Web3を用いて、個人がインフラの構築に貢献し、報酬を獲得できる技術「DePIN(ディーピン)」について、有識者であるNECさんに、DePINの基礎から未来まで知見をご共有頂く本連載。
第3回では、より深くDePINの構造とメリットを理解していきます。専門用語が増えていきますが、ひとつずつ丁寧に理解していきましょう。それでは、よろしくお願い致します。(第1回、第2回も併せてご覧ください)
通信事業者向けの基幹系/情報系システム開発にアプリケーションエンジニアとして従事。その後は、海外の様々なシステムインレグレーションや提案プロジェクトを経て、現在はWeb3などの新規ビジネス開発に取り組む。
井上智紀
入社以降、研究所にて新世代ネットワークの研究に従事。シリコンバレー地域に赴任し共創型で世界初の分散型ネットワーク制御装置の設計とOSS開発をリード。帰国後ブロックチェーンの研究開発と事業化推進を経て、現在はWeb3関連の新規ビジネス開発に取り組む。
小出俊夫
DePINはその性質上、ビジネスモデルをフライホイールの文脈に則って説明される事が多いです。ビジネスにおけるフライホイール効果とは、適切な段階に推力を加えることで、一度動き始めるとどんどん加速し、好循環が生まれて持続的な成長を実現するという事象です。
(引用: IoTex The DePIN network's flywheel)
これをDePINに当てはめたフライホイールの具体的な効果として、以下のようなポイントにまとめられます。
DePINは、多くの人が参加するほどネットワークの価値が高まります。例えば、Heliumのようなプロジェクトでは、個人が自宅にホットスポットを設置することで、ネットワークが広がり、より多くのデバイスが接続できるようになります。これにより、新しい参加者がさらに増え、ネットワークが急速に成長します。
DePINでは、貢献者に対して独自のトークン(暗号資産)で報酬を支払うことが多く、ネットワークが成長すると、このトークンの価値も上がる可能性が高くなります。トークンの価値が上がると、それに魅力を感じる新しい参加者が増え、さらにネットワークが大きくなります。こうして成功の循環が生まれます。
ネットワークが成長すると、多様な参加者が集まり、さまざまな視点やスキルが融合します。これにより、新しいアイデアや技術が生まれやすくなり、革新的なソリューションが次々と開発されます。これが、ネットワーク全体の価値をさらに高めます。
DePINのフライホイール効果により、ネットワークは持続的に成長し、効率的で革新的なサービスを提供することができます。参加者が増えるほどその価値が高まり、さらなる成長を促す強力な仕組みを持っているのがDePINの特徴です。これがDePINが注目される理由の一つです。
次はDePINを機能構成の面から読み解いていきましょう。DePIN は4 つの基本コンポーネントに基づいて構築されおり、そのアーキテクチャを支える各要素を順番に見ていきましょう。
(表: DePINの4つの基本要素)
これは、DePINの「実体」とも言える部分です。例えば、Wi-Fiルーター、センサー、ストレージデバイスなど、実際に目に見えて触れることができる機器のことです。DePINでは、こういった機器が分散して配置され、ネットワークを形成します。
ブロックチェーンの外で行われる処理や保存を担当する部分です。大量のデータを高速に処理したり、一時的に保存したりする役割を果たします。例えば、センサーから集めたデータを整理したり、分析したりする作業がここで行われます。
これは、DePINの「信頼の基盤」となる部分です。ブロックチェーンを使うことで、データの改ざんを防いだり、取引記録や重要なデータを安全に保存し、ネットワーク参加者全員で共有します。また、スマートコントラクト(自動実行されるプログラム)を使って、ネットワークのルールを管理することもできます。
これは、ネットワーク参加者に報酬を与えるシステムです。参加者がリソースを提供、例えば、Wi-Fiホットスポットを提供したり、データストレージを共有したりすると、トークン(デジタル通貨の一種)が報酬として与えられます。これにより、多くの人がネットワークの維持と拡大に協力するモチベーションが生まれます。
これら4つのコンポーネントが組み合わさることで、DePINは強力で拡張性のあるシステムを実現します。物理的な機器(物理インフラ)が、高性能な処理システム(オフチェーンコンピューティング)と安全な記録システム(ブロックチェーン)に支えられ、そして人々の積極的な参加(トークンインセンティブ)によって成長していく相互作用と言えます。
先述の4つの基本要素のうち、「ブロックチェーンアーキテクチャ」と「インセンティブメカニズム」を掘り下げてみましょう。
まずブロックチェーン自体の重要な仕組みであるコンセンサスアルゴリズムを説明します。
これは、管理者を持たないブロックチェーンにおいて、取引詳細といった台帳情報をブロックチェーンネットワーク内の全員で共有するため、全体の合意形成を行います。そうした合意を行う方法が「コンセンサスアルゴリズム」です。
つまり、ブロックチェーンネットワーク内の参加者が取引の正当性を確認し、一致した意見を形成するための仕組みです。
例えばイーサリアムやSolana、Polygonといった暗号資産は、それぞれ違ったブロックチェーンの基盤(アーキテクチャ)によって構成されており、どういったコンセンサスアルゴリズムが適しているかが決まっています。
(表: 主なブロックチェーン・コンセンサスアルゴリズム)
これらのアルゴリズムは、それぞれ異なる特徴と利点を持ち、ブロックチェーンの安全性と効率性を支えています。
第1回(テキストリンク:第1回URL)で取り上げたDePINプロジェクトFilecoinを例に、各プロジェクトで使用されているコンセンサスアルゴリズムについて具体的に説明しましょう。Filecoinでは主に以下の3つのコンセンサスメカニズムを採用しています。
(表: Filecoinのコンセンサスアルゴリズム)
次に、同様にFilecoinを例にして、インセンティブメカニズムとトークンの役割について説明します。FilecoinはFILというトークンを使用しており、ネットワーク内でインセンティブメカニズムを構築するために重要な役割を果たしています。
マイナーは、一定量のFILトークンを担保として預ける必要があり、これによって不正行為を防止し、ネットワークの信頼性を高めています。
FILトークン保有者は、ネットワークの重要な決定に投票する権利を持つことが出来ます。これにより、分散型のガバナンスが実現されています。
このように、FILトークンはネットワーク内で「通貨」として機能し、参加者間のやり取りを円滑にするとともに、ネットワークの安全性と成長を支える役割を果たしています。まとめると、
このように、具体的なプロジェクトに焦点を当てることでDePINのコンセンサスアルゴリズムとインセンティブメカニズムの理解が深まります。(第4回へ続く)