一般社団法人Metaverse Japanがメタバース領域の新しい実装や開発、事業化を促進することを目的に開催した「Metaverse Japan Hackathon」(詳しくは「初開催のメタバースハッカソン「Metaverse Japan Hackathon」。評価を得た“次代を創る”メタバースプロジェクトとは⁉」)。
最終審査のピッチには5つの企業、団体が登壇した。新メタバースを体現するかのような、従来のメタバースの利用法から一歩も二歩も進化したようなプロジェクトが多数紹介されたのだが、限られたメディアのみ参加できるクローズドで行われたピッチだったため、MetaStep(メタステップ)編集部は、登壇者に寄稿を依頼した。
2回目(1回目はこちら)となる今回の寄稿者は、特定非営利活動法人みみともLANDさん。みみともLANDは『難聴万博』について発表を行った。難聴万博は、難聴に対する理解を促すために作られたメタバース空間であり、コミュニティだ。それだけでなく、QOL向上と企業発展への貢献も目指している。
メタバースの新たな活用法に加え、コミュニティの新しいカタチとなるのか、ぜひご覧頂きたい。それでは、みみともLANDの高野さん、よろしくお願いいたします!
寄稿者
特定非営利活動法人みみトモランド 代表理事 高野恵利那(写真中央)
初めまして。みみトモランド代表理事の高野恵利那と申します。私は5歳頃中耳炎から両耳中等度難聴となり、今は左が高度難聴、右が中等度難聴です。手帳のないグレーゾーンに当てはまります。
グレーゾーンの人が抱えがちな問題点は以下の3つです。
3)聴こえにくさを発信できる人が圧倒的に少なく、かつ理解を得られにくい
私は学生時代よりコミュニケーションに悩み、いじめを受け、自己肯定感がとても低かったです。
「あの子みたいに『普通』になれない自分が苦しくて情けない、でも知られたくない。いなくなりたい」と考えていました。そのため、補聴器は高齢者やもっと聞こえない人がつけるものだと考え、障害があることを認めたくなくて15歳まで買いませんでした。
生きづらさや苦しさを素直に相談できる相手はおらず、グレーゾーンゆえの体験の中で、当事者が正しい最新医療の知識や補助機器・サービスとつながり、気軽に交流できる場を創りたいと考えるようになりました。企業や自治体とも連携し、当事者の社会環境整備をすることを目的に、現在みみトモランドとして活動しています。
人工聴覚情報学会、VisitJapanMetaverseと協働する中で、自分の得意なことや秀でているところに気づくことができ、自分を肯定することができるようになりました。
若い世代から高齢者まで、正しい難聴医療情報を得る機会は限られ、特に最新情報は自分で探さなければなりません。「みみトモランド」では難聴万博を通じて、SNS、メタバース、リアル会場で情報を提供し、QOL向上と企業発展にも貢献します。
難聴万博では、聴覚障害者福祉視点ではなく、聴覚活用や難聴医療において、療育・教育・就労までの情報全般を専門家の正しい情報を主体として、分かりやすく伝えていきます。
2024年度難聴万博(会場はこちら)では、1週間で来場者数は2000回を超え、最終的に4500回のアクセスを記録し、1人あたりの平均滞在時間は5分でした。
以下の表をご覧ください。中等度難聴の私は普段の会話で聞き返し、聞き間違いがあり、こそこそ話ができません。
現在看護師をしていますが、働く中での困難感は表3のとおりです。
日本には障害者手帳のない難聴者だけで推計1430万人います(参考文献:日本における難聴や補聴器装用の実情調査「JapanTrak(ジャパントラック)2018」)。
また、イヤホンやコンサート会場などの大音響で世界の若者10億人以上が難聴になる恐れがあると言われています(参考文献:2022年11月15日の医学誌BMJグローバルヘルス)。さらに、65歳以上になると約半数の人が難聴者になるという研究結果があります。
つまり、グレーゾーンの難聴が抱える困難は、誰にでも起こり得る問題です。遠い問題と感じるかもしれませんが、難聴は実は身近な障害なのです。
手帳ありの情報しかありませんが、他の障害者よりも転職経験は約4割と高く、2~3回繰り返す人が多いです。(参考文献:笠原桂子、廣田栄子 若年聴覚障害者における就労の 満足度と関連する要因の検討 Audiology Japan 59, 66~74, 2016年)
(参考文献:https://www.mhlw.go.jp/content/000653510.pdf)
聴こえにくさが原因で情報が不足し、仕事や人間関係がうまくいかず、転職を重ねる人が多くいます。
手帳のある難聴者だけで情報保障など雇用問題を解決することによる経済効果は総額173億円とされており、グレーゾーンの難聴者においても経済効果が一定量見込まれます。
当事者は聴覚障害への理解不足や障害受容、周囲への発信の難しさを抱え、コミュニケーションエラーを重ねやすく、失敗を繰り返しがちです。そのため、難聴者は聴こえる人に比べて、うつ病の発症リスクが女性2倍、男性3倍とも言われています。また、補聴器へのネガティブなイメージが影響し、軽度・中等度難聴者の補聴器普及率はわずか10%にとどまっています。(参考文献:坂本秀樹、安川文朗2022日本の補聴器ビジネスに関する一思考)
聴力不足による生きづらさの解消は、当事者の受け入れも難しく厳しい現状がありますが、解消による経済効果も大きく、取り組むべき課題です。
メタバースコミュニティ運営者として、メタバースには現在メリットとデメリットがあると感じています。メリットは以下3点です。
3)情報発信では動画や写真、デザインを活用して一つの空間で、商品についてより視覚的に伝えやすい
しかし、以下2つのデメリットによって活かしきれておりません。
2)届けたい側と市場が繋がりにくい
メタバースが進化していくにあたって、みみトモランドのように、ゲーム性だけでない共通の議題を持ち、日常的に人が集まるコミュニティとの連携が、市場と発信したい側をつなげる重要な役割を果たすと考えます。
人工聴覚情報学会とVisit Japanの協働のもと、2025年度も難聴万博を引き継ぎ、発展に努めます。各団体の強みを活かし、当事者が生きやすい社会環境を目指すイベントを共に創り上げます。
今後メタバース人口は増加していく見込みがあることからも、本事業は以下3点で社会に貢献できると考えます。
みみトモランドは、当事者が生きやすい社会づくりに加え、企業や自治体と連携し、メタバース活用で日本経済にも貢献します。ともにメタバースを盛り上げていきましょう!
いかがでしたでしょうか? 難聴など障害をお持ちの方々の課題や現状が理解でき、非常に意義のある活動であること、また、メタバースとの相性の良さを感じました。コミュニティとしてはますます発展していくと思いますが、その過程で社会的効果も引き起こすことができるか、今後も注目したいと思います。
次回は、MetaStepでもおなじみのHIKKYさんの話題のあのプロダクトについてご紹介予定です! お楽しみに!