メタバース空間でのコミュニケーションにおいて、視線や表情の伝達は欠かせない。だが、専用の機器は、特に眼鏡愛用者にとって物理的な装着の壁が存在していた。しかし今回、日常使いの眼鏡をかけたままでも、仮想空間で自然なアイコンタクトを実現するデバイスの対応領域が拡大した。非言語の感情表現がメタバースのコミュニケーションをどう豊かにしていくのか、新技術の可能性を探る。(文=MetaStep編集部)
2026年7月、VR技術で新たな体験を生み出すIPテクノロジー企業の株式会社AoharuNEXTは、VRSNS向けアイトラッキングデバイス「FocusRay Extension(フォーカスレイ エクステンション)」が新たに眼鏡へ対応したと発表した。本製品は同年4月に発表され、当初は度入りの視力補正レンズとの併用を前提としていたが、開発を進める中で眼鏡での利用も可能であることが確認され、正式な対応に至った。
(引用元:PR TIMES)
アイトラッキングは、ユーザーの視線の動きを仮想空間のアバターへリアルタイムに反映させる技術だ。しかし、これまでの外付けデバイスでは、ヘッドセット内のスペースや固定方法の問題から、眼鏡をかけた状態での使用が困難だった。
同社は特許出願中の磁気吸着方式を採用することでこの状況を改善。カメラが取り付けられたアームが左右に伸縮し、複数デバイスにも対応。当該アームをお手持ちの眼鏡の内側に入れた上で、ノーズブリッジ部分に本体部品を引っ掛けて固定する。これにより、レンズの厚みが5ミリメートル以下、眼鏡の縦幅が5センチメートル以下といった一定の条件を満たせば、普段使いの眼鏡をかけたままでも遜色のない視線追跡を体験できる。
単体価格は17,700円(税込)に抑えられており、情報処理基板を搭載したコアモジュールには給電・通信用のUSB Type-Cポートを複数備え、USBスプリッターなどを使わずに周辺機器を接続できる設計となっている。Meta Questシリーズなど多様なヘッドセットに対応し、仮想空間での豊かな感情表現へアクセスできる環境を整えた。
メタバース空間のコミュニケーションの質は、アバターが人間の細やかな感情をどれだけ表現できるかに左右される。言葉のやり取りだけでは伝わらない「相手の目を見る」「視線を逸らす」といった非言語の情報こそが、対話に深い共感をもたらすからだ。視線の動きがアバターに宿ることで、デジタル空間のやり取りは現実の対面に近い深みを持つだろう。
その恩恵を受けるデバイスが眼鏡を使用しない層に限られていたことは、仮想空間が社会インフラとして成熟する上での障壁であった。眼鏡を日常的に使用するマジョリティが物理的な理由で高度な表現ツールから切り離されてしまえば、メタバースは限られたユーザーだけの空間にとどまってしまう。
今回の眼鏡対応へのアップデートは、こうした技術的な分断を解消する実践的なアプローチだ。特別な度入りレンズを別途用意する手間をかけず、普段の生活と同じ状態でヘッドセットを装着し、自然に視線を交わすことができる。
視線を通じた深い対話が可能になれば、仮想空間を活用した心理カウンセリングや遠隔教育、ビジネスの商談といった場面での実用性が飛躍的に高まる。相手の関心度や感情の揺れを直感的に把握できる環境は、対人関係に不安を抱える人々に安心感を与え、現実社会でのコミュニケーションを築くためのステップとしても機能するだろう。
デジタル空間における表現の制約が取り払われることで、誰もが等しく豊かな感情を通わせ合える環境が整う。視界の拡張がもたらす自由なコミュニケーションの場が、人々の確かな絆を育んでいくはずだ。