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  3. XRは「目的」ではない【連載】「教室を飛びこえて」第6回

Web3・メタバースの教育活用事例を紹介する本連載。教育現場へのXR導入は進みつつある一方で、機材が十分に活用されないまま眠っているケースも少なくありません。その差を生むのは、デバイス性能ではなく「どんな学びを実現したいのか」という設計思想です。今回は、全国の学校現場でXR活用を支援するmonoDuki代表の村上将太郎さんを取材。生徒の主体性や探究心を引き出すXR活用の可能性と、現場で直面する運用課題、そして持続的な活用を実現するための実践的アプローチを伺いました。(文=MetaStep編集部)

monoDuki合同会社 CEO
村上 将太郎さん

1997年、鹿児島出身。幼少の頃からテクノロジーに興味があったものの、学べない環境だったことが原体験。地元で挑戦のロールモデルになりたいと起業家を志し「自分が課題だと感じていた環境を変えるにはテクノロジーが必要になる」と、鹿児島工業高等専門学校に進学。卒業後、鹿児島大学工学部に編入学。2020年に鹿児島スタートアップmeetupの開催をきっかけに、鹿児島市と協力しスタートアップのインキュベーション・支援を開始。2023年からXR Meetup Kagoshimaの活動に参画。教育コンテンツの企画・展示会などに参加。ガジェット好きで、ARグラスからウェアラブルディスプレイへ進化を続けるXREALを愛用中。

百見は一体験に如かず

昨今の教育現場では、AIやタブレットの導入など、新しい技術やデバイスの導入が進んでいます。XRも数年前に急激に導入が進んだものの一つですが、買って少し触り、学校の倉庫に眠ったままのXRデバイスも多いといいます。「XRの領域は一時的な流行という見方ではもったいない。設計の仕方で、従来の教科書や平面的な映像では得られない教育的価値が生まれます」そう語るのは、鹿児島県を拠点に各地の企業や学校のDX支援を行う、monoDuki代表の村上将太郎さん。

大学院(情報・生体工学)の修士研究で、XR技術と教育工学を横断し、学習意欲や行動変容につながる体験設計を研究してきた村上さん。その中で大切にしてきた考えが「百聞は一見に如かず、百見は一体験に如かず」。この言葉を軸に、XRの可能性を信じて教育現場への提案を続けています。

村上さんは「XRは刺激の量、つまり体験のインプット量が圧倒的に多いため、気づきのチャンスを劇的に増やすことができます」と語ります。
その一つが「失敗の可視化」。プログラミングが必修化されている現在では、AIを活用すれば、見た目だけなら完成品に近いものを容易に作れてしまいます。しかし一見問題がなくても、内部的にはバグが起きていることもあり、なかなか気づきにくいのが問題。「“よくわからないけど、できた”が起こってしまうようでは、子どもたちの思考力は鍛えられません」(村上さん)

一方、UnityなどでXRデバイス向けのゲーム等を作る際、バグは目で見てわかる形で表れます。VR空間で動けない、床がなくて下に落ちるなどの不具合は、視覚的に把握しやすく、原因にも気づきやすい。実際に原因を探るときも空間を移動し近づいて観察するため、原因究明への考えを働かせやすい。

「そうしたプロセスを踏んでいくと、一つの角度からではなく複数の面から物事を考える能力を身につけることができます。3Dモデルや体験型コンテンツとして失敗を積み重ねる体験が、生徒の検証・改善志向を育むきっかけになるのです」(村上さん) 

(引用:PRTIMES)生徒が制作したゲームを、生徒自身がプレイして確認する。「体験」を通すことで課題も見えやすい

先生側のメリットもあります。空間の構造や安全上のリスクなど、言葉や画像では伝わりにくいものを、立体的な体験として提示できる点です。工業高校での安全教育やデジタルアーカイブでの空間理解など、座学だけでは難しい学習の解像度を上げられます。平面の情報を立体(空間)として受け取れるため、生徒も自然と「すごい!」と口に出すなど、感想や気づきを言葉にしやすい。そこから先生・生徒間の対話や問いが生まれるインタラクティブな授業へと転換しやすいことも挙げられます。普段前に出ない生徒が、XRを用いた授業では急に反応が変わり、教える側に回って発言が活発になるといった事例も見られています。

「相手に合わせた提案」を常に意識

ここで具体的な事例として、茨城県水戸葵陵高等学校のDXコースでの取り組みを紹介します。

同校で村上さんがまず行ったのは、「誰に・どんな体験をしてほしいか」というアウトカム(成果)の定義でした。水戸市という立地、修学旅行というプログラム、新設コースで成果を出したい学校の狙い、そして教育方針「文武不岐」——これらを踏まえ、高校生の地元愛(シビックプライド)醸成と、地域・行政への貢献を両立するように設計。単発で終わらせず、VR空間の「更新しながら作り続けられる」特性を活かして、学校が継続して取り組めるプロジェクトとしてデジタルアーカイブを位置づけました。

「いきなりVR制作に入るとカオスな空間になりやすい。だからまず手書きで平面図や展開図を描き、"誰に、どんな体験をしてほしいか"というコンセプトを詰める。すると単なる技術習得ではない、探究的な学びが生まれます」(村上さん)

