スマートフォンやARグラスを通して現実世界にデジタル情報を重ね合わせるAR(拡張現実)技術。その仕組みには「マーカー型」と「マーカーレス型」という2つの主要な方式があります。どちらを選ぶかによって、アプリケーションの使い勝手や活用できるシーンは大きく変わってきます。
本記事では、ARマーカーとマーカーレスARの違いから、それぞれの特徴や活用事例まで、初心者にも分かりやすく解説します。
(引用元:Cloud CIRCUS )
ARマーカーとは、AR技術において現実世界の位置を認識するための目印となる特殊な画像やパターンのことです。QRコードのような四角形の模様やロゴ、特定のパターンを持つ画像などが使われます。ARアプリケーションはこのマーカーを認識すると、その位置や角度を基準にしてデジタルコンテンツを表示します。
マーカー型ARの基本的な処理の流れは以下のとおりです。
1.カメラが特定のマーカーを認識する
2.マーカーの位置・角度・大きさを計算
3.マーカーの位置を基準にしてデジタルコンテンツを表示
マーカーには高コントラストで認識しやすいパターン(黒と白の組み合わせなど)が使われることが多く、照明条件の変化にも比較的強いという特徴があります。
(引用元:Cloud CIRCUS)
マーカーレスARは、特定のマーカーを必要とせず、現実世界の特徴点や環境そのものを認識してARコンテンツを表示する方式です。床や壁などの平面、物体の形状、周囲の空間構造などを検出し、そこにデジタルコンテンツを配置します。
マーカーレスARは、主に以下のような技術で現実世界を認識します。
●SLAM:カメラの動きと同時に周囲の環境の3D地図を作成
●平面検出:床や壁、テーブルなどの平らな面を認識
●特徴点追跡:自然な画像の中から特徴的な点(角やエッジなど)を検出し追跡
●物体認識:実在する物体の形状を認識
これらの技術により、特別なマーカーがなくても現実世界にARコンテンツを配置できるようになりました。
マーカー型とマーカーレス型のARには、それぞれ異なる特徴と適した用途があります。その主な違いを見ていきましょう。
●マーカー型:マーカーが明確に見えている限り、位置合わせの精度が高く安定しています。マーカーのサイズから距離も正確に測定できるため、コンテンツの配置が正確です。
●マーカーレス型:環境条件(照明や動き)に影響されやすく、認識の安定性はマーカー型に比べるとやや劣ることがあります。ただし、技術の進化により精度は大きく向上しています。
●マーカー型:マーカーを事前に設置する必要があり、マーカーが見える位置にカメラを向ける必要があるため、使用シーンに制約があります。
●マーカーレス型:特別な準備なしにどこでも利用でき、より自然な体験を提供できます。ユーザーは環境を撮影するだけでARコンテンツを楽しめます。
●マーカー型:比較的処理負荷が軽く、高性能なハードウェアを必要としないことが多いです。古い機種のスマートフォンでも動作しやすいのも特徴です。
●マーカーレス型:環境認識や空間マッピングには高い処理能力が必要で、最新のスマートフォンやタブレットなど、高性能なデバイスが必要になることがあります。
ARアプリケーションを開発する際、マーカー型とマーカーレス型のどちらを選ぶべきかは、目的や予算、ターゲットユーザーのデバイス環境などによって異なります。
●正確な位置合わせが必要な場合
●特定の物体や場所と紐づいたコンテンツを提供したい場合
●幅広いデバイスでの利用を想定している場合
●開発コストや時間を抑えたい場合
●自由度の高いユーザー体験を提供したい場合
●特定の場所に縛られないサービスを開発したい場合
●ユーザーの環境に合わせた柔軟なコンテンツ表示が必要な場合
●最新のデバイスをターゲットにしている場合
ARマーカーとマーカーレスARの技術は共に進化を続けています。マーカー型では、より自然な画像をマーカーとして使用できるようになり、マーカーレス型では認識精度と処理速度が向上しています。
また、両技術を組み合わせたハイブリッド型のアプローチも登場しており、状況に応じて最適な認識方法を使い分けることも可能になっています。ARグラスなどのウェアラブルデバイスの普及とともに、ARはより日常に溶け込んだ技術となりつつあります。
AR技術の発展により、私たちの現実世界の見方や情報との関わり方は大きく変わっていくでしょう。マーカー型とマーカーレス型という異なるアプローチは、それぞれの特性を活かしながら、さまざまな分野でのAR活用を支えていくはずです。