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2025.06.09

伝統的金融とDeFiを橋渡しするElixirとは?機関投資家を取り込むWeb3戦略について学ぶ

伝統的な金融機関とDeFi(分散型金融)の世界を橋渡しするプロジェクト「Elixir」が注目を集めています。BlackRockやHamilton Laneといった大手資産運用会社の資金を暗号資産市場に取り込む独自の仕組みを構築し、Web3における新たなビジネスモデルを提示しています。本記事では、Elixirのビジネス戦略から学べる実物資産(RWA)のトークン化アプローチや、企業がWeb3技術を活用する際のヒントについて解説します。

Web3における課題:伝統的金融とDeFiの断絶

(引用元:Elixir

Web3およびDeFi(分散型金融)が急速に発展する一方で、伝統的な金融システムとの間には依然として大きな隔たりが存在しています。この断絶が、機関投資家の大規模資金とDeFiのイノベーションが融合する可能性を制限してきました。

伝統的金融機関が直面するWeb3参入の障壁

大手金融機関や資産運用会社がDeFiに参入する際、規制対応、技術導入コスト、セキュリティリスクなど、さまざまな障壁があります。特に重要なのは、既存の資産(国債や社債、不動産など)をブロックチェーン上で運用する際の技術的・法的枠組みの不足です。これにより、何兆ドルもの機関投資家の資金がDeFiエコシステムから隔離されている状況が続いています。

DeFi企業側の課題:信頼性と流動性の確保

一方、DeFiプロトコルやWeb3企業にとっては、機関投資家に対する信頼性の証明と、大規模な取引に対応できる十分な流動性の確保が長年の課題となってきました。伝統的金融の世界では当たり前の「担保」や「信用」の概念を、ブロックチェーン上でどう実現するかが重要な課題とされています。

Elixirが提示する新たなビジネスモデル

Elixirは、伝統的金融とDeFiの間に存在する断絶を埋めるための新しいアプローチを提示しています。そのコアとなるのは、実物資産(RWA)をDeFiに統合する仕組みと、高速で効率的なネットワークインフラの構築です。

実物資産をDeFiに統合する基本戦略

(引用元:Elixir

Elixirの最大の特徴は、BlackRock、Hamilton Lane、Apolloといった大手資産運用会社の実物資産(RWA)をDeFiエコシステムに直接統合できる点にあります。これにより、機関投資家は元の資産エクスポージャー(価格変動リスクにさらされている資産の割合)を維持したまま、DeFiのさまざまな機能やサービスにアクセスできるようになります。

この統合は、単なる技術的な橋渡しではなく、異なる金融パラダイム間の「翻訳者」としての役割を果たしています。例えば、従来は国債や社債に投資していた機関投資家が、その資産を担保としてDeFiプロトコル上で新たな金融サービスを利用できるようになるのです。

合成ドル「deUSD」の革新性

(引用元:Elixir

Elixirエコシステムの中核を担うのが、「deUSD」と呼ばれる合成ドルです。deUSDはElixirネットワークによって提供される完全担保型のデジタル資産で、保有するだけで利回りを得られる特徴があります。

注目すべきは、deUSDが従来の法定通貨担保型ステーブルコインとは根本的に異なる点です。一般的なステーブルコインが1:1の法定通貨準備金によって価値を担保しているのに対し、deUSDはstETHやMakerDAOのUSDS T-Billなど複数の担保資産によって裏付けられています。

この仕組みにより、機関投資家はdeUSDを通じてDeFiエコノミーに参加しながら、元の資産価値を維持できるのです。ビジネス観点から見ると、これは「既存の価値を保持しながら新たな市場に参入する」というモデルとして参考になるでしょう。

DEXとの戦略的連携に見るエコシステム構築

(引用元:Elixir

Elixirの成功の鍵は、単独のプロダクトではなく、広範なエコシステムの構築にあります。特に注目すべきは、Vertex、Orderly、dYdXなど30以上の分散型取引所(DEX)との戦略的連携です。この事例から、Web3におけるエコシステム構築のポイントを探ります。

パートナーシップによる価値共創モデル

Elixirは自社だけでプラットフォームを構築するのではなく、既存の分散型取引所と戦略的に連携することで迅速にエコシステムを拡大しています。この連携により、各取引所はElixirの技術基盤を活用して流動性を向上させることができます。一方で、Elixirは幅広い利用者にアクセスできるという互恵関係が生まれています。

