2025年2月、AppleのApp Storeから主要な海外暗号資産取引所のアプリが削除される事態が発生しました。金融庁の要請を受けた今回の措置は、日本の暗号資産取引環境に大きな影響を与える可能性があります。さらに、暗号資産を有価証券並みの「金融商品」として扱う検討も始まるなど、取引環境は大きな転換期を迎えようとしています。
今回は、これらの動きが示唆する今後の展望と、ビジネスパーソンが押さえておくべきポイントを解説します。
2025年2月、金融庁は日本の暗号資産取引環境の適正化に向けて、大きな一手を打ちました。無登録で日本市場向けにサービスを提供していた海外取引所に対し、アプリの配信停止を要請したのです。この動きは、これまでの警告だけでは改善が見られなかった状況を受けた、より強い規制措置といえます。
今回の措置でApp Storeからの削除対象となったのは、Bybit、Bitget、MEXC、KuCoin、LBankの5つの取引所アプリです。これらの取引所は、セーシェル共和国やドバイ、シンガポールなどに拠点を置き、インターネットを通じて日本の利用者にもサービスを提供してきました。特にBybitとBitgetは日本のユーザーの間で人気が高く、取引の利便性や取扱通貨の豊富さから、多くの利用者を集めていました。2025年2月10日現在、アプリをインストール済みのユーザーは継続して利用可能ですが、新規のダウンロードはできない状況となっています。
金融庁は以前から、これらの海外取引所に対して段階的に規制を強化してきました。まずは無登録業者としての警告を行い、日本向けの営業停止を求めました。しかし、十分な対応が見られなかったことから、今回のアプリ配信停止要請という強い措置に踏み切りました。
現時点ではiOS版のみが対象となっていますが、今後Android版にも同様の措置が取られる可能性が高いと見られています。このような規制強化の背景には、登録を受けていない事業者による日本市場での営業を防ぎ、投資家保護を徹底するという金融庁の方針があります。
海外取引所アプリの削除は、日本における暗号資産取引の環境に大きな変化をもたらす可能性があります。特に、国内取引所と海外取引所では、サービスの内容や取引環境に大きな違いがあることから、ユーザーの取引行動にも影響が出ることが予想されます。これらの状況を詳しく見ていきましょう。
国内の暗号資産取引所は、金融庁への登録義務があり、厳格な規制のもとでサービスを提供しています。そのため、セキュリティや資産保全の面では信頼性が高いものの、取扱銘柄数がかなり限られているという現状があります。また、新規銘柄の上場にも時間がかかり、グローバルな市場動向への対応が遅れがちという課題も抱えています。
一方、海外取引所は取扱銘柄が豊富で、新規上場も迅速です。さらに、レバレッジ取引の倍率が高く、マルチチェーンでの入出金にも対応するなど、より柔軟な取引環境を提供してきました。このような機能面での差異は、多くのユーザーが海外取引所を選択する要因となっていました。
(引用元:Bybit)
今回のアプリ削除措置により、既存ユーザーは当面の間、インストール済みのアプリは利用できるものの、アップデートはできなくなる可能性があります。また、アプリを削除してしまうと再インストールができないため、慎重な対応が必要です。
ただし、2025年2月10日現在、ブラウザ経由での取引は依然として可能な状況です。規制対象となった取引所の一部は、既存ユーザーへのサービス提供は継続すると述べていますが、今後の規制強化によってはさらなる制限が加えられる可能性もあります。そのため、ユーザーは自身の資産管理について、より慎重な判断が求められる状況となっています。
今回の海外取引所アプリの削除は、より大きな制度変更の一環である可能性があります。金融庁は暗号資産を有価証券に準ずる金融商品として位置づける方向で制度設計を進めており、この動きは日本の暗号資産市場に大きな変化をもたらす可能性があります。
金融庁は2025年6月に制度改正方針を公表し、秋以降の金融審議会での議論を経て、2026年の通常国会での法改正を目指すとしています。
この