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2025.03.31

【連載】知恵で勝つ!売上アップの処方箋(第2回)~自社の「当たり前」がヒット商品に(株式会社イトー)

中小企業の資源を活かし、知恵で売上アップを実現した事例を紹介する。JapanStepの「後援」に参画する釧路市ビジネスサポートセンター(k-Biz)ご協力のもとお届けする本連載。今回から「中小企業の強みを生かしたオープンイノベーション」の具体的な事例をお届けする。今回ご紹介するのは、静岡県で紡績工場向けの製品を手掛ける株式会社イトーだ。市場規模が頭打ちになるなか、自社の「当たり前」をいかに商機に変えたのか。(文=JapanStep編集部、協力=釧路市ビジネスサポートセンター(k-Biz))

「発想の転換」で新たな販路を生み出す

「ニッチな悩みにこそ、ビジネスの芽が眠っている」。そんな示唆に富む成功事例が、静岡県に本社を構える株式会社イトー(以下、敬称略)の事例だ。イトーは、紡績工場向けの製品で業界内において高いシェアを持ちながらも、業界全体の縮小という壁に直面していたが、「発想の転換」で新たな販路とブランド価値を獲得した。

(引用:澄川氏作成『ビズモデルから生まれる中小企業の強みを生かしたオープンイノベーション』)

全国Bizネットワーク支援のもと、同社が着目したのは、「綿ぼこり除去製品」という、自社の“当たり前”に内在していた強みだった。厳格な品質管理が求められる紡績工場で認められた確かな除去力。これを一般家庭に広げてはどうか──そんな着想から生まれたのが、2015年発売の「ほこりんぼう!」だ。

「家具の裏にたまった綿ぼこりが原因で、コンセントから発火するトラッキング火災を防ぎたい」。ニッチだが確実に存在するニーズに対して、工業製品の品質をそのまま持ち込んだこの商品は、当初から注目を集めた。

 

(引用:澄川氏作成『ビズモデルから生まれる中小企業の強みを生かしたオープンイノベーション』)

販売戦略も秀逸だった。一般的なホームセンターや量販店ではなく、東急ハンズやLOFTなど「掃除グッズにこだわりを持つ層」が訪れるチャネルにターゲットを絞り込み、ネーミングやパッケージも一般消費者向けに大胆にリブランディング。販路を一気に拡大した。

2016年には第二弾「ほこりんぼう!mini+」を投入。今度は革靴のつま先など、さらにピンポイントな用途に特化。ユニークな形状と使いやすさが評価され、ノベルティグッズとして新聞社やハウスメーカーにも採用されるなど、販路はBtoCからBtoBへと広がっていった。

「ズラし」と「深堀り」でブランド構築と差別化を実現

さらに2024年、フジテレビ系のドラマ『春になったら』では、主人公の職業アイテムとして「ほこりんぼう!」が登場。商品は単なる便利グッズから“ストーリー性をもったプロダクト”へと進化し、知名度と信頼性を大きく高めることとなった。

(引用:澄川氏作成『ビズモデルから生まれる中小企業の強みを生かしたオープンイノベーション』)

全国Bizネットワークの支援のポイントは3つだ。①技術や製品の“強み”の言語化、②誰のどんな課題を解決するのかの“明確化”、③狙うべき“市場ターゲット”の徹底的な絞り込み。イトーの事例は、まさにこのフレームワークの理想形といえる。

“掃除用品”ではなく“アイデアグッズ”。“一般家庭”ではなく“こだわり層”。この「ズラし」と「深堀り」によって、成熟市場の中に新しい価値を見出したことが、継続的なブランド構築と差別化につながった。

中小企業の技術や製品には、しばしば「語られざる強み」が潜んでいる。しかし、それが言語化され、適切なターゲットに届けられない限り、価値として顕在化することはない。イトーの挑戦は、そうした強みを“見える化”し、“届ける化”した好例である。

今後も「ほこりんぼう!」シリーズは、さらなる商品展開や海外展開の可能性を秘めている。小さな課題を丁寧にすくい上げ、それをプロダクトへと昇華するこのアプローチは、あらゆる中小企業にとってのヒントとなるだろう。(第3回に続く)

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