ものづくりの集積地、新潟県燕三条エリアのNFT活用を、一般社団法人日本Web3ツーリズム協会主催の現地ツアーを通して追う当連載。前編では地元住民によるNFT活用の具体例について解説していった。後編では三条市の企業を訪問した際に挙がった、NFT活用に対するリアルな声をお届け。決して順風満帆とはいえない実態を前に参加者一同、議論を深めていく。(文=MetaStep編集部)
株式会社諏訪田製作所は、三条市高安寺に本社・工場を構える金属加工業の老舗。ニッパー型爪切りや盆栽鋏(はさみ)などを職人の手作業で製造している。世界市場も視野に入れた高価格帯・高品質路線で、「SUWADA」ブランドとして百貨店やセレクトショップでも展開している点が特徴だ。
職人による手作業の様子
工場建屋やショップを一体化した「SUWADA OPEN FACTORY」は、鋼材が製品になるまでのプロセスをガラス越しに公開することで、職人技を体験価値へ転換し、ブランドストーリーを視覚的に訴求する場となっている。職人の手つきを間近で見るために県内外、時には外国から訪れる人もいるという。


工場を案内いただいた諏訪田製作所 営業部 部長 齊藤 類さんも、「匠の守護者」プロジェクトを提供する株式会社燕三条の熱意を受け、NFTプロジェクトに協力した一人。実はアプローチを受けた燕三条 匠の守護者プロジェクト担当 安達 拓未さんとは幼少期からの幼馴染。「一緒に地元を盛り上げたい」という思いに共感しつつ、一方で課題も感じているようだ。
(左から)株式会社燕三条 匠の守護者プロジェクト担当 安達 拓未さん、株式会社諏訪田製作所 営業部 部長 齊藤 類さん
「工場に併設されている販売店のレジ横には、攻撃アイテムであるスプーンを設置していますが、QRコードを目当てに来る人はまだ少ないですね。地域が盛り上がってほしいのはもちろんですが、NFT活用が活性化するにはいろいろと取り組むべきことがあるかもしれません」(齊藤さん)
安達さんも続けて言う。「特に製造業や職人文化が根付く燕三条のような地域では、NFT取得による関係人口(デジタル三条市民など)が増えても、NFTを積極活用して地域を盛り上げてくれるユニークユーザーが単純に比例するわけではありません。どれだけの人が燕三条に気持ちを向けてくれるか、カードゲームだけでなくさまざまな取り組みを継続して続けていく必要は感じています」。


(左)工場に併設されたショップと、(右)受付横に設置された「匠の守護者NFT」内アイテム「マジックスプーン」
それでも、安達さんに諦める様子はなかった。「やはりプロジェクトメンバーが夢みているもの――『地域が活性化し、子どもたちが地元を好きになる未来』に向かう気持ちがある限り、まだまだ進み続けたいと思います。利益が出なくても活動を続ける原動力は、そこかもしれません」(安達さん)。この目的意識のもと、ウォレット不要化などのシステムの改善を絶えず行い、展示会への出展など、認知拡大と普及に努めているようだ。
株式会社タダフサは1948年創業の刃物メーカーで、三条市東本成寺に工房とショップを構え、家庭用・本職用・蕎麦切り包丁などの料理用包丁を中心に製造している。焼入れや研磨など包丁づくりの工程をスタッフが案内する工場見学ツアーも実施している。
超高温に熱された鉄を、機械でプレスし成型する様子
壁には漁師など専門職が使うような珍しい包丁がズラリ
前編でも解説した通り「匠の守護者」は三条市内の各企業を擬人化しキャラクターとしている。
タダフサもその1社だ。
タダフサを擬人化した「匠の守護者」のキャラクター、本成寺忠虎(ただとら)(引用:匠の守護者公式サイト )
「会社が擬人化されている」というユニークなイラストは、理解を深めることにつながっているようだが、ことNFTとなるとまだ難しさを感じる人も多い様子。タダフサ 番頭(マネジャー) 大澤 真輝さんは「我々自身もNFTという言葉は分かりますが、どう活用していくべきかは悩んでいます。匠の守護者のようなIPやイベントに乗っていくことはできますが、デジタル三条市民を増やしていくのであれば、地域のものづくり産業・観光といかに結びつけるか今後も考え続けなければなりません」(大澤さん)。
(右側)タダフサ 番頭(マネジャー) 大澤 真輝さんとツアー参加者たち
NFT活用が地域貢献に繋がるという確信はあっても、短期的な「実利のメリット」を数字で示すのは難しいという課題もある。例えば、「NFTを作ったから包丁が何万本売れました」といった具体的な経済効果の測定は容易ではない。
参加者からも「『匠の守護者』のような体験型コンテンツはNFTへの心理的ハードルを下げる一方で、イベント終了後の関係性をどう維持するかは重要テーマ。匠の守護者だけでなく、さまざまな取り組みを通してデジタル三条市民を増やしていくことも検討すべき」との意見も挙がった。
「全国イベント中は盛り上がったが、その後コミュニティが動かなくなった」というNFT事例は多い。リアル体験とNFTを結びつける設計は有効だが、それが一過性のキャンペーンに留まらないためには、次の接点を用意し続ける必要があるというわけだ。
「匠の守護者」の解説コーナー。もちろんNFTアイテムも設置