増え続ける日本の空き家は、国が抱える巨大な負債だ。その数は約900万戸。地方では賑わいが失われ、誰もが課題だと感じながら手を出せない構造が残っている。そこにweb3で挑むのが、Re. Asset DAO合同会社の代表社員 山田健太郎さんだ。世界初(※)の「合同会社型DAO」を用いて資金調達を行い、小豆島で古民家再生を始動。だが彼が強調するのは、テクノロジーの華やかさではない。「デジタルで信頼は作れません。必要だったのは、泥臭い対話と人間関係でした」(山田さん)。金融が届かない空き家を、人の想いと資本で再生する。この人間臭い社会実装の最前線を追う。(文=MetaStep編集部)
※G7諸国の法人を使い、そのオーナーシップをNFTにして、金融業等の業許可が必要ない形で、オンラインで資金調達し、DAOでの運営をしながら、トークンで利益分配をする形態。自社及び一般社団法人日本DAO協会弁護士本嶋孔太郎による、日本国内における「プレスリリース配信サービス」及び世界最大規模のDAOプラットフォームAragon掲載のDAO調べ(2024年12月)
お話を聞いたのは・・・

Re. Asset DAO合同会社 代表社員
山田健太郎さん
徳島県出身。香川大学大学院で文化・歴史を軸に「まちのエコシステム形成」を研究しながら、香川県高松市を拠点に小豆島で古民家など遊休資産の再生を推進。一棟貸し宿や分散型ホテルとして事業化し、地域・投資家・関係者が「分かち合いの経営」で関わる仕組みづくりとコミュニティ運営も担う。合同会社型DAOを用い、社員権トークン等で約2,000万円を調達。投資リターンだけに偏らない地域資本の循環を目指す。
山田さんの原点は、徳島県で建設業を営む家系に生まれ育ったことにある。幼い頃から、ダム建設や大学誘致のために山が削られ、歴史ある建物が壊されていく様子を間近で見てきた。「新しい施設を作るために、その土地の個性や記憶があっさりと消され、どこにでもある均質な街に変わっていく。その風景に、ずっと違和感を抱いていました」(山田さん)
文化を守りたい。しかし、「守る」だけでは続かないことも知っていた。ボランティアや補助金頼みの保存活動は、補助金が切れた瞬間に終わる。文化を次世代に残すためには、それを活用して稼ぎ、自走する「経済循環」を作らなければならない。
大学院で学びながら、彼が向き合ったのが「空き家問題」だった。なぜ魅力的な古民家が次々と壊されるのか。山田さんはその原因を「金融システムのバグ」だと指摘する。「日本の空き家は約900万戸ありますが、その多くは既存の金融システムに乗らないんです。築古の木造住宅は、法定耐用年数を超えると担保価値がゼロとみなされ、銀行融資がつかない。かといって、投資家を呼ぼうにも、リノベーションには多額の費用がかかるため、彼らが求める水準の利回りは到底出せません」(山田さん)
(資料提供=Re.Asset DAO)
銀行からは相手にされず、投資マネーの対象にもならない。3,000万円から1億円規模の「文化的価値はあるが、経済合理性が合わない中規模物件」。ここが、日本の不動産市場における完全な空白地帯となっていたのだ。
(資料提供=Re.Asset DAO)
そこで山田さんがたどり着いた答えが、「DAO」の活用だった。DAOは、Decentralized Autonomous Organization(分散型自律組織)の略で、インターネット上で運営される新しいタイプの組織のことだ。彼が提唱するのは、投資(金銭的リターン)でも寄付(見返りを求めない支援)でもない、「第三極」のお金の流れだ。「利回りは低くてもいい。その代わり、自分たちの手で街を作る面白さや、第二のふるさとを持つ喜びに価値を感じてくれる人たち。そんな『関係性』にお金を払ってくれる層が、確実に存在します」(山田さん)
(資料提供=Re.Asset DAO)
山田さんは、2024年4月の法改正によって可能になった「合同会社型DAO」をいち早く採用した。従来のDAOは法的な実体がなく、不動産契約や銀行口座の開設が困難だったが、合同会社という法人格を持たせることでその壁を突破したのだ。だが、この戦略を小豆島の「現場」に持ち込んだ瞬間、さらなる壁にぶち当たることになる。
デスクの上で描いた図面は完璧だった。しかし、それを現場に持ち込んだ途端、山田さんは「理屈では動かない現実」を突きつけられることになる。
相手は、先祖代々の土地と家を守ってきた高齢のオーナーや、地域に根を張って生きる住民たちだ。そこにいきなり「ブロックチェーンで資金調達します」「DAOで管理します」などと言っても、言葉は宙に浮くばかりか、不信感の種にしかならない。「彼らにとって、DAOやNFTといったデジタルな用語は『実体のない怪しいもの』、もっと言えば『詐欺の一種』にしか聞こえないんです。仕組みの正しさを説明すればするほど、心のシャッターは閉じられていきました」(山田さん)
最先端のテクノロジーを持ち込もうとした彼が現場で直面したのは、「得体の知れないもの」に対する強烈な拒絶反応。デジタルだけで完結させようとすれば、門前払いは確実だった。
そこで山田さんがとった行動は、テクノロジーの封印だった。「web3の専門用語を使うのはやめました。その代わり、とにかく現場に通い、顔を見せ、一人の人間として彼らと向き合うことに時間を費やしたんです」
オーナーたちと膝を突き合わせ、時には酒を酌み交わす。語り合ったのは、トークンの仕組みや利回りの話ではない。「この家にはどんな思い出があるのか」「この町をどうしていきたいのか」。そんな、これまでの歴史とこれからの未来についての対話だった。山田さんは、デジタルネイティブな起業家としての鎧を脱ぎ、家業である建設業で培った「現場感覚」と、一人の若者としての「熱意」でぶつかっていった。
その泥臭いアプローチが少しずつ、頑なだった扉をこじ開けていく。ある日、山田さんの熱意に触れたオーナーから返ってきたのは、デジタルな仕組みへの理解ではなく、「仕組みのことは正直よく分からないけれど、山田さんがそこまで言うなら信じるよ」という、個人に対するまっすぐな信頼の言葉だった。

(資料提供=Re.Asset DAO)
その瞬間、最先端のプロジェクトが動き出した。動かしたのは、ブロックチェーンの改ざん不可能性でもなければ、スマートコントラクトの利便性でもない。「山田 健太郎」という人間に対する、極めてアナログで、ウェットな信頼だった。
「ブロックチェーンの世界ではよく『トラストレス』という言葉が使われます。中央集権的な管理者を信用しなくても、プログラムが信用を担保してくれる、という意味です。でも、現実社会でそれを実装するためには、その真逆にある『人間同士の信頼』が不可欠なんだと思い知らされました」(山田さん)
システムがどれだけ優秀でも、それを使う人間が心を許さなければ、社会には1ミリも浸透しない。24歳の若き起業家が現場で辿り着いたその境地こそが、Re. Asset DAOの最大の強みであり、他のテックベンチャーが容易には真似できない防壁となっているのだ。