昨今の急速なAIの進化。もはや中身がAIか人間かどうか判断することも難しくなってきているのを、皆さんも実感していることでしょう。
そこでOpenAIのCEOサム・アルトマン氏らは「World(ワールド)」というWeb3プロジェクトを立ち上げました。これは世界規模のデジタルアイデンティティシステムの構築、およびベーシックインカムの実現を目指すプロジェクトです。
独自の虹彩認証技術とブロックチェーンを組み合わせ、「人間であることの証明」を可能にしようとしています。さらに、将来的にはこのシステムを基盤としたユニバーサルベーシックインカム(UBI、個人に定期支給される貨幣所得)の実現も視野に入れています。
本記事では、World(ワールド)プロジェクトの基本的な仕組みや技術的特徴、目指す未来像などについて詳しく解説します。
World(ワールド)は、個人のデジタルアイデンティティの確立を目指すプロジェクトです。
独自の生体認証技術を用いて個人の一意性を証明し、プライバシーを保護しながら、世界中の人々が利用できるデジタルIDと独自の暗号資産を提供しています。
Worldプロジェクトの中核を担うのは、「World ID」と呼ばれる分散型デジタルアイデンティティシステムです。このシステムは、「Orb(以下、オーブ)」と呼ばれる球形のデバイスを使用して虹彩スキャンを行い、個人を一意に識別します。
プロジェクトの主な目的は、グローバルな身分証明システムの構築、および、将来的にはユニバーサルベーシックインカム(UBI)の実現も目指しています。また、AI時代における「人間であることの証明」の手段としても位置付けられています。
(引用:Worldcoin)orbの本体。レンズをのぞき込むことで虹彩を認識する
Worldは、OpenAIの共同創設者であるサム・アルトマン氏、アレックス・ブラニア氏、そしてマックス・ノベンドスターン氏らによって設立されました。
アルトマン氏は、人工知能の発展に伴い、個人の一意性の証明と世界的な経済システムの再構築が必要になるという考えからこのプロジェクトを立ち上げました。プロジェクトは複数の資金調達ラウンドを経て、2023年7月に正式にWorldトークンローンチを迎え、現在も開発が進められています。
Worldプロジェクトは、World ID、オーブ、WLDトークンという3つの主要な要素で構成されています。ここからは、各要素の詳細について解説します。
World IDは、Worldが提供する分散型デジタルアイデンティティシステムです。
World IDは個人の虹彩スキャンデータをもとに生成されますが、実際の生体情報は保存されません。代わりに、ゼロ知識証明の技術を用いて、個人の一意性を証明する暗号学的な証明が作成されます。
ユーザーはWorld ID を使用して、オンラインサービスやアプリケーションで自身が本物の人間であること、およびその一意性を証明できます。SNSへのログイン、コンサートチケットの購入、投票など、公正なオンライン活動をスムーズに行うことにも使われます。
(引用:Worldcoin World IDを使ったウォレット。2025年2月現在、世界で1千万人以上が利用
オーブは、生体認証を行うための球形のデバイスです。Worldプロジェクトを利用するには不可欠の機体となります。
このデバイスは高解像度カメラとAIを搭載し、ユーザーの虹彩をスキャンして一意の生体情報を取得します。スキャンされたデータは即時に処理され、デバイス上で削除されるため、生体情報そのものが保存されることはありません。
2024年7月現在、オーブは日本を含む世界の主要都市に設置されており、ユーザーは無料でWorld IDの登録を行うことができます。
WLDトークンは、Worldプロジェクトが発行する暗号資産です。イーサリアムブロックチェーン上のERC-20トークンとして発行され、総供給量は100億WLDに設定されています。
WLDトークンは、World IDを取得したユーザーに対して定期的に配布されます。このトークンは、プロジェクトのガバナンスへの参加や、将来的なユニバーサルベーシックインカム(UBI)の実現に向けた基盤として設計されています。
しかし、その具体的な内容は現在も開発段階にあり、今後のプロジェクトの進展によって明確化されていく予定です。
ここまではWorldプロジェクト全体の概要について解説しましたが、Worldプロジェクトは「ワールドコイン」プロジェクトとも呼ばれています。Worldプロジェクト内に含まれる暗号資産「ワールドコイン」での使われ方が多い為です。
ここからワールドコインを支える技術的な側面について解説します。
