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  3. 社会課題に挑む DNPのメタバース戦略~仮想を超えるリアルの力

Web3・メタバース・XRの社会実装とビジネス活用はいまどこまで進んでいるのか。当連載「未来を導く知の羅針盤」では、業界を牽引する経営者・専門家など、有識者16名の証言から、その現在地と未来の可能性を探る。

人々の生活や行政、教育すら変える可能性を秘めたメタバース。その社会実装に大日本印刷(DNP)が本気で挑んでいる。高精細な印刷技術を映像にも活かし、VR分野では1990年代初頭から実証実験を進めている同社。「コミュニケーションの新たな方法として、メタバースを用いた社会貢献を模索しています」そう語るのはDNPの宮川尚氏だ。

※本記事は『MetaStep Magazine』に掲載した記事を再掲載したものです。その他の記事は冊子でお読み頂けます。

大日本印刷株式会社
コンテンツ・XRコミュニケーション本部

XRコミュニケーション事業開発ユニット 副ユニット長
宮川 尚さん

大日本印刷(DNP)について
印刷技術を基盤に多角的な事業を展開。近年はメタバースやXR領域にも注力し、コンテンツ制作や自治体・企業向けDXを手掛ける。デジタル処理技術を活用した重要文化財や美術品などのアーカイブ、長年培ったXR技術と地域支援ノウハウを活かしながら、リアルとバーチャルを融合した新しい体験を創出している。

同社が展開する「メタバース役所」は、マイナンバー申請や各種相談窓口業務だけでなく、専門知識を持ったAIが24時間365日稼働し、職員一人分以上の対応力を提供。人材不足となっている小規模自治体の機能補完や災害時における自治体間の連携といった、有事の対応力強化にもつながる。また離婚相談のような、対面では打ち明けづらい繊細な課題に対しても効果を発揮する。

「悩みを一人で抱え込み視野が狭くなった挙句、受けられる公的サポートを知らずに貧困へ陥ってしまうケースも少なくないようです」と宮川氏は語る。実証実験では心理的な障壁を低減し「対人よりもAIの方が相談しやすい」という結果も出ているようだ。

役所に言いづらく誰にも相談できないことを、専門分野に特化したAIが回答

教育分野では、不登校支援に特化したメタバースを展開。高くないPCスペックでもリッチな3D表現を可能にし、いきなり学習を強いるのではなく、ゲームやおしゃべりを通じて集団コミュニケーションに慣れる居場所を提供している。実際に子どもたちが学校に通えるようになる実績も出ており、家庭内の問題といった個別のセンシティブな相談を引き出す場ともなっている。その中でも不登校児に寄り添うメタバース教室は全国の自治体に導入が進んでいる。

特に東京都、静岡県とも多くの児童生徒がリピーターとして空間を利用中だ。また教育格差の解消に向けた取り組みも進んでいる。離島地域における地域格差、経済格差の解消のため現地のフリースクールとの連携を推進中だ。「私たちは、メタバースを仮想空間内にとどめるつもりはありません。

メタバース内の授業。不登校児童が社会とつながる空間としてメタバースを活用する

リアルとデジタルの間を行き来しながら、たとえば自治体業務や教育支援の現場で、現実の課題解決に役立つような仕組みづくりを進めています。ユーザーが必要とする際には、現実社会のサービスへ自然につながる道筋を用意できれば」と宮川氏は語る。特定の業務用途や、リアルでは満たせないニーズに応えるツールとして、まずは一部領域に浸透するよう社会実装を進めていく考えだ。大日本印刷の挑戦は、メタバースを単なる技術から社会基盤へと進化させる一歩となりそうだ。
(素材提供:DNP)

ー 日本再興のヒント ー
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