JapanStepのパートナー企業であるクラスターとのコラボで連載中のコラム「あなたの知らないクラスターの世界」。メタバースの社会実装・ビジネス活用の裾野が広がるためには、大小関わらず、具体的に活用されている生きた事例を知ることが第一歩と考え、世の中に意外と知られていないclusterを活用した事例をお届けしている。
今回MetaStep編集部が取材したのは、北海道手稲養護学校三角山分校だ。誰一人取り残されない共創社会の実現に向けて、教育や医療分野でのメタバース活用が進んでいる。同校は、ICTやアバターロボットを活用した病弱児童生徒の自立や社会参加の可能性を広げる教育活動をいち早く展開。2025年2月には、病気療養中や肢体不自由などを理由に外出機会が限られる児童生徒に雪まつりを楽しんでもらおうと、ニューメディア開発協会と一緒にメタバース空間での体験を企画した。同校の星野 健史 校長、林 美紗子 教諭にメタバース活用で感じた可能性・手ごたえを聞いた。(文=MetaStep編集部)
お話を伺ったのは
北海道手稲養護学校三角山分校 校長 星野 健史 氏
北海道手稲養護学校三角山分校は、隣接する「国立病院機構 北海道医療センター」に入院している神経筋疾患や重症心身障がいなどのある病弱児童生徒を対象とした特別支援学校だ。1970年に開校した北海道八雲養護学校が前身で、2020年8月、北海道八雲養護学校が札幌市西区山の手に移転に伴い、札幌に校舎を新たに北海道手稲養護学校三角山分校として開校した。本分校は、筋ジストロフィー専門病棟を有している。生徒は、入院しながら本分校に通学している。校舎は段差の無い作りになっており、 電動車いす、補助電動車いす、バギーなどで移動している。
北海道手稲養護学校三角山分校
星野校長は、大事に育てていきたい力について、「本分校は『自らの可能性を生かし、心豊かに生きる人を育てる』という教育目標を掲げています。時代は変化し社会から求められる力も変わっていきます。一方で、時代が変われども、子どもたちには大事に育てていきたい普遍的な力もあります。それは、疾患や障がいの有無にかかわらず、自己の力と可能性を認識し発揮できる力、友人や周囲の人たちと互いに力を生かし合える力、自分の人生を創り拓いていく力、学び続けることのできる力、です。こうした力の育成を、一人一人の学び方に合わせた学習活動を基本に、一人一人の力をこれからの社会に最大限に生かすことができる社会参加のあり方を具体的にイメージしながら、その実現に向けた段階的、計画的な教育実践を展開していきたいと考えております」と語る。
林教諭も「学習場面では、『個別最適な学び』と『協働的な学び』を目指し工夫を図っています。ハンディがあっても自己実現できる教育を実現したい。誰も取り残されることなく、生徒たちの可能性を広げたい。そんな熱意ある教職員が一体となって取り組んでいます。私は『生徒が主人公』であることを大切にしており、学びを止めないためにICTやメタバースなども積極的に学び、活用すべく取り組んでいます。」と熱い思いを語った。
同校は、筋ジストロフィーのある子どもの特性に配慮した特別支援学校(病弱虚弱)の指導事例や支援機器・教材などの活用方法の研究・開発・実践に八雲養護学校時代から積極的に取り組んできた。その一つがICTなどを活用した遠隔での学習だ。生徒は筋ジストロフィーという疾患があるがため、徐々に筋力が低下する。「そんな状態でも、やりたいことを実現できる新しい教育技術はないか、かなり前から教師達が全国から情報を集め、活動してきました」と星野校長は語る。
「近年、神経筋難病の病態を分子レベルで解明し治療法の開発が進みました。筋ジストロフィーの進行を遅らせる新薬の開発や神経筋疾患の呼吸リハビリテーションとマネジメントセンターの機能を持つ独立行政法人国立病院機構北海道医療センターでの医療技術のおかげで、高等部卒業後の人生がすこしずつ長くなってきています。卒業後の生活がより豊かで自己実現を図ることができるよう、三角山分校は、八雲養護学校の時代からつながる最新のICT技術を使った教育実践へと進化しつづける学校でなくてはならないと感じています」(星野校長)
ICT技術を活用した具体的なプロジェクトとして、近年はアバターロボットによる校外学習やカフェでの接客体験、ロボットプログラミング選手権なども展開している。実際、生徒の反応からも手ごたえを感じると林教諭は語る。
「技術に対する感度は、子どもたちの方が高いですし、取り組み意欲も高いんです。一生懸命使いながら習得していきますし、私たちも『分からない』ではなく、負けないように新しい技術に触れて、覚えるよう努めています。教育は、カリキュラムという地図があり、その道を通るケースも多いですが、本校は積極的にチャレンジをして、自分たちで道を作るファーストペンギンでありたいという思いで、頑張っています」(林教諭)
2025年、本校が新たな教育活動の挑戦として取り組んだのがメタバースによる雪像見学だ。