ワールドコインの基盤はイーサリアムブロックチェーンです。World IDの検証プロセス、およびWLD トークンの発行・取引は、イーサリアムのスマートコントラクト上で行われます。これにより、システムの透明性と信頼性が確保されています。
また、Optimism というイーサリアムのレイヤー2ソリューションを採用することで、取引のスピードと効率性を向上させています。
ワールドコインは、ゼロ知識証明の技術を活用してプライバシー保護と匿名性の確保を実現しています。
オーブでの虹彩スキャン後、生体データは即座に削除され、代わりに暗号学的な証明が生成されます。この証明により、個人情報を開示することなく、ユーザー本人であることや一意性を証明できます。
また、World IDシステムは、ユーザーの個人情報を保持せずに認証を行うことで、プライバシーを保護しつつ、なりすましや重複登録を防止する仕組みの構築を目指しています。
ワールドコインは、グローバルな規模でのアイデンティティ管理と暗号資産の利用を目指しています。そのため、スケーラビリティは特に重要な課題だと言えます。
この課題に対応するために、ワールドコインではOptimismを採用することで、イーサリアムメインネットの混雑を回避しつつ、高速で低コストな取引を実現しています。
また、オーブの生体認証プロセスはAI技術を活用して高速化されており、大規模なユーザー登録にも対応できるように設計されています。ただし、グローバルな展開に向けては、オーブの設置数や処理能力のさらなる向上が課題となっています。
World、ワールドコインは、グローバルな身分証明システムの構築を基盤として、ユニバーサルベーシックインカム(UBI)の実現やAI時代における人間の証明など、複数の長期的な目標を掲げています。
World、ワールドコインは、World IDの機能を通じて、国境を越えた統一的な身分証明システムの構築を目指しています。このシステムは、個人のプライバシーを保護しつつ、オンライン上での信頼性の高い本人確認を可能にすることを目的としています。
特に、既存の身分証明システムへのアクセスが限られている地域や個人にとって、新たな経済活動への参加機会を提供できる可能性があります。ただし、各国の法規制や既存の身分証明システムとの整合性など、実現に向けては多くの課題も存在しています。
将来的なユニバーサルベーシックインカム(UBI)の実現も、ワールドコインの構想に含まれています。UBIとは、全ての個人を対象に、キャッシュを無条件に支給する制度のことです。誰もが一定の経済的な保障を受けることで、自由と安全を得られるようにすることを目指しています。
World、ワールドコインは、World IDによる一意の個人識別と、WLDトークンの配布メカニズムを組み合わせることで、グローバルな規模でのUBI実装の基盤を提供することを考えているようです。
しかし、UBIの実現には、経済的な持続可能性、政治的な合意形成、法的枠組みの整備など、技術面以外の多くの課題が存在します。現時点では、この構想の具体的な実施計画や時期は明確になっていません。
AIの急速な発展に伴い、オンライン上で人間とAIを区別することの重要性が増しています。World IDを通じて、個人が「本物の人間である」ことを証明する手段を提供することを目指しています。
これは、ボットやAIによる不正行為の防止、オンラインコミュニティの信頼性向上、AI生成コンテンツと人間が作成したコンテンツの区別など、様々な場面での活用が想定されています。
ただし、技術の進歩に伴い、「人間であることの証明」の定義や方法も変化する可能性があり、継続的な技術革新が必要とされている領域でもあります。
(引用:Worldcoin)オーブを使った生体認証の様子
World、ワールドコインは、グローバルなデジタルアイデンティティの確立と、それを基盤とした新たな経済システムの構築を目指すプロジェクトです。World ID、オーブ、WLDトークンという独自の要素を組み合わせ、プライバシーを保護しつつ個人の一意性を証明する技術的基盤を提供しています。
しかし、グローバルな身分証明システムの構築やUBIの実現といった長期的な目標には、技術面だけでなく、法規制、社会的受容、経済的な持続可能性など、多くの課題が存在します。また、AI時代における「人間であることの証明」という新たな課題に対しても、継続的な技術革新が必要とされています。
当プロジェクトの成功は、これらの課題をいかに克服し、社会に受け入れられるシステムを構築できるかにかかっています。技術の進化と社会の変化を見据えつつ、プロジェクトの今後の展開に注目していく必要があるでしょう。