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2026.04.09

自治体がNFTで「関係人口」をつくる時代~TOYAMAみらい市民パスポートが示す新しい答え

日本円だけでNFTの発行や売買ができる、日本初のNFTマーケットプレイス「HEXA(ヘキサ)」について学ぶ連載。
ここ最近、デジタル住民票において革新的な事例が富山市で生まれました。「無料・抽選式」という「TOYAMAみらい市民パスポート」の誕生に応募者が殺到。

「デジタル住民票=NFT販売で収益を得る手段」という見方が薄れていくなか、未来をどう見据えるのか。吉野さんのお考えを語っていただきました。(リード文=MetaStep編集部、本文=吉野渉さん)

執筆者

株式会社デイジープレイス
代表取締役COO 
吉野 渉

デイジープレイスでは企画作成、メタバース、NFT、AR等を担当。RobiZy(ロボットビジネス支援機構)主催NFTコンペ「アイデア部門」GPや販促コンペ「協賛企業賞」、徳島DXフォーラム「ソフトバンク賞」など多くの受賞歴あり。HEXA(ヘキサ)との関わりでは、個人でHEXA公認アンバサダー、HEXA公認メタバース建築家を務める。デイジープレイスは法人としてHEXA公認エージェントに参画。

こんにちは、デイジープレイスの吉野です。

準備数1,000枚に対して、応募数は2,433枚。倍率にして約2.4倍、TOYAMAみらい市民パスポートは近年稀に見る応募数を記録しました。2026年1月20日から2月15日までの約26日間で、これだけの申し込みが集まりました。しかもこのNFTの価格は0円です。

TOYAMAみらい市民パスポートは、富山市が県外居住者を対象に発行したデジタル登録証(NFT)です。抽選の結果、1,000名が当選し、1,433名が落選しました。無償にもかかわらず、需要が供給を大きく上回ったこの結果は、自治体×NFTの新しい可能性を示す一つのデータとして記録されます。

今回のHEXAの教科書では、このパスポートを題材に、自治体がNFTで何を実現しようとしているのかを深掘りします。

デジタル住民票とは何か、おさらい

デジタル住民票は、特定の地域に「ゆかりがある」「応援したい」という人が取得できるNFTです。実際に住んでいなくても、その地域のコミュニティに参加できる証明書として機能します。

ふるさと納税がお金を介した地域とのつながりだとすれば、デジタル住民票は気持ちと関心を介したつながりといえます。

HEXAはウォレット不要・日本円対応という特性から、こうした「NFTに馴染みのない一般層」にリーチしやすく、自治体との相性が良いプラットフォームです。

TOYAMAみらい市民パスポートNFT 宣伝バナー

従来のデジタル住民票が抱えていた問題

これまでのデジタル住民票には、ビジネス的な発想が混在していた側面があります。「NFTを販売して、その収益を原資に特典や返礼品を用意する」という設計です。

しかしこれは、自治体にとっていくつかのリスクをはらんでいました。

① 販売数が読めない
どれだけ売れるかわからないため、余剰収入が発生する可能性があります。自治体にとって「想定外の収入」は会計処理上の問題になりかねません。

② 二次流通ロイヤリティの扱いが難しい
NFTには二次流通時のロイヤリティ設定が可能ですが、自治体がその収益を受け取る仕組みは、法的・会計的に整理が難しい部分があります。

③「売れること」が目的にすり替わる
本来は関係人口の創出が目的のはずが、NFT販売の収益最大化という視点が混入すると、設計の軸がぶれます。

TOYAMAみらい市民パスポートが示した「自治体らしい答え」

富山市のアプローチはシンプルです。

・NFTは0円で発行

・特典・返礼品は市の予算で用意

・収入は生まない。支出のみで成り立つ設計

これは一見、ビジネス的には非効率に見えます。しかし自治体の目的を考えると、むしろこちらが正しい構造です。

市が提供する特典は、ANAクラウンプラザホテルの宿泊券、富山ガラス工房の体験チケット、すし券など、富山を「体験」させるものが並びます。富山駅前のコワーキングスペース「スケッチラボ」の無料利用も、県外の人が富山で仕事をするきっかけとして機能します。

これは販売収益を原資にしていないからこそ実現できる、予算管理された返礼設計です。

民間と自治体の構造的な差異

率直にいえば、このモデルを民間のビジネスに転用することは難しいと思います。

民間プラットフォームがデジタル住民票的なNFTを発行し、特典を提供しようとすれば、収益の裏付けが必要になります。NFTの販売収益を原資にするか、スポンサーを集めるか。いずれにしても、「誰かが得をする構造」が必要です。

しかし自治体は違います。予算が先にあり、目的のために使うという行政の仕組みそのものが、このモデルを支えています。NFTが何枚配布されても収益にならない。それが自治体には「問題ない」のです。

デジタル住民票の価値が、これから見直される

TOYAMAみらい市民パスポートの誕生により、「デジタル住民票=NFT販売で収益を得る手段」という見方は薄れていくと思います。むしろ既存のデジタル住民票も、改めて関係人口の証明書・地域コミュニティへの入口という本来の価値で評価されるようになるでしょう。0円・抽選・1,433名の落選者という事実が、そのことを端的に示しています。

TOYAMAみらい市民パスポートが残した示唆

HEXAというプラットフォームが、自治体の「関係人口づくり」という行政課題に応えられることを、この第1回の結果は裏付けました。ただ、ここで立ち止まって考えると、本当の問いはむしろこれからです。

1,000名の当選者は、富山市のコミュニティに入り、特典を利用し、富山を「体験」します。そのなかから実際に富山を訪れる人が何人生まれるか。リピーターになる人は何人か。あるいは移住の検討に至る人は出てくるか。パスポートはあくまでも「入口」であり、関係人口の創出とはその先にある継続的な関わりを指します。

一方で、1,433名の落選者の存在も無視できません。応募したという事実は、富山への関心の表明です。この層をどう次につなげるかは、第2回の募集が行われるかどうかに関わらず、施策全体の設計として問われるところです。

また、今回のモデルが広がれば、全国の自治体が同様のアプローチを検討し始めることも考えられます。その場合、HEXAが自治体向けのインフラとして機能する可能性があります。無償配布・抽選・予算管理という今回の設計は、他の自治体にとっても再現性のある手法です。

0円のNFTに2,433件の応募が集まったという事実は、「NFTは難しい」「一般には広まらない」という空気を静かに塗り替えます。仕組みが正しく設計されれば、人は動く。TOYAMAみらい市民パスポートが残した最大の示唆は、そこにあるかもしれません。。