「英語学習は本当に離脱率が高い。だからこそ、勉強している感覚なく英語力が見に付く場所を創りたい」「日本人が英語力を身につければもっと日本は元気になる」そんな熱い気持ちを語るのは、株式会社Meta Heroesから7月にリリースされる新サービス「メタ英会話」の事業部長を務める横田 愛美 氏だ。今でこそ、メタバースを活用した新しい語学学習サービスをまとめる立場の彼女だが、数年前までは技術に疎かったという。「メタ英会話」の新規性はどこにあるのか、そして事業を束ねる横田氏の思いとは。本人を直撃した。(文=MetaStep編集部)
「英語学習は、勉強感を極力なくすべきなんです」。そう語るのは、株式会社メタヒーローズで「メタ英会話」事業部長を務める横田 愛美 氏。2025年7月に正式リリースされるこの新サービスは、メタバース空間で英語を学べる次世代型オンライン英会話だ。
2025年5月に大阪・関西万博のEXPOホールにて開催された「防災万博」内の横田氏のスピーチで「メタ英会話」のローンチが発表された
Meta Heroesは、メタバースやAIを活用し、教育や防災、地方創生といった社会課題の解決を目指している。これまでDX人材育成拠点「Hero Egg」の展開をはじめ、さまざまな教育プロジェクトを手掛けてきた。同社の教育事業における最新プロダクトが2025年7月11日にリリースされる「メタ英会話」だ。
「メタ英会話」は2025年7月11日から人数を限定して始動予定だという
ゲームやクエストを通じて英語を使いながら、マンツーマンで学ぶことができる「メタ英会話」は、顔出しは不要、好きな時間に予約できる柔軟な形式が特徴だ。さらに、メタバース空間での体験にとどまらず、Hero Eggを通じたリアルなイベントや国際交流の機会も設けられており、「オンライン×オフライン」のハイブリッドな学習が可能になる。
なぜ、いまこのようなサービスが必要なのか。それは、日本の英語力が深刻な水準にあるからだ。スイスの語学教育機関による2024年の調査では、日本の英語力は世界116カ国中92位。10年前には26位にいたにもかかわらず、他国の急伸に取り残されている。「英語を話すのが恥ずかしい」「アウトプットの場がない」「必要性を感じない」といった島国である日本人特有の課題に加え、学習離脱率の高さも大きな障壁となっている。
グローバルに日本を捉えると、英語力の水準は10年前に比べて極めて低い水準に落ち込んでいる
「私たちは、勉強している感覚なしに、気づけば英語が話せていたという体験を届けたい。だからゲーム性やアバターを取り入れました。恥ずかしさの壁を越えるための設計です」。横田氏は、「メタ英会話」が持つ“気軽さ”こそが最大の強みだと語る。
横田氏の原点には、幼少期から抱いてきた「枠」に対する違和感がある。「年齢や立場で制限されることに納得できなかった。大人と対等に話したいのに、子どもだからと遮られることが悔しくて仕方なかった」。中学、高校と進学してもその思いは変わることはなく、高校時代にはパニック障害を経験した。
横田氏の転機は、海外ドラマとの出会いだった。「海外では、年齢に関係なく意見を言える良い空気がある。大人も子どもも“個”として扱われる」。その価値観に惹かれ、横田氏はニューヨーク市立大学スタテンアイランド校(The City University of New York, College of Staten Island)へ進学。渡米中はボランティアで高校訪問も行い、多様なバックグラウンドを持つ子どもたちの自由な発言や表情に驚かされたという。
自らニューヨークで体験した経験が横田氏の人生を大きく変えた
「日本の子どもたちにも、自分の“好き”を自信に変えて、世界とつながる感覚を持ってほしい」。その思いから、帰国後はフリーランスで英語の個別指導を開始。やがて、Meta Heroesの代表と出会い、Hero Eggの店長として大阪・なんばパークスに常設教室を立ち上げた。
「メタ英会話」では「Hero Egg」を一つの拠点にバーチャル空間とリアルもつながる新しい英語教育のエコシステムの構築を図っている
「とにかくできることの幅をもっと広げたかった。メタバースやテクノロジーには明るくなかったですが、これなら“好き”を軸に多くの子どもに届けられると確信したんです」。
「Hero Egg」は大阪なんばパークスにある「子どもから大人まで学べるDX教室」だ。「Society5.0×SDG×HERO」を掲げ、社会実装をテーマにする次世代の教育施設となっている。子どものアイデアを立てるために大人向けに、AI研修などのリスキリングを行い、そこで得た収益を子どもへの教育に投資。子どもから出たアイデアを地域や企業へ還元し、さらには産官学のつながりを作っていけるエコシステムを構築している。現在、「Hero Egg」では、3Dクリエイター体験やAI音楽制作、防災メタバースなど、さまざまな原体験が提供されている。
「『メタ英会話』を通じて目指したい世界は、語彙力や文法力を身に着けるだけに留まらず、誰かとつながること。子どもたちの“楽しい”の中に、学びを溶け込ませたいんです」(横田氏)。
「英語を学ぶことがゴールではない。英語を使って、自分の居場所を探してほしいんです」。横田氏は嬉しそうに「メタ英会話」への思いを語る。
「メタ英会話」には、学習ツールを超えた社会的意義がある。災害時の外国人支援や観光・多文化共生といった社会課題に対して、言葉の壁を乗り越えることは非常に重要だ。たとえば防災メタバースでは、外国人に英語で避難行動を伝えるワークショップが行われ、日本人が“命を守る英語”を学びながらアウトプットする機会にもなっている。「気づいたら英語を話していた。そして、それが誰かの助けになっていた」。そんな循環を生み出すのが、「メタ英会話」の本質だ。
外国人にとっても日本語と「防災知識」を学べるコンテンツとして高い評価を得ているという
「Hero Egg」は貴重な学びの場になっている
加えて、横田氏は「リアルでの接点」も重視する。「Hero Egg」では国際交流イベントなど、メタバースでの学びを現実社会で試す場を提供している。「バーチャルとリアルの往復は、学びを定着させるだけでなく、実社会とテクノロジーをつなぐ“橋”にもなる」。このアプローチを今後はフランチャイズ展開し、全国に広げていきたいと横田氏の夢は大きい。
「Hero Egg」からどのようなヒーローが今後生まれるのか注目だ
「英語が話せるようになると、行ける場所も出会える人も変わる。そして視野が広がる。私自身、それで救われてきました」。横田氏は、「メタ英会話」を通じて、英語を“武器”として使いこなし、自分の人生を切り拓く人を増やしたいと語る。
「社会課題に向き合える“グローバルヒーロー”を、日本からもっと増やしたい。英語はそのためのパスポートなんです」。今、横田氏の取り組みが静かに、確かな熱を持って新しい学びの地平を切り開こうとしている。
「世界を身近に」という横田氏の夢がEdtechの力でどう拓かれていくのか