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2025.10.28

身体から宇宙まで~「Japan Metaverse Awards 2025」で明かされた、新たな社会実装の形

2025年10月8日、一般社団法人Metaverse Japanが開催した『Japan Metaverse Awards 2025』が、第5回 XR・メタバース総合展【秋】(千葉・幕張メッセ)内にて行われた。

同年7月から約3か月間にわたり公募を実施し、多数の応募が寄せられた当アワード。最優秀賞は、各部門の受賞者によるファイナルピッチおよび審査員との質疑応答を経て、最終審議のもと決定。実証実験の段階を超えてメタバースをビジネスとして活用し、商業的な成功の可能性を切り開いたプロジェクトが選ばれた。受賞プロジェクトを紹介するとともに、メタバースの社会実装における最新事例を学ぶ。(文=MetaStep編集部)

Best Performance Award / 最優秀賞、Best Creative Design / クリエイティブデザイン賞

「THE MOON CRUISE by TOKYO DOME & STYLY」  株式会社STYLY/株式会社東京ドーム

(左)審査員長 金出 武雄氏 (右)受賞者 株式会社STYLY  野村 つよし氏

THE MOON CRUISEは、東京ドームとSTYLYが共同で企画・展開する最先端のフリーローム型(複数のユーザーが同じ環境を自由に体験できる)VRコンテンツ。東京ドームシティ内の宇宙体感施設「Space Travelium TeNQ(スペーストラベリウムテンキュー)」にて、2024年11月から一般公開されている。

来場者はVR空間内で宇宙服を着用し、ロケットに搭乗して月を目指す仮想宇宙旅行を体験。現実空間にレイヤーされた月面世界を自由に歩き回り、他の参加者との交流、月面ローバーへの同乗、月の石を投げる体験やセルフィー撮影など、インタラクティブ性と没入感を極めた約20分間のプログラムで構成されている。本サービスはXR空間コンピューティング技術を活かし、大規模なUXデザインと都市型体験メディアの先端モデルとして世界的にも高く評価されている。

体験のガイドは声優・梅原裕一郎が担当する「バトラー」が務め、参加者はツアー型の臨場感の中で美しい地球や宇宙の景色、月面風景を堪能できる。撮影した写真はダウンロードして持ち帰ることができ、ドームを出たあとも体験の思い出を残せる仕組みだ。

Best Social Innovation / ソーシャルイノベーション賞

 「日本初!公教育を持ち運び可能にした不登校オルタナティブスクール小中一貫校NIJINアカデミー」株式会社NIJIN

(左)審査員 小塩 篤史氏 (右)受賞者 株式会社NIJIN 星野 達郎氏

NIJINアカデミーは、教育事業を展開する株式会社NIJINが運営する日本初の「公教育を持ち運び可能にした」不登校児童・生徒向けのオルタナティブスクール。小学1年生から中学3年生までの小中一貫校で、全国の不登校の小中学生約500名以上が在籍中。主にオンラインでの教育を中心としつつ、東京都・神奈川県・大阪など複数の都市でリアル教室(ハイブリッド型)も展開している。NIJINアカデミーの仮想キャンパスはメタバース上にも設置され、自宅から高品質な教科指導やプロジェクト学習、異学年・少人数クラスでの対話、専門家による心理的安全性サポートなど、多角的に学びの機会を提供。全ての子どもが「ありたい姿(Being)」「なりたい姿(Doing)」を追求でき、自己肯定感を高めながら楽しく学べることを重視している。

クラス満足度96%、出席認定率97%という高い満足度を誇り、在籍生徒の9割以上が在籍校の出席認定も獲得している。カリキュラムは日本トップレベルの現役教員による60コマ以上のリアルタイム授業や、子ども主体のプロジェクト型学習、自由進度学習、多様な部活動、社会とつながる課題解決学習も充実している。NIJINアカデミーは「不登校という言葉をなくしたい」という理念のもと、20239月に開校し、全国36都道府県から入学者が集まっている。2024年以降はリアル拠点も拡大しつつある。既存の公教育・学校制度にとらわれない学びの選択肢として、家庭・地域・オンラインをシームレスにつなぐ「新しい教育モデル」として注目を集めている。

Best Industry Metaverse / 実空間メタバース賞

 「Lumarnity VR v2.0 (VRChatワールド)」日揮グローバル株式会社 

(左)審査員 中馬 和彦氏 (右)受賞者 日揮グローバル株式会社 横山 拓哉氏

Lumarnity VR v2.0は、日揮グローバル株式会社が主導する「月面スマートコミュニティ構想」を体験可能にしたVRChat内のワールド。月での設置を想定している当コミュニティは、人類が月面で長期滞在するための循環型インフラを備え、特に「月面推薬生成プラント」を中心とした未来の月面開発像を再現している。VRChat内のワールドでは、ユーザーは4人乗り月面ローバーでプラント見学や、月面建機やタイヤ企業と連携した体験、通信設備・太陽光パネル・月面基地・3Dプリンターなど、様々な月面開発要素をVRで体感できる。

