ブロックチェーン技術の発展と共に、分散型金融(DeFi)というまったく新しい金融エコシステムが誕生しました。その中核を担う重要な技術が「自動マーケットメーカー(AMM)」です。従来の金融市場とは異なり、中央管理者を必要とせず、アルゴリズムによって自動的に価格を決定して流動性を提供するこの仕組みは、Web3時代の新たな金融インフラとして注目を集めています。
本記事ではAMMの基本について、ビジネスパーソンにも分かりやすく解説します。
AMMは「Automated Market Maker(自動マーケットメーカー)」の略で、従来の注文板方式ではなく、数学的アルゴリズムを用いて資産の価格を自動的に決定する仕組みです。
伝統的な取引所では、売り手と買い手をマッチングさせる「注文板」が使われますが、AMMでは「流動性プール」と呼ばれる資金のプールを用いて、ユーザーがいつでも取引できる環境を提供します。
AMMには従来の取引システムと一線を画す、いくつかの重要な特徴があります。
●中央管理者不要:銀行や取引所などの仲介者がいなくても機能します
●常時稼働:24時間365日、世界中どこからでも利用可能です
●自動価格決定:数学的アルゴリズムによって価格が自動的に決まります
●流動性提供のインセンティブ:一般ユーザーが流動性を提供することで報酬を得られます
従来の金融システムでは、取引を行うために必ず仲介者が必要でした。その仲介者は営業時間内にしかサービスを提供せず、高額な手数料を取ることも少なくありませんでした。
また、新興国や金融インフラが未発達な地域では、そもそも金融サービスへのアクセスが困難という問題も存在します。
AMMは、これらの課題を解決する可能性を秘めています。インターネットに接続できる環境さえあれば、世界中どこからでも、24時間いつでも金融取引が可能になるのです。また、銀行口座を持てない「アンバンクト」と呼ばれる人たちにも、金融サービスの門戸を開く可能性があります。
AMMは、ビジネス領域においても多くのメリットをもたらします。従来の金融システムでは困難だった以下のような価値を企業や個人に提供します。
●国境を越えた即時取引:海外送金や国際取引が簡単かつ迅速に行えます
●低コスト:中央管理者が不要なため、取引コストを抑えられます
●新たな投資機会:流動性提供者として参加することで、新たな収益源を得られます
●金融包摂:従来の金融システムから排除されていた層にもサービスを提供できます
分散型金融の要となるAMMですが、広く採用されるためには解決すべきいくつかの課題があります。これらの課題を理解することは、AMM技術を活用するうえで重要なポイントとなります。
まず「価格の急な変動」という問題があります。例えば、プール内のお金が少ないときに大きな取引をすると、価格が想定よりも大きく変わってしまうことがあります。例えば、「100万円分の取引をしようとしたら、実際には105万円かかってしまった...」というようなことが起こり得ます。これは大規模な取引をする企業にとって特に問題となります。
次に「予期せぬ損失のリスク」も重要な問題です。流動性提供者は、市場価格の変動によって「インパーマネントロス」と呼ばれる損失を被ることがあります。
最後に「セキュリティの問題」も見逃せません。過去にはシステムの脆弱性をついてハッキングされ、大金が盗まれる事件も起きています。こうした事例は、多くの人がAMMの利用をためらう原因になっています。
AMMは単なる取引の仕組みを超えて、金融の民主化と効率化をもたらす重要な技術となっています。従来の金融システムでは実現できなかった「誰もが公平に参加できる金融市場」を実現する可能性を秘めているのです。
ビジネスリーダーとして、この新たな技術と市場の動向を理解しておくことは、未来の金融環境における競争力を維持するために不可欠です。AMMが切り拓く可能性に目を向け、自社のビジネスモデルや戦略に取り入れる視点を持つことが、Web3時代を生き抜くための重要なカギとなるでしょう。