぐ先導者として国際的に高く評価されている。

「メタバースは幻想か、未来の現実か」。この問いに対し、世界的ロボティクス研究者のカーネギーメロン大学 創始者記念全学教授 金出武雄さんは一つの明確な方向性を示す。「人間は物理的な存在であり、我々の生活は物理世界に根ざさなければならない」。メタバースの真価は、現実を模倣する仮想空間ではなく、「物理世界と仮想世界の融合」にあると金出さんは語る。

金出さんが提唱する「仮想化現実(Virtualized Reality)」は、多視点映像を駆使し、現実を自在に「再体験」できる技術だ。従来のVRとは異なり、現実の出来事をデータ化し、任意の視点から「見る・体験・実験する」という発想が核にある。メタバースの本質を「現実との断絶」ではなく「現実の再構成」と捉える視座は、この技術に通底する。

そして今、進化する生成AIがその可能性を現実のものにしつつある。「ChatGPTは言語の構造をモデル化しているが、物理的意味までは理解していない」。だが、フィジカルモデルやワールドモデルは異なる。「物理的な世界のツインをコンピュータ内に構築できるようになった。これはメタバースにとってものすごい意味を持つ」。金出さんはこう述べた上で、「AIが物理に向かう『AIゴーズフィジカル(AI goes physical)』、そして『メタバースゴーズフィジカル(Metaverse goes physical)』が次の段階だ」と断言する。

金出さんがさらに例に挙げるのが、近年急速に進展する「クラウドラボ」の取り組みだ。これは実験デザインをオンライン上で行い、遠隔のラボが自動で実験を遂行し結果を返すという仕組みであり、「実世界の科学実験とサイバー空間が連続的につながり始めている」と指摘する。こうした仕組みが高度化すれば、物理空間の実験データを即座にメタバース内のフィジカルモデルに反映させ、再現実験やシミュレーションを繰り返すことが可能になる。「単なる仮想空間ではなく、現実と往復可能な実験場になることが、メタバースにとって真の意味を持つ」と金出さんは力を込める。

また、スポーツ分野でも応用の兆しが見えるという。「台湾の大学と連携し、バスケットボールや野球の試合を多視点カメラで捉え、戦術解析やファン体験の質を高める研究を進めています」。実際のプレーを物理的データとして取り込み、戦略分析やシミュレーションが人のモデルを使って仮想空間で行えるようになれば、スポーツ産業にとっても革命的な変化となるだろう。

融合が創る現実拡張

さらに金出さんは、人間という存在そのものをモデル化する重要性を強調する。「まだ十分にできていないのは、人がどのように考え、どう行動するかというモデルです。これが構築できれば、教育だけでなく、医療や都市計画、マーケティングなどあらゆる分野でメタバースが活用される未来が見えてきます」。この「人間モデル」の進化こそが、メタバースの社会実装を飛躍的に推し進めると金出さんは見ている。

加えて、社会実装には「コンバージェンス=技術と価値の融合」が不可欠だという。金出さんは、次世代のオープンソース物理シミュレーションエンジン「Genesis(ジェネシス)」の開発プロジェクトを例に挙げ、「単なる技術検証に留まらず、新しいビジネスを創り出す視点が重要」と説く。「コンピート(競争)しながらコラボレート(協力)する姿勢が、日本企業にも必要だ」と助言する。

金出さんが特に注目するメタバースの応用分野は「教育」だ。経済格差の影響を受ける子どもたちにも、「個別最適化された学び」を届けられる可能性があるという。「人の行動や思考パターンまで再現する人間モデルが構築されれば、教育も医療も本質的に変わる」(金出さん)。

メタバースとは「どこかにある別世界」ではない。むしろ、現実の延長線上にある「再構成された現実」。その姿が「コンバージェンス・バース」と呼ばれる日が近いかもしれないと語った。

ー 日本再興のヒント ー
技術と価値が融合された「コンバージェンス」が社会実装のキーファクターとなる