日本最大手のエンジニアリング会社・建設会社として、世界各所に石油やガスのプラントを建設している日揮ホールディングス。一見「メタバース」とは縁遠く思える同グループで、強い思いを持って自社実践をしているのが「日揮パラレルテクノロジーズ」。
同社は、障害者が働きやすいように配慮された「特例子会社」。障がいを持ちながらも、誰もが働ける未来に向け、一つの解として見つけ出したのがメタバース。全くメタバースに触れてこなかった自社が「やってみよう」と思った先には、やはり苦労があったようです。MetaStepの読者に、メタバースの自社実践をゼロから行った熱い思いを届けるべく、ご寄稿をいただきました。ぜひご一読ください!
日揮パラレルテクノロジーズ株式会社 取締役最高技術責任者
長尾 浩志(ながお ひろし)
2016年日揮株式会社(現:日揮グローバル)入社。クウェートでの大型製油所建設現場での経験を経て、LNGプラント等の配管設計に携わる過程でPythonによる省力化、AIによる予測に着手し、DX推進を行う立場に。2023年より日揮パラレルテクノロジーズ(JPT)に参画。高度IT集団の技術的な要として、日揮グループとJPTの架け橋となり、様々なDX案件を請け負い・創出している。日揮のプラント設計でつくられる3Dモデルはとても精緻なので、これを様々な価値に変換したいと考えている。
こんにちは。日揮パラレルテクノロジーズ株式会社、取締役CTOの長尾と申します。大変僭越ながら、全3回となる連載記事を執筆させて頂きます。
私たちがこれまでに取り組んだ(泥臭い)挑戦とその先に見据えるものをご紹介します。
簡単に弊社の自己紹介をさせてください。
日揮パラレルテクノロジーズ株式会社はプラントエンジニアリング業界の日揮ホールディングス株式会社の特例子会社です。2021年に設立し、現在5年目を迎える若い会社です。
“特例子会社”という言葉もあまり聞き馴染みがないかと思いますのでご説明します。
特例子会社とは、障害者が働きやすいように配慮された子会社のことです。特例子会社の従業員は親会社で働いているとみなす事ができ、これにより、親会社は障害者雇用の義務を果たしやすくなります。(参考:「特例子会社」制度の概要)
現在従業員は46名(2025.4現在, 役員除く)となりますが、その内43名が障害者手帳を持っております。また精神発達系の障害者が多い事も弊社の特徴に挙げられます。
【障害内訳】
そんな私たちですが、障害者雇用=低賃金・単調労働という前提を覆すべく、事業内容に“高度IT”を選択しており、同領域で成果を出し続けております。昨年は日本経済新聞での掲載を皮切りに様々なメディア様にも取り上げて頂きました。
精神的な障害等を抱えていると、十分なアウトプットが出せないと思われがちですが、そんなことはありません。大規模チームには馴染めないものの、専門領域に特化したプロフェッショナルが集まっています。さらに個々の能力が発揮できるよう、ミーティングを最小限にしたり、少人数で対応できる案件をメインに受注していくことで、むしろスピーディに対応できクオリティ、生産性も向上しています。
一例を挙げますと、グループ会社の新事業である魚の陸上養殖において、稚魚の購入時に、魚の数を画像から推定する人工知能(AI)を実用化したり、プラント設計においては、設計時に過去の部品データから完成時の重さを予測したり、配管内の異物を検知したりするソフトウェアを開発しています。
そんな私たちですが、企業ミッションには「障害の有無に関わらず対等に働ける社会の実現」という壮大な目標を掲げており、これがどういった行動をすれば近づいていくのか、日々模索しています。
具体例としては全従業員が集まって障害や対等について考える「ミッション研修」や、従業員が会社の方針に自由に意見できる「みんなでつくる会議」などの実践が挙げられます。(もちろん、日々の業務に真剣に取り組む事は大前提です。)
このように障害や対等を皆と一生懸命考えていく中で、私自身は「1つの正解があるのではなく、選択肢を持てる事が大事なのかもしれない」という事を感じ始めています。
例えば弊社は完全フルリモート・フルフレックスでの勤務体制ですが、これは障害に関わらず育児中のママパパや様々な地域で暮らしてみたい人にも有効かもしれません。
このように働き方の選択肢が増えれば、今まで私が検知できなかった人々との出会いも増え、新しい価値が生まれてくるのかも..。
そこで考えたのが、メタバースです。仮想空間上でアバターを介してコミュニケーションを行う。場所に加え、身体的な属性にも縛られないこの環境は、働き方の新しい選択肢の1つになるのではないだろうか。そんな事を思い至りました。
正直、メタバースについては映画「サマーウォーズ」程度の知見しかありませんでしたが、私達の企業ミッション「障害の有無に関わらず対等に働ける社会の実現」を実現するために、とにかく取り組んでみたい。その思いの方が強くありました。
幸い弊社には優秀なITエンジニアたちがいるので、大きな妄想を抱いたまま、まずはメタバースの世界に入ってみる事にしました。その様子は次回お伝えします!(続く)