ビジネスの観点から見ると、これは「すべてを自社で構築するのではなく、最適なパートナーと連携する」という重要な教訓を提示しています。特にWeb3の世界では、相互運用性と開放性が競争優位性の源泉となり得ます。

一般ユーザーを巻き込んだ分散型流動性の仕組み

Elixirの注目すべき特徴として、一般ユーザーがワンクリックで取引所の注文板に流動性を供給し、利回りを獲得できる仕組みが挙げられます。これにより、従来は中央集権型マーケットメイキング企業に依存していた取引所の流動性供給モデルが、より分散化・民主化されています。

この仕組みは「一般ユーザーを単なる消費者ではなく、エコシステムの価値創造者として位置づける」というWeb3特有のアプローチを反映しています。自社のビジネスモデルにおいても、顧客やコミュニティをどのように価値創造のパートナーとして取り込めるかを検討する価値があるでしょう。

企業がWeb3で実践できるElixirの戦略

Elixirの事例から学べる要素は、暗号資産や金融分野だけでなく、さまざまな業界に応用可能です。ここでは、一般企業がWeb3技術を活用する際のポイントを探ります。

既存資産のトークン化アプローチ

Elixirの戦略の核心は、「既存の価値ある資産をブロックチェーン上でトークン化し、新たな用途や市場を創出する」というものです。この考え方は、実物資産だけでなく、さまざまな業界における「資産」に応用できます。

例えば、不動産業界では物件の部分所有権をトークン化することで流動性を高め、アート業界ではクリエイティブ作品の共同所有モデルを構築できます。製造業であれば、生産設備や知的財産権のトークン化による新たな資金調達モデルも考えられるでしょう。

異なる産業での応用可能性

Elixirのビジネスモデルは、さまざまな業界での応用が可能です。例えば、以下のような例が考えられます。

●物流・サプライチェーン:異なるシステム間のデータ連携や、複数の事業者間で共有される資産管理

エンターテインメント:クリエイターと消費者を直接つなぐプラットフォームの構築

エネルギー:分散型エネルギー取引や再生可能エネルギー証書のトークン化

共通しているのは、「断絶していた異なるシステムやエコシステムを橋渡しする」という価値提案です。自社のビジネスにおいても、現在分断されている市場や顧客セグメントをどのように橋渡しできるかを検討することで、新たなビジネスチャンスが見えてくるかもしれません。

中小企業のためのWeb3活用戦略

Web3技術の導入は、大企業だけのものではありません。Elixirの事例から、中小企業がWeb3を活用する際のポイントとして以下が挙げられます。

1.既存の資産や強みを特定する:自社が持つ「価値のあるもの」(データ、知的財産、顧客関係など)を特定し、それをどのようにトークン化できるかを検討する

2.適切なパートナーシップを構築する:すべてを自社で構築するのではなく、技術提供者やプラットフォーム事業者との連携を模索する

3.コミュニティ主導の価値創造を促進する:顧客やパートナーが積極的に参加できる仕組みを設計し、分散型の価値創造を促進する

中小企業にとって重要なのは、リソースの制約を認識しつつ、自社の強みをWeb3の文脈で再定義することです。例えばElixirのような「橋渡し役」として機能することで、既存ビジネスの価値を高めながら、新たな顧客層や市場にもアクセスできる可能性が広がります。特に専門性の高いニッチ市場では、Web3技術を活用した差別化戦略が競争優位性をもたらすでしょう。

Web3時代のビジネスチャンスをつかむには

Elixirが示す「伝統的金融とDeFiの融合」という新たな道筋は、業界を問わず多くの企業にとって示唆に富んだものだと言えます。Web3は単なるテクノロジートレンドではなく、ビジネスの根本的な価値創造の方法を変革する可能性を秘めています。

Elixirが実現している伝統的金融とDeFiの橋渡しによって、双方の強みを活かした新たな価値が生まれています。私たちのビジネスにおいても、異なる世界や概念を結びつけることで、新たな価値を創出できる領域が必ずあるはずです。

成功の鍵はテクノロジー自体ではなく、それを活用して「顧客にどのような価値を提供するか?」にあります。その際に重要なのは、自社だけでなく、顧客やパートナー、コミュニティ全体を巻き込んでエコシステムを構築する俯瞰的な視点です。このような包括的なアプローチこそが、Web3時代のビジネスチャンスをつかむ道となるでしょう。