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日本企業のためのDAO活用戦略 — 「合同会社型DAO」が切り開く未来

2021年、英コリンズ英語辞典が選ぶ「今年の流行語」大賞に「NFT」が選ばれました。その熱狂と時を同じくして、Web3の世界で急速に広まったもう一つの言葉があります。それが「DAO(Decentralized Autonomous Organization:自律分散型組織)」です。

「社長のいない会社」「特定の管理者がいなくても自律的に動く組織」——。そんな理想を掲げ、当時多くのDAOが雨後の筍のように乱立しました。米国の「ConstitutionDAO」が合衆国憲法の原本を競り落とすためにわずか数日で4,700万ドル相当(当時のレートで約50億円以上)を集めたニュースは、その熱狂の象徴として記憶に新しいでしょう。

しかし、かつての熱狂は去り、多くのDAOは活動停止や事実上の解散に追い込まれました。「DAOはオワコンだ」「結局、機能しなかった」という冷ややかな声も聞かれます。

果たしてDAOは、一過性の流行に過ぎなかったのでしょうか。それとも、ハイプ・サイクル(過度な期待)の山を越え、実用的なビジネスツールとして定着するフェーズに入ったのでしょうか。今回は、DAOという組織形態の「現在地」を、理想と現実、そして具体的なガバナンスの事例から冷静に紐解いていきます。
DAOを語る上で避けては通れない「ある原理主義的な視点」から、その定義を再考していきましょう。(文=タモ)

ブロックチェーンによって実現する非中央集権的なエコシステムに惚れ込み、暗号資産・NFT・ブロックチェーンゲームなどWeb3ジャンルの記事を主に執筆。暗号資産やNFTに関する自身の投資経験も活かし、難しいと思われがちなWeb3の技術について、初心者にもわかりやすい記事をお届けします。

喜多さんプロフ画像

タモ

「DAO(自律分散型組織)は、面白そうだが法的に怪しい」——。多くの日本企業にとって、これまではそれが正直な認識だったでしょう。法人格がないため銀行口座も作れず、誰が責任を取るのかも曖昧。そんな「得体の知れない組織」と取引できる大企業など存在するはずもありませんでした。

しかし、その潮目は2024年4月に完全に変わりました。金融商品取引法に関する内閣府令の改正により、「合同会社型DAO」の設立が解禁されたのです。

これは、DAOに「合同会社(LLC)」という法的な衣を着せることで、法人格を持たせつつ、トークンによる柔軟な資金調達や意思決定を可能にする画期的なスキームです。これにより、日本は世界に先駆けて「DAOを法的に安全に使える国」へと進化しました。

本連載の最終回となる今回は、この新しい法制度を武器に、日本のビジネス現場で実際にどのような「DAO活用」が始まっているのか。大学、不動産、AI開発という3つの最先端事例から、その実践的な勝ち筋を読み解きます。

なぜ「株式会社」ではなく「DAO」なのか?

事例に入る前に、経営者や新規事業担当者が抱くであろう「なぜわざわざDAOにする必要があるのか?普通の株式会社でいいじゃないか」という疑問に答えておく必要があります。

AiHUB株式会社の代表であり、AI研究コミュニティ「AiCOMMU」を日本初の合同会社型DAOの一つとして設立した園田 れい 氏は、その最大のメリットを「契約コストの劇的な削減」と「貢献に対する即時の報酬」にあると語ります。

株式会社の場合、外部の協力者に報いる手段は「外注費(現金)」か「ストックオプション(株式)」に限られます。しかし、数百人のエンジニアやクリエイターと個別に業務委託契約を結び、請求書を処理し、あるいはストックオプション契約書にハンコをもらう作業は、管理コストとして膨大すぎて現実的ではありません。

一方、合同会社型DAOであれば、「貢献したログ(証拠)に基づいて、トークンを自動的に付与する」だけで済みます。契約書の往復も、銀行振込の手数料も不要。

「お金を払うから働いて」という雇用関係ではなく、「面白そうだから参加し、結果的に報酬が得られる」という自律的な貢献者(コントリビューター)を、世界中から低コストで巻き込める。これこそが、DAOを選択する経済合理性なのです。

