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2025.08.01

VRがうつ病治療を変える!BiPSEEが臨床研究で効果確認し治験準備へ

VRの活用領域はうつ病に対しても効果を発揮する。ヘルステックスタートアップBiPSEEは、VRやAI技術を活用して精神疾患、うつ病の治療に取り組んでいる。それが高知大学との共同研究として実施していた、VRデジタル療法(VRx)だ。特定臨床研究を完了し、うつ病スコアが大きく減少したことを確認したと発表した。今後は治験準備を進め、VRとスマホアプリを活用した新しいデジタル治療プログラムの実用化を目指す。(文=MetaStep編集部)

うつ病治療の新機軸 BiPSEEの「VRデジタル療法」とは


(引用元:PR TIMES

株式会社BiPSEEは、高知大学医学部附属病院との共同研究として実施していた、うつ病に対するVRデジタル療法(VRx)に関する特定臨床研究(ランダム化比較試験)を完了し、対象患者のうつ病スコアが大きく減少したことを確認したと発表した。今後は医療機器としての承認を目指し、治験に向けた準備を進める。

うつ病は世界で3億人以上が悩む疾患であり、その経済損失は極めて大きい。現在の治療は薬物療法が一般的だが、最初の抗うつ薬で寛解に至るのは3人に1人、再発率は60%を超えるなど、多くの課題を抱えている。特に、ネガティブな思考を繰り返し考えてしまう「反すう」が関連するうつ病は、抗うつ薬が効きにくいとされ、新たな治療法が求められていた。薬物以外の治療法として認知行動療法(CBT)などの精神療法もあるが、治療時間の長さや専門家の不足から、日本の精神科クリニックでの実施率は6.2%と低い水準に留まっている。

BiPSEEが開発するうつ病向けVRデジタル療法は、この「反すう」症状の軽減を足掛かりに、抑うつの改善を目指すデジタル治療プログラムだ。その特徴は3つある。

第一に、メタ認知療法や反すう焦点化認知行動療法といった、科学的根拠に基づく8週間のプログラムで構成されている点。第二に、VRとスマートフォンアプリを組み合わせた独自の体験設計だ。VRならではの没入感や第三者視点、イマジネーションを活用したインタラクティブなエクササイズを通じて、患者は自らの感情や行動と心理的な距離を置くスキルを体得し、行動変容・認知変容を促される。そして第三に、患者が自宅で自律的にスキルを学べる設計になっている点だ。これにより臨床現場の負担を減らし、医師がより重要な判断やフィードバックに集中できるだけでなく、これまで治療の空白時間となっていた自宅が新たな治療の場となる。

VRxが切り拓く新しいメンタルヘルスケアと医療の姿


(引用元:PR TIMES

BiPSEEのVRデジタル療法(VRx)は、メンタルヘルスケアのあり方を根本から変える可能性を秘めている。

共同研究を行った高知大学の數井 裕光 教授は、「VRの活用は治療への没入感を高め、効果を増大させる可能性がある」と指摘する。また、内容が標準化されたVRプログラムは、従来の精神療法が抱えていた課題も解決する。治療者ごとの技量に左右されることなく、常に一定水準の質の高い治療をより多くの患者に届けることが可能になるのだ。さらに、患者が自宅で自律的に学べる設計は、通院の身体的・経済的負担を軽減し、これまで治療の空白となっていた「家庭」を、回復を支える新たな治療の場へと変える。

今回の研究成果は、デジタルヘルス分野におけるVR/AR技術のさらなる応用への期待を高めるものだ。今後はうつ病だけでなく、不安障害やPTSD、依存症といった多様な精神疾患への展開も考えられるだろう。将来的には、生体センサーと連携し、患者の心拍数や視線といった客観的なデータをリアルタイムで分析、VRコンテンツを一人ひとりの状態に合わせて個別最適化するといった、よりパーソナライズされたデジタル治療も視野に入ってくる。

BiPSEEの取り組みは、VRがエンターテインメントやビジネスの領域を超え、人々の「こころ」を癒し、支えるための本格的な医療ツールとして社会に実装されていく、その最前線に位置していると言えるだろう。