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2024.06.17

【知っておくべきWeb3の本質】第3回 Web3時代、お金はどう変わっていくのか

「知っておくべきWeb3の本質」の第3回、いよいよ本テーマの最終回です(未読の方は是非「知っておくべきWeb3の本質(第1回)~ビジネスにどんな影響を及ぼすのか」からご覧ください!)。

3回のテーマは「お金」です。気になりますねー!(笑) 経営資源の重要な一つである「お金」がWeb3時代にどのような影響を受けるのでしょうか。NTTデータの皆さま、今回もよろしくお願いいたします。

株式会社NTTデータ 金融イノベーション本部 ビジネスデザイン室
イノベーションリーダシップ統括部 統括部長

グリーン、量子コンピュータ、AI、RPA、データマネジメント、センシングファイナンス、メタバースなどの幅広いテクノロジー領域について各種コンサルティングや情報発信を実施、金融版NTT DATA Technology Foresightも責任者として推進。

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山本 英生

株式会社NTTデータ 金融イノベーション本部 ビジネスデザイン室
イノベーションリーダシップ統括部 課長

大規模金融システム開発、金融系コンサルタントを経て、現在は「テクノロジーは金融ビジネスを大きく変革させる」ということを主なテーマとし、金融ビジネスに影響を及ぼすテクノロジートレンドを、金融版NTT DATA Technology Foresightで調査・発信。

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土田 真子

株式会社NTTデータ 金融イノベーション本部 ビジネスデザイン室
イノベーションリーダシップ統括部 課長

入社以降、金融業界を中心とした数々の基幹系/情報系システムの開発にデータベースエンジニアとして従事。現在はWeb3やメタバースを含むテクノロジートレンドに係る情報発信や戦略検討、新規ビジネス発掘に取り組む。

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相川 あずさ

はじめに

Web3のような分散型ネットワークが、お金の形にも影響を及ぼしつつあります。例えば、ブロックチェーン技術の登場で、中央管理者を介さなければできなかったお金のやり取りが当事者間で実施できるようになりました。

1でご説明したNFTDAO、暗号資産などがその例にあたります。このような仕組みを使うことで、従来の発行/事務コストを削減して、多数の個人から少額ずつ集めるモデルも可能になりました。

また、昨今のデジタル地域通貨のブームは、特定の地域内で流通させることにより、地域経済の活性化を目指すその姿勢と無関係ではありません。一方で、これらのやり取りは未だ投機的な要素も強く、「自己責任」の世界であることも第1回でご紹介したとおりです。

これまでWeb3の本質およびテクノロジーとビジネスへの影響を見てきましたが、最終回では、web3のようなテクノロジーの進化と対峙しての「お金の未来」と、そこに大きく関わる銀行の役割への影響を見ていきます。

分散型ネットワークにおける新たなお金の機能とは

お金が持つ3つの機能として、持ち続ければ富を蓄えられる「価値の保存機能」、お金を媒介して様々なモノを決済できる「交換機能(決済機能)」、商品やサービスの値打ち、価値を決める物差しとしての「価値の尺度機能」があります。また、現金の特徴としては「匿名性」「不特定性」「代替性」があり、これらの特徴があるおかげで、入手が容易になっています。こうした機能は普遍的なものであり、一朝一夕に変わるものではありませんが、ここでは、分散型ネットワークにおいて新たに生まれている二つの「お金」の価値を整理してみましょう。

 

①情報の可視化・価値の精緻化

現代のお金は、一定の価値(一物一価)でスピード感を以て効率的に交換できることに重きが置かれています。運びやすい、腐らない、小分けにできるといった現在の貨幣の原型はこの価値観の下で最適化されたものであり、その他の機能を盛り込むようには設計されていません。こうしたお金の限界が、テクノロジーにより変化しつつあります。デジタル決済は基本全てデータとして記録されています。

これまでは「個人ごとに履歴を辿りその物やサービスを手に入れるに値する人かどうかを判定することがデータ的にも計算量的にも難しい」からこそ、お金に込められる価値は限られていましたが、デジタル化によりこの制約が解消されつつあります。

今後、既に実現しているダイナミックプライシングのように物の価値の精緻化が進むと、究極にはお金は価値基準の判断のみに使われ、交換を仲介しない世界が実現される、ということもできます。現代における物々交換の復活です。一方で、すべての価値を可視化する動きは、お金の特徴である匿名性に反しているともいえます。中国の信用スコア格付けのような、ビッグブラザー的世界観を助長させる可能性があることも触れておかなければなりません。