本ワールドは、プラント業界や異業種・自治体・教育現場へのPRや啓発、企業間連携促進、日本の月面開発加速に資することを意図して展開されている。実際、教育現場や各種イベントでのVR体験展示なども積極的に実施されている。

※MetaStepでも当プロジェクトについて日揮グローバルへインタビューを実施。「『想定外』から人気コンテンツが誕生!異業界を繋いだVR活用とは」も併せてご覧いただきたい

Best Technology Innovation / 技術革新賞

「カプセルインタフェース」 H2L株式会社

(左)審査員 三宅 陽一郎氏 (右)受賞者   H2L株式会社 渡邉 愛氏

カプセルインタフェース(Capsule Interface)は、H2L株式会社が開発した体験共有装置。ユーザーの全身の動きや力の加減をリアルタイムでロボットやアバターなど別の身体にそのまま伝達し、遠隔操作・アバター体験・感覚共有などを可能とする次世代インタフェースだ。

筋変位センサーやスピーカー、ディスプレイを搭載し、ユーザーが椅子やベッドに座った状態で軽く手足を動かすだけで、その動作や力加減をロボットやアバターに送信できる。これにより、遠隔地のロボットを直感的・リアルに操作したり、バーチャル空間での身体感覚の“そのままの共有”が可能となる。従来必要だったウェアラブルデバイスや複雑な訓練は不要で、座る・横になった状態だけで利用できるのが特徴である。

この技術は、出張の遠隔代行、物流・医療・高所作業など危険や負荷の高い現場でのロボット遠隔作業支援、家庭や教育、エンタテインメント領域におけるアバター体験の深化など多岐にわたる活用が想定されている。

Best Prototype / ベストプロトタイプ賞

「平和構築メタバース「戦災VR」ーAIが再現する3D戦争風景による多国間協業プロジェクト」東京大学大学院 情報学環 渡邉英徳研究室

(左)審査員 せきぐちあいみ氏 (右)受賞者 東京大学大学院 情報学環 渡邉英徳研究室 小松 尚平氏

平和構築メタバース「戦災VR」は、東京大学大学院情報学環の渡邉英徳研究室が進める多国間協業プロジェクト。AIを活用して3Dの戦争風景を再現し、VRによる戦災体験を通じて平和構築を促す取り組みだ。戦争の記憶を単なる知識としてではなく、体験的な記憶として次世代に継承することを目的としている。

中東の報道局アルジャジーラ等と連携し、現地の取材映像や写真をもとに開発。ウクライナなどの戦災映像をAIとVRでリアルに再現し、ユーザーが自分のアバターで現場を体験できる新しい平和教育の形を示している。また、多国間での協力や情報共有が重要であり、技術の普及と同時に平和の意識啓蒙を目指している。

Metaverse Japan Special Award / メタバースジャパン特別賞

「石見神楽メタバース化プロジェクト」株式会社大丸松坂屋百貨店 

(左)審査員 長田 新子氏 (右)受賞者 株式会社大丸松坂屋百貨店 岡崎 路易氏

石見神楽メタバース化プロジェクトは、島根県江津市の伝統芸能「石見神楽」をメタバース空間で再現し、世界中の人々が体験できるようにする取り組みである。大丸松坂屋百貨店が制作幹事を務め、株式会社Vが3Dワールドおよび3D衣装の制作を担当。2025年5月28日にメタバースプラットフォーム「VRChat」上で公開された。

このプロジェクトでは、石見神楽の数ある演目の中から特に人気のある「大蛇(おろち)」を中心に、須佐之男命(すさのおのみこと)と八岐大蛇(やまたのおろち)が対峙する神楽のクライマックスシーンをVRChat内のワールドとして再現した。ユーザーはステージに自由に上がり、多様な視点から体験が可能である。また、「鐘馗(しょうき)」の中で登場する「鐘馗」と「疫神(えきしん)」の衣装を3Dで制作し、無償配布している。

さらにこのプロジェクトは、大阪・関西万博の地方創生SDGsフェスティバルの江津市ブースで現地来場者が体験できる展示も行い、物理的・文化的な障壁を越えて石見神楽の魅力を広く伝えている。

取材を終えて

生成AIの進化、XRデバイスのさらなる進化など、メタバースを取り巻く技術革新は2025年も加速し続けています。表現力と利便性が飛躍的に進化したことで、教育、製造、行政、観光など多様な分野で新たなユースケースが生まれています。この流れの中で重要なのは、企業も自治体も、継続的に取り組み、小さく試して改善を重ねる姿勢が求められます。個人参加型のエンタメから産業用メタバースまで、利用の場面を増やし、ステークホルダーに体感してもらうことで、メタバース活用に価値があることが広まり、社会実装が加速していくはずです。

今回受賞したプロジェクトは、業界や分野も多岐にわたります。評価されたのはいずれもメタバースならではの価値を提示した取り組みでした。「Japan Metaverse Award 2025」を通じ、メタバースの社会実装がまた一歩近づいた実感を得ることができました。MetaStepでは、メタバースの社会実装を加速させる一因となるよう、引き続き、その先にある『リアルの変化』を共に見届けていきます。