1. MetaStep TOP
  2. Web3・メタバースの実装を進める
  3. 「DID×防災」の実証。福岡・飯塚市が見た現実

2026.10.08

「DID×防災」の実証。福岡・飯塚市が見た現実

災害時避難所では、紙の受付票に名前や住所を手書きする長蛇の列ができる。スマートフォンによる受付の迅速化が求められてきた一方、平時に使い慣れていない仕組みを突然の災害時に利用するのは難しく、防災DXと現場のギャップが課題となっていた。
こうした理想と現場のギャップを埋めるべく、Web3技術を用いた日本初の試みが福岡の地で形となった。渋谷Web3大学株式会社、株式会社かんがえる防災、Turing Japan株式会社の3社連合は、福岡県飯塚市とともに取り組んだ「DID/VC×防災」(※)の実証実験を終え、全42ページの事業終了レポートを市へ提出した。

「平時の学びの証明」に用いられるデジタルデータが、そのまま「有事の本人確認証」へと転換される新たなアプローチは、ブロックチェーンが人々の安全を支える社会基盤へと根づくための現実的な道筋を照らしている。(文=MetaStep編集部)

(※)DID/VC:企業や政府に頼らず、自分自身のスマートフォンなどでIDやデジタル証明書を安全に管理・提示できる新しい仕組みのこと

▼ビジネス活用のヒントを毎日掲載!
Web3・メタバースの実装を進める『MetaStep』

受付時間を半分に短縮。日常の学びを有事の証明へ

福岡県飯塚市の「令和7年度飯塚市先端情報技術実証実験サポート事業」として、2025年12月から2026年3月にかけて実施された本実証は、自治体として国内初となるDID/VC(分散型識別子/検証可能証明書)を活用した防災プロジェクトだ。

(引用元:PR TIMES)

実証の核となったのが、「一つの証明書、二つの価値(One VC, Two Values)」というコンセプトである。平時の取り組みとして、8週間にわたり全56問の「飯塚市かんがえる防災クイズ」を配信。あえて「正解がない」設計とされた問いを通じて市民の主体的な思考を促し、継続学習の成果として3段階のDID/VC証明書を発行した。

そして有事の検証として、式典会場でクイズ修了者が証明書をスマートフォンで提示し、避難所受付を通過するシミュレーションを実施した。

得られた成果は具体的だ。手書きによる従来の受付時間が平均151.06秒であったのに対し、DID/VC認証を用いた受付時間は平均68.96秒と、所要時間をおよそ2.2分の1に短縮した。純粋な認証処理だけであれば約24秒で完了しており、避難所側も専用アプリを導入することなく、Webブラウザとスマートフォンのカメラのみで真正性を即座に確認できる体制を実証した。

見えた“操作の壁”と“棲み分け”。技術を日常へ定着させる設計思想

本実証の報告書が価値を持つのは、効率化の数字以上に「現場で直面したリアルな壁」を克明に記録している点にある。

受付時間が約69秒に短縮されたとはいえ、純粋な認証以外の約45秒は「証明書を画面に表示する」「案内メールを探す」といったユーザー側の操作に費やされていた。暗号技術の処理速度ではなく、UIや専門用語の難解さといった「人と技術をつなぐ翻訳の不備」こそが真のボトルネックであることが浮き彫りになったのだ。

さらに、既存の公的インフラとの棲み分けについても現実的な示唆が得られた。住民台帳と紐づくマイナンバーカードが担える領域で無理に競合するのではなく、公的身分証では即座に対応しにくい外国人避難者の受け入れや、災害ボランティアのスキル・活動証明といった、VC固有の機動力が生きる領域への適用こそが合理的であるという結論を導き出している。

技術の真価は、その先進性を誇示することではなく、人々の暮らしの中に違和感なく組み込まれる点にこそある。飯塚市と3社連合が積み上げた実証の記録は、デジタル証明書が社会の当たり前なインフラとして定着するための確かな足がかりとなるはずだ。

▼ビジネス活用のヒントを毎日掲載!
Web3・メタバースの実装を進める『MetaStep』