「地域通貨アプリをダウンロードしてください」。そんなストレートな呼びかけだけで、人々の行動を変えることは難しい。日常の買い物を便利にするためのデジタルツールも、利用者に最初のステップを踏み出させる「きっかけ」がなければ、街のインフラとして定着することはない。
このハードルを越えるため、ブロックチェーン技術を用いた新しいアプローチが注目を集めている。街を歩くという体験の中に「楽しさ」と「特典」を組み込み、自然な流れで地域通貨の世界へと人々を誘う。デジタルとリアルが交差する新たなマーケティング手法は、地方創生にどのような変革をもたらすのだろうか。(文=MetaStep編集部)
2026年4月2日、企業のNFTマーケティングを支援するSUSHI TOP MARKETING株式会社は、東京都東村山市内で開催されたイベントにおいて、デジタル地域通貨「東村山アインPay」と連携したNFTデジタルスタンプラリーの実証実験を行ったと発表した。
(引用元:PR TIMES)
「東村山アインPay」は、市内で年間約1,600億円以上の消費が市外に流出しているという課題を解決するため、地域に富を留めるプラットフォームとして運営されている。すでに31,000人超のユーザーを持つが、さらなる利用拡大のためには、まだアプリを使っていない層を自然に巻き込む仕組みが必要だった。
(引用元:PR TIMES)
そこで導入されたのが、LINEのみで完結するNFTスタンプラリーだ。参加者は専用アプリをインストールする必要がなく、イベント会場に設置された22カ所のQRコードをスマートフォンで読み込むだけで、デジタルスタンプとしてのNFTを獲得できる。集めたスタンプの数に応じて、アインPayのポイントが特典として付与される設計だ。
スタンプラリー自体は誰でも参加できるが、特典のポイントを受け取るためにはアインPayへの登録が必要となる。つまり、「街を楽しく歩く」という体験そのものが、自然と新規ユーザー登録への強力な導線として機能しているのだ。結果として1日で1,047件のNFTが配布され、215名が参加するという成果を上げた。
地方自治体が独自のデジタル通貨を発行するケースが増えているが、そこで直面するのが「住民にどうやってアプリをインストールさせるか」というハードルだ。単に決済の利便性だけを訴求しても、すでに普及している巨大な民間決済サービスに対抗することは難しい。
このジレンマに対し、東村山市の実証は鮮やかな解決策を提示している。NFTという最新技術を「決済のおまけ」として使うのではなく、非ユーザーを地域通貨圏へと引き入れるための強力な「入り口」として活用した点だ。
参加者は、マルシェの熱気の中で純粋にスタンプ集めを楽しんでいる。しかし、その過程で複数の店舗を巡り、最終的な特典を受け取る段階でごく自然にアインPayのユーザーとなっている。「地域のためにアプリを入れてください」とお願いするのではなく、体験の楽しさをフックにして自発的な行動を促す秀逸な行動デザインと言える。
また、地域に富を留めるためには、住民が街のどこに集まり、どのような経路で買い物をしているのかという「生きた経済の動線」を正確に把握しなければならない。スタンプラリーを通じてブロックチェーン上に記録された店舗横断の回遊データは、従来の決済データだけでは見えなかった消費者の行動パターンを浮き彫りにする。
地域通貨の真の目的は、決済の手間を省くことではなく、地域内で経済が循環するエコシステムを築くことにある。テクノロジーを表に出さず、住民に「楽しさ」を提供しながら街の消費活動を分析・活性化していくこのアプローチは、地方都市が自らの経済圏を守り、持続可能な豊かさを築き上げるための一手となるはずだ。