②自らのwill=想いが込められる

人とのつながりや信頼関係、共感といったプライスレスなものを、逆説的な言い方になりますが、デジタル化したお金に込めようという動きが出てきています。「ありがとう」などのメッセージや感謝のチップを付与した形で使えるコミュニティ通貨が登場しており、YouTubeなどの配信を通じて行うデジタル投げ銭もお金にwillを込める一つの形として挙げることができます。これまで普通口座に貯めているだけではすべて同一だったお金に色を付けているアプリ上の「目的別貯金」のように、お金を使う目的や対象を限定することもできます。

バンキングへの影響

こうしたお金の変化が進むと、お金と関わりの深い銀行のビジネス構造と役割はどう変わっていくでしょうか。

 「お金を安全に保管、管理する」役割は、富の蓄積に現金を用いることが今後減っていくと、従来の現金を金庫やATMで守るスタイルから変わっていくでしょう。銀行強盗ではなく、サイバー犯罪から身を守る重要性が高まっていることは、後者の数が既に大きく増加していることからも窺えます。

 「お金の預金という運用手段を提供する」役割は、今後給与デジタル払いで残高上限などの制度変更があった場合、給与の銀行振込手数料の減少など、少なからぬ影響が発生する可能性があります。これまでの給与振込口座獲得・維持には競争原理が働いていなかったとも言われていますが、昨今はデジタルバンクで利便性を高めたり、SDGsのような理念を追求したりすることで口座開設を促すケースも出てきています。

 「お金を貸し出す」資金調達機能については、クラウドファンディングやトークンエコノミーといった新たな資金調達手段が登場しています。トークンを使った資金調達自体は、ブロックチェーン技術の登場と共に過去から既に登場していましたが、昨今のWeb3の盛り上がりにより改めて注目されている印象です。

 今後も、こうした現金以外での資金調達手段はweb3だけではなく、様々なテクノロジーの進展により広がっていく可能性があります。そしてそのことは、従来の商習慣や、将来のビジネスにおいて主役となる企業も大きく変える可能性を秘めています。また、今後先に挙げたお金の情報の可視化・精緻化で、貸し手と借り手で資金貸借に必要な情報の質と量が異なる情報の非対称性が減少すると、わざわざ銀行を介して資金調達する必要性は弱まっていくと考えられます。

 金融仲介機能は情報の精緻化だけではなく信用管理のためにも大きな意義があり、今すぐ直接金融だけになる世界は想像しがたいものの、こうした世界観においては、銀行には預金仲介機能よりも市場仲介、マッチング機能が求められるようになるでしょう。

 「お金を決済する」役割は、昨今のデジタルアプリを通じての従来よりもはるかに速いスピードでの送金の実現により、特に個人間送金においては銀行口座の存在感は弱まっています。即時決済・低コストを武器にしたお金のデジタル化は商取引を円滑にすることや企業の資金効率の改善も期待されています。法定通貨などを裏付けに、値動きを安定させた民間通貨を使えば、従来の商慣習で紙を使ってきた取引をデジタル化し、書類管理コストを減らすことができます。スマートコントラクト(契約自動執行)で、商取引の信頼性を担保しながら契約のスピード感を上げることも可能とされています。

今後起こり得る「お金の未来」

近未来、おそらく現金というのはどこか非日常感を思わせるものとなっているかもしれません。シームレスな決済が浸透し、財布という言葉が死語になっている可能性もあります。モノの値段は自身のこれまでの購買履歴やお店の売れ筋、そして自身の購買力(どれだけ質の良い「お金」を持っているか)によって変化し、メタバースのような仮想空間でモノを購入する障壁は今よりも格段に低くなると思われます。

逆説的に、リアル空間に店舗を持てるのは、リアル/デジタル両輪で価値を提供できる一部の体力のある企業に限られてくる可能性もあるのではないでしょうか。モノの価値づけが厳密にできるようになることで、交換する両者の要求を一致させることが可能となり、交換金額の大きくないC2C取引は直接モノとモノを交換することが可能となるかもしれません。

お金は持っていれば持っているほど良いという「お金持ち」という表現も死語に聞こえるかもしれません。その姿かたちが見えない中、日本の円を使う、という概念はより希薄化する可能性もあります。

Web3の分散型ネットワークが、単純なお金の取引の形だけではなく、お金の在り方そのものにも影響を及ぼしていく可能性をご紹介しました。現在では夢物語のように映るかもしれませんが、たとえば2045年、今の子供が大人になった頃に「お金とは何か」と聞くと何と返ってくるでしょうか。その姿は生活上意識されることなく透明化/分散化し、金額の多寡だけではないもっと多様な価値を柔軟に受け止められる世界に変化しているかもしれません。