根底にあるのは、「地域とのつながりの中で、次の世代を育てたい」という思い。だからこそ、デジタル人材育成を地域や産業の現場と接点を持つ形で設計しているのです。学校の中だけで完結させず、地域や行政との協力関係づくりも進める——学びを地域へとつなぐ、まさに"教室を飛びこえる"取り組みです。

(引用:PRTIMES)パソコン上で空間を操作する前に、手描きで平面図と展開図を作成

(引用:PRTIMES)描いた空間イメージを発表している生徒

学年を超えた連携システムも特徴的。2年生が前年度に学んだ工程を、1年生に教える学年間連携プロセスを構築。教え合う仕組みを作ることで、外部支援がいらなくなる自走の形を目指しています。

二年生は一連の流れを経験しているため、新たに企画を作って実際に手を動かしてものを作る一方で、一年生には自分たちが経験したプロセスを教えます。これにより、独自の学習システムを実現。生徒や学校自身が自走できる仕組みを構築しています。

ただ、この事例は水戸葵陵高等学校に合わせた伴走支援の進め方だと村上さんは語ります。「まず学校、各クラス、そして各生徒のキャラクター像をしっかり把握し、その相手に合った”体験の組み立て方や進め方”を設計します。生徒が盛り上がりやすいタイプであれば、こうした事前設計より先に体験して感覚をつかんでもらうなど、臨機応変に順番は変えています」(村上さん)。ビジネスの基本である、「相手に合わせた提案」が教育現場にもしっかり活かしているようです。

なぜ「埃をかぶった機材」が生まれるのか

ただ、昨今の教育現場ではXRデバイスを購入したものの、使われないまま眠らせているという現実も少なくありません。村上さんによれば、普及が進まない背景にはいくつかの障壁があります。

「まず、誰が管理し、授業でどう使うのかが未定のままというケース。それに加えインフラの障壁もあります。学校のWi-Fiが弱く複数台を繋ぐとパンクする、あるいはアクセス制限(フィルタリング)によってアプリのダウンロードができないといった、ネットワーク環境の未整備も大きな障害となっています。さらに、運用の知識不足と多忙さも重なります。XRデバイスの管理システム(MDM)への登録やセットアップ作業は他のPCなどとの違いもあり、多忙な先生方が独力で完結させるのは困難なことも少なくありません。XRに詳しい一部の先生だけが活用し、その先生の異動や転勤を機に活用が止まってしまうケースも少なくありません。

こうした課題に対し、村上さんは、機材の進化を待つのではなく現在の環境で最大限の効果を出すための具体的アプローチが必要だと説きます。

まずは目的(アウトカム)を起点にしたロードマップづくり。機材を入れる前に、担当の先生方と一緒に「どんな経験を通して、何を養いたいか」という目的を言葉にしていく。そこから必要な手立てを逆算して挙げる。XRは、その目的を実現するための選択肢の一つにすぎません。monoDukiはあくまで、その設計を先生方と共に描く伴走役。目的が共有できていれば、インフラに制約があっても少人数グループで回すなどの工夫が見えてきます。

インフラについては、環境の事前チェックと専門家への早期相談。導入を検討する初期段階から、運用知識を持つベンダーを交え、「実際に授業で複数台動かせるか」を確認する。必要であれば、XR専用の回線構築も含めた提案を求めるべきでしょう。

そして生徒を巻き込み、役割を与えること。先生がすべてを使いこなす必要はありません。生徒に初期設定や操作方法を教え、生徒同士で教え合う仕組みを作れば、先生の負担は軽減され、生徒の主体性も育まれます。

生徒の力を借りたぶん、先生は「この空間でどんな体験をさせるか」という設計(デザイン)に時間を割く方が教育的効果は高いといえます。XRのように直感的なツールを活用するのであれば、まずは「作って触れる」ハードルを下げることから始めるのが得策です。

「プランニング」と「判断」の能力が必要となっていく

教育現場におけるXR活用は、今後、一部の特別な授業から、探究学習や職業理解の中で「自然に使われる道具」へと進化していくことが見込まれます。「Meta Quest をはじめ、昨今のハードウェア性能は十分。デバイスの進化を待つ必要はありません。それより現場で再現できる授業モデルや運用モデルの確立が優先。先生向けの支援体制の整備もその1つです」(村上さん)

これからのAI共生時代に人間に求められるのは、「プランニング」と「判断」の力です。その背景には、村上さんの問題意識があります。労働人口が減り、多くの現場が業務効率化を迫られるなか、人手をかけて支えてきた産業の多くは地方にある。そこに積み上がった技術や経験は、これからの日本の強みになり得る——けれど現場は日々の業務に忙殺され、次世代への継承や効率化にまで手が回らない。

だからこそ村上さんは、次世代人材の育成に力を注ぎます。「将来そうした現場に立つ高校生たちが、目の前の課題に『AIやデジタルを使えばこうできる』『これとこれを組み合わせればもっとよくなるのでは』と考え、実際に形にできる力を持っていてほしい。その力が広がれば、日本はもっと強くなれると思っています」(村上さん)。それはまさに、XRを通じて養われる多面的な思考と、プロジェクトを遂行する力にほかなりません。

XRやデジタルは、そのための入口にすぎません。今回のような取り組みでは、特定の担当者に依存せず、会社として伴走し、最終的に現場が自分たちで回せる状態(自走)をつくる——その伴走こそが、学びを続いていくものにする鍵だと村上さんは考えています。