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  3. 【連載】あなたの知らないクラスターの世界:カナデビア編

JapanStepのパートナー企業 クラスターとお届けしている好評の連載「あなたの知らないクラスターの世界」。今回お届けするのは、ごみ焼却発電や洋上風力といった巨大インフラ領域で事業を展開するカナデビア株式会社(以下、敬称略)の取り組みだ。同社は、普段は目にすることのできないごみ焼却発電プラントや洋上風力発電設備といった巨大インフラを、メタバース空間で実物大のまま体験できる「Kanadevia Virtual Museum」を開設した。物理的制約を超えた展示は、技術理解の深化だけでなく、社会実装に向けた企業姿勢を可視化する。2025年7月25日に開催された発表会で語られた狙いと展望を紐解く。(文=MetaStep編集部)

巨大インフラ見学の制約を超えるメタバース活用

カナデビアは、「脱炭素化」「資源循環」「安全で豊かな街づくり」を事業の柱とし、環境、機械、社会インフラ、脱炭素化の4事業本部を展開するエンジニアリング企業だ。全国各地に設置されたごみ焼却発電プラントや風力発電設備、津波・高潮対策用フラップゲートといった大型構造物を手がけ、その技術は国内外で高く評価されてきた。しかし、同社の巨大かつ分散した設備は、安全面の制約もあり、展示会や見学では全貌を示せず、顧客や学生、行政関係者への説明に限界があった。

こうした背景から同社が着目したのが、メタバースを活用した展示手法だ。国内最大級のメタバースプラットフォーム「cluster」を運営するクラスター株式会社と連携し、バーチャル空間に「Kanadevia Virtual Museum」を開設した。

二酸化炭素と水素を原料として合成メタン(e-メタン)を製造するメタネーション装置をバーチャルで見学する様子

展示では、カナデビア製の路面電車型ビークルに乗り込み、複数の駅を巡りながら製品群を体験できる。ごみクレーンの稼働やパッカー車の投入、煙突内部の断面構造まで、現実では見られない内部機構を実物大で視覚化し、臨場感あふれる体験を提供する。

「Kanadevia Virtual Museum」のエントランス

プラットフォーム選定の理由は3点ある。第一に、同社の3D CADデータをほぼそのまま活用できるワールド構築力とコスト効率の高さ。第二に、クラスターがBtoB分野のインダストリアルメタバースに注力し、実績を積んでいる点。そして第三に、PCやスマートフォン、VRゴーグルといった多様なデバイスに対応し、幅広いユーザー層への開放が可能な汎用性の高さだ。

今回の取り組みはカナデビアにとって初となるメタバースへの取り組みであり、手探りの中で進められた。CADデータの最適化や演出の設計、体験者が飽きずに理解を深められるアニメーション表現など、課題解決にはクラスターのノウハウが大きく貢献したという。カナデビア ICT推進本部 先端情報技術センター長 岸本 真一 氏は「リアルでは不可能だった体験をデジタルで可能にすることで、社内外の理解と共感を生み出す契機になる」と語った。

カナデビア株式会社 ICT推進本部 先端情報技術センター長 岸本 真一 氏

見えなかった巨大インフラを可視化するメタバース展示

「Kanadevia Virtual Museum」の最大の特徴は、巨大インフラを実物大のまま体験できる点にある。ユーザーはアバターとしてバーチャル空間に入り、路面電車に乗って複数の展示エリアを巡る。各駅では、ごみ焼却発電プラントの炉内部や海底フラップゲート、水素発生装置などが詳細に再現され、通常の見学では不可能な視点から構造や機能を理解できる。

ごみ焼却施設の様子。熱くて近づくことができない場所へもバーチャル空間なら見学が可能だ

展示は、カナデビアが国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)で提示した「循環経済とGHG排出ネット・ゼロを可能とする廃棄物処理システム」に関連するものを中心に5製品で構成されている。効果検証をしながら、今後さらに展示品目を増やす計画もあるという。

開発過程では、CADデータをバーチャル空間に落とし込む際の最適化が課題となった。リアルさを追求しすぎると処理が重くなり、逆に簡略化しすぎると迫力や理解度が損なわれる。設計者とデザイナーの間で試行錯誤を重ね、バランスをとることで没入感と情報性を両立させた。さらに、実際の路面電車の走行音を収録してワールド内で再生するなど、細部にまでリアリティを追求している。

カナデビアでは、社内への理解促進にもこの展示を活用する方針だ。当初VRゴーグルの使用に抵抗を示していた社員も、実際に体験することでメタバースの可能性を実感し、エンジニアリング業務への応用を前向きに捉えるようになったという。今回の試みは、社内文化の変革を促す契機にもなりつつある。

インダストリアルメタバースが拓く次代の現場

クラスター株式会社 代表取締役 CEO 加藤 直人 氏は、記者発表会の席でこう語った。「メタバースの価値は、空間と身体をデジタル化し、時間や距離の制約を超えて人・物・技術をつなげることにあります。巨大なインフラを身体感覚で理解する体験は、単なる技術展示ではなく企業の思想を伝える新たなコミュニケーションの形です」

クラスター株式会社 代表取締役 CEO 加藤 直人 氏

加藤氏が注目するのは、BtoB領域におけるメタバースの爆発的な可能性である。製造業のラインシミュレーション、建設現場での遠隔臨場、危険作業のトレーニング──物理的制約が大きい産業ほど、メタバースは真価を発揮する。今回のカナデビアの取り組みは、その象徴的事例といえる。

MetaStep編集部もデモで「Kanadevia Virtual Museum」を体感した

今後、カナデビアはバーチャルミュージアムを社内外へ広く開放し、展示会や教育、採用活動にも活用する方針だ。2025年10月に幕張メッセで開催されるアジア最大級のIT・エレクトロニクス総合展CEATECでの一般公開を皮切りに、インターネット経由で世界中から24時間アクセスできる環境を整える。また、展示内容を随時拡充し、製品説明だけでなく、エネルギー循環や防災技術といったテーマ別の学習コンテンツとして進化させる構想もある。

さらに重要なのは、メタバースを「第二の職場」と位置づける構想だ。社員がバーチャル空間で会議や設計レビューを行い、物理的移動を減らしながら業務を効率化する取り組みが始まっている。こうした動きは、CO₂排出削減や環境負荷の低減にも直結し、サステナビリティ経営の新たな手段となり得る。

インダストリアルメタバースは、もはや一過性のトレンドではない。重厚長大産業における働き方改革と価値創造の最前線として、次代の企業競争力を左右する存在となるだろう。カナデビアの挑戦は、ビジネスの未来を見据える私たちに、次の一歩を踏み出す示唆を与えている。

取材を終えて

実際にVRゴーグルを装着し「Kanadevia Virtual Museum」を体験させていただき、ごみ焼却発電プラントや洋上風力といった巨大設備を実物大で見る迫力に圧倒されました。普段は立ち入ることができない内部構造や海中部分まで確認できる点は、現場を知らない人にも技術の全体像を理解させる力があります。鉄鋼、造船、セメント、非鉄金属、化学工業など、他の重工業分野でも同様の仕組みが応用できれば、技術継承や安全教育のあり方そのものを変える可能性があると感じました。今後も「Kanadevia Virtual Museum」の進化と、産業全体への波及に注目していきます。

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