事例①:大学×DAO「iU DAO」— 学生が大学運営に“出資”する

 (引用元:iU DAO

では、具体的にどのような活用が進んでいるのでしょうか。一つ目の事例は、iU(情報経営イノベーション専門職大学)が設立した「iU DAO」です。

これまで、大学の意思決定は理事会や教授会によるトップダウンが常識でした。学生はあくまで「サービス受益者(客)」に過ぎません。しかしiU DAOでは、在学生や卒業生がDAOのメンバー(一部は社員として出資)となり、大学運営に直接関与する仕組みを構築しました。

構想としては、「カリキュラムをこう改善してほしい」「キャンパスにこんな設備が欲しい」といった提案をDAOで行い、投票で可決されれば予算が執行される未来を描いています。

さらに画期的なのは、大学の広報活動やイベント運営に貢献した学生に対し、トークンでインセンティブを付与する設計です。

「母校のためにタダ働きする」というボランティア精神に頼るのではなく、大学の価値向上に貢献すれば自分にも利益が返ってくる。このエコシステムを作ることで、同窓会組織(アルムナイ)を活性化させる狙いがあります。

事例②:不動産×DAO「Roopt DAO」— 空き家再生の切り札

 (引用元:Roopt

二つ目は、シェアハウス運営の「Roopt DAO」です。株式会社ガイアックスと巻組が手がけるこのプロジェクトは、社会課題である「空き家」の再生にDAOを活用しています。

シェアハウスの運営には、清掃、内見対応、イベント企画など、細々としたタスクが無数に発生します。これらをすべて管理会社がやればコストがかさみ、家賃が高くなります。

そこでRoopt DAOでは、入居者自身がこれらのタスクをこなし、報酬としてトークンを受け取る仕組みを導入しました。貯まったトークンは他の拠点への宿泊権利(NFT)などに交換できます。

2024年4月の法改正を受け、彼らは即座に合同会社化を決定しました。これにより、DAO自体が法人として物件の賃貸契約を結べるようになり、さらにこれまで難しかった「出資者(DAOメンバー)への金銭的な収益分配」も法的に可能になりました。

「住む人」が「運営者」であり、同時に「投資家」にもなれる。この三位一体のモデルは、人口減少時代の不動産運用の新たな解となる可能性があります。

事例③:AI開発×DAO「AiCOMMU」— GPU資源をみんなでシェアする

 (引用元:AiCOMMU

最後は、前述したAI研究開発コミュニティ「AiCOMMU」です。生成AIの開発には、高価なGPU(計算資源)が不可欠です。しかし、個人の研究者や中小企業が数千万円〜数億円のGPUを調達するのは困難です。

そこで、DAOという「組合」を作り、協賛金を集めたり、計算機資源自体をトークン化したりして、高価なGPUリソースをコミュニティで共有する構想を描いています。そして、開発に貢献したメンバーは、その成果に応じてリターンを得る——。いわば、AI時代の「農協」のようなモデルです。

AI開発のような「熱量の高いオタクたちが、自発的に集まって何かを作る(コミケ的な文化)」領域と、DAOの相性は抜群です。株式会社という堅苦しい箱ではなく、DAOという緩やかな箱を用意することで、企業の枠を超えたイノベーションが加速しています。

結び:日本企業はDAOを「機能」として使い倒せ

全3回の連載を通じて、ビットコインという「理想」、NounsDAOという「冷徹な自浄作用」、そして合同会社型DAOという「現実的な法的ツール」を見てきました。結論として言えるのは、日本企業が今すぐ会社を辞めてDAOになる必要はない、ということです。

しかし、「既存の組織では解決できない課題」を突破するための機能として、DAOは極めて強力な選択肢になります。

●新規事業:社内の稟議が通らない尖ったアイデアを、別働隊のDAOで実験する。
●ファンマーケティング:顧客を「株主」のような立ち位置に格上げし、共創関係を作る。
●業界連携:競合他社とデータを共有するための、中立的な「箱」としてDAOを使う。

法整備というガードレールは整いました。あとは、この新しい高速道路を誰が最初に走り抜けるか。「DAOなんて怪しい」と思考停止するのか、「使えるものは何でも使う」というしたたかさを持つのか。そのスタンスの違いが、次の10年の競争力を決めることになるでしょう。