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  3. キーパーソンが熱く議論! 大阪・なんば発、次世代都市への挑戦と可能性

メタバースは、社会構造や経済活動、さらには都市の姿までも変革しつつある。2025年9月4日、一般社団法人Metaverse Japanが主催する『Metaverse Japan Summit 2025(メタバースジャパンサミット)』が大阪・なんばスカイオおよびなんばパークスのeスタジアムにて開催された。テーマは「Beyond Reality ― 都市・エンタメ・未来社会の共創」。産官学を代表するリーダーたちが一堂に会し、メタバースが描く社会像と、関西から世界へ広がる日本発の可能性について展望を語った。(文=MetaStep編集部)

歴史と革新が交わる大阪・なんば

「大阪・なんば は、南海電鉄にとって創業の地であり、思い入れの強い場所です」。南海電気鉄道株式会社 代表取締役社長 岡嶋信行氏 は冒頭でそう語った。1885年に日本初の民間資本による鉄道会社として創業した同社は、今年で140周年を迎える。その歩みは常に、なんばという街の変化とともにあった。

南海電気鉄道株式会社 代表取締役社長 岡嶋信行氏

なぜ今、なんばが次世代都市構想の舞台に選ばれたのか。その理由を岡嶋氏は「なんばには街の魅力に加え、多様性を受け入れ、新たな挑戦を歓迎する文化がある」と説明する。関西国際空港からのアクセスの良さ、道頓堀のネオンや新世界のレトロな雰囲気、食文化の豊かさ、そして近年のアニメ・コスプレを中心としたポップカルチャーの発信力。これらが複雑に絡み合い、なんばを唯一無二の存在にしている。

eスタジアム株式会社 代表取締役 池田浩士氏は、自身が創業の地である博多から大阪進出を決めた背景について「大阪・ミナミには新しいものを受け入れる懐の深さがある。eスポーツのプレイヤーと訪問した際も、街が温かく迎えて頂き本当に嬉しかった」と笑顔で振り返る。株式会社Meta Osaka 代表取締役 毛利英昭氏も「大阪には『やってみなはれ』の精神が根付いている。挑戦する者を後押しする空気がある」と語り、この文化こそが事業を立ち上げる原動力となったと強調した。

歴史を重んじる鉄道会社の顔と、デジタル領域のフロントランナーとしての顔。一見相反する二つの顔こそがなんばという街の包容力である。岡嶋氏は「安全・安心を基盤としつつ、未来へ挑戦する。その両輪を回すのが鉄道会社の責務」と述べ、伝統と革新の調和が都市構想の出発点であることを示した。

(左から)Metaverse Japan 共同代表理事 馬渕邦美氏、長田新子氏、南海電気鉄道 代表取締役 岡嶋信行氏、eスタジアム 代表取締役 池田浩士氏、Meta Osaka 代表取締役 毛利英昭氏

リアルとデジタルが融合する都市体験

プロジェクトの核心は「デジタルエンターテインメントシティ構想NAMBA」にある。岡嶋氏は「リアルの魅力をデジタルで拡張し、訪れる人々に新たな体験を提供する。これはWeb3時代のまちづくりだ」と力を込めた。

この構想は、南海電気鉄道株式会社を中心に、eスタジアム株式会社、Meta Osaka、そして空間コンピューティングに強みを持つMawariといった企業が連携し、大阪・なんばエリアを舞台に展開されている。XRやAIなどの先端技術を活用し、リアルとデジタルが融合する次世代の都市体験を創出することを目指す取り組みである。

デジタルエンターテイメントシティ構想NAMBAのイメージ画像①(引用:PR TIMES)

その象徴的な取り組みが街のメタバース化だ。毛利氏は「世界中で5億人を超えるユーザーを持つオンラインゲームFortnite(フォートナイト)上で、『なんばパークス』を忠実に再現しながら、同時にかつてその地に存在していた南海ホークスの本拠地『大阪スタヂアム(通称:大阪球場)』をデジタル空間で復元しました。過去の街並みを現代の子どもたちに伝えることができるのもメタバースの魅力です」と事例を紹介。

モデレーターを務めた一般社団法人Metaverse Japan 代表理事 長田新子氏は、「失われたものをデジタルで蘇らせることは、新しい教育と文化継承の形となる可能性がある。デジタルやXR、AIといった先端技術は、ただの流行ではなく、街の文化や人々の営みと掛け合わせてこそ真価を発揮する。なんばの持つ多様性と包容力こそが、この構想を世界に広げる力になるのではないか」と強調した。

17年をかけて実現したなんば駅前広場の歩行者専用化は、今後XRやAIエージェントなど先端技術と組み合わせることで、新しいエンターテインメントを生み出すキャンバスとなるかもしれない。池田氏が語る「イルミネーションにデジタルを重ね、ゲームキャラクターが登場する未来」は、その入り口となるかもしれない。

 駅前を拠点とした歩⾏者空間拡張により景色は一変。今では居心地よく安心感ある街の象徴だ

エンタメが社会課題を解く未来都市

構想はエンターテインメントに留まらず、社会課題解決を目指している。毛利氏は「道頓堀商店街では親子参加型のeスポーツ運動会を開きました。猛暑により外で遊ぶことも難しくなってきた昨今、快適な環境で遊べることで、地元の家族が商店街に足を運んでくれました。親御さんも一緒になって楽しんでくれましたよ」と振り返った。デジタル技術が地域交流を生む好例だ。

eスポーツ運動会には多くの親子が参加し、大いに盛り上がったという

池田氏は「南海電鉄としては、インバウンドによる恩恵を地域へ還元する取り組みが重要だと考えています。例えば、沿線の小学校で、eスポーツ選手という新しいキャリアを教える課外授業などの取り組みを進めています」と語る。

歴史ある鉄道会社がeスポーツなどの新規事業に参加するからこそ、街に新たな可能性をもたらす

さらに、交通安全教育への応用も進む。毛利氏は「交通死亡事故が最も多い7歳児向けに、行政、警察なども連携し、人気レースゲームを活用した教育プログラムを展開している」と紹介した。子どもがゲームで楽しみながら安全意識を学ぶ、新しいアプローチである。

人口減少や働き手不足といった大きな課題にも目を向ける。岡嶋氏は「駅係員に代わり、AIエージェントが案内する未来も遠くない」と語る。AIが育児や介護と両立する人々に新たな就労機会を提供する可能性も広がる。

岡嶋氏は「我々は鉄道会社の枠を超え、未来の都市体験を創出する企業へ進化したい」と力強く語った。なんば発の挑戦は、地域活性化や教育支援、多様な働き方実現といった普遍的な課題への解を提示する壮大な社会実験とも捉えられる。

 

デジタルエンターテイメントシティ構想NAMBAのイメージ画像②(引用:PR TIMES)

最後に長田氏は「なんばの挑戦は、地域文化と最先端のテクノロジーが響き合い、未来社会のモデルを描く試みです。エンターテインメントは楽しみであると同時に、人と人をつなぎ、社会課題を解く力にもなる。今回の議論が、その可能性を感じ取るきっかけになれば嬉しいです」と締めた。