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  3. 「距離を超えた観光体験」を実現!1,200km離れた大阪と沖縄をVRChatで同時接続

海を隔てて遠く離れた2つの都市で、一つの熱狂が共有された。2025年11月、沖縄県那覇市で開催されたイベント「超!めんそ~れ広場」にあわせ、これまでにない野心的な試みが実施された。沖縄のリアル会場、ソーシャルVRプラットフォーム「VRChat」内のワールド、そして大阪の実店舗をリアルタイムでつなぎ合わせる「三層ライブ配信企画」だ。物理的に1,200km離れた場所同士をバーチャル技術によって同期させ、現地に足を運べない人々にも沖縄の空気感やコミュニティへの参加機会を提供する。この取り組みは、単なる映像配信の枠を超え、リアル拠点同士がデジタルのハブを介して融合する次世代の観光DXの姿を提示している。

 

沖縄のリアルイベントに世界中から参加。三層ライブ配信が生み出す熱狂

地域イベントや文化行事が抱える最大の課題は、距離や移動の制約によって参加できる人が限られてしまうことだ。これに対し、株式会社G1 companyが運営する「anywhere café」は、場所が違っても同じ時間を共有できる「三層構造」の体験を設計した。

2025年11月29日、沖縄県那覇市のリアル会場で行われたステージパフォーマンスや出展ブースの様子が、約6時間半にわたってライブ配信された。しかし、この企画の真骨頂はその配信先にある。映像は、VRChat内のワールド「anywhere café JAPAN」と、大阪の実店舗「anywhere café OSAKA」の双方で同時上映された。つまり、沖縄(第1層)の発信が、バーチャル空間(第2層)と大阪のリアル拠点(第3層)へと同時に伝播し、それぞれの場所で同じ体験を共有する仕組みだ。

VRChat会場には、日本国内のみならずアメリカやフィリピンなど海外からもアバターが集結した。参加者たちは巨大なスクリーンに映し出される沖縄の映像を囲みながら、アバター同士で会話を交わし、現地の熱気を感じ取っていた。大阪の店舗では、沖縄仕様の店内BGMや、ちんすこうのサービスなど五感で沖縄を感じられる空間演出を実施。希望者にはVRゴーグル体験も提供され、物理的な距離を忘れさせる没入体験が作り上げられた。

この三層構造がもたらした価値が最も象徴的に現れたのが、イベント終盤の三線ライブだ。演者である530(ゴサマル)氏の合図で沖縄会場が乾杯に沸くと、VRChat内のアバターたちからも一斉に乾杯の声が上がり、その様子がさらに大阪の店舗へと届けられた。

3つの場所が、バーチャルというハブを介して一つに溶け合う。そこには、従来の「一方的な視聴」では決して得られない、リアルな「現場への参画感」が漂っていた。

さらに、この取り組みは当日の配信だけに留まらない。開催の1週間前から、株式会社あしびかんぱにーが運営する「バーチャル沖縄」と連携した事前コラボレーションを実施。クイズイベントなどを通じて、あらかじめ沖縄の文化や風習を「知る」「話す」といった段階的な体験を重ねることで、当日への期待感を最大化させた。こうした丁寧なコミュニティ醸成こそが、三層配信を成功に導く土台となったのである。

住む街、住む国で体験を諦めない時代へ

今回の「anywhere café」による試みは、メタバース活用における一つのパラダイムシフトを示唆している。これまでの議論は、多くの場合「リアル vs バーチャル」という対立構造や、「リアルの代替としてのバーチャル」という視点に終始してきた。しかし今回のプロジェクトが示したのは、「バーチャルという触媒を介することで、遠く離れたリアル拠点同士が密接に結びつく」という価値だ。

大阪の店舗にいた客が、VRChatを通じて沖縄の参加者と交流し、現地の三線の音色に浸る。ここではバーチャル空間が、離れた2つの物理拠点を結びつける「神経系」のような役割を果たしている。物理的な移動というコストを支払わずとも、地域の魅力やコミュニティの熱量を分かち合えるこの仕組みは、高齢者や障がいを持つ人、あるいは海外在住者など、「誰一人取り残さない」観光体験の形を実現する可能性を秘めている。

これは、地域の魅力を発信したい地方自治体にとっても極めて示唆に富むモデルだ。「anywhere café」は、活動を通じて得た58自治体とのネットワークを活かし、今後も各地の観光地やイベントと連動した企画を検討しているという。こうした三層構造による新たなアプローチを単発のイベント施策で終わらせるのではなく、拠点と拠点、人と人を継続的につなぐプラットフォームとして活用していくことには、観光業のあり方を根底から変える可能性がある。

「現地に行けない」ことを理由に、体験を諦める必要のない時代。今回の三層ライブ配信企画は、テクノロジーによって「場所の制約」を解き放ち、日本中、そして世界中の拠点を同時多発的につなぎ合わせる未来を予感させた。沖縄と大阪、そして世界中から集まったアバターたちが交わした「乾杯」の声は、物理的な距離を超えた新しいコミュニティの形が、既に私たちの手の届く所にあることを証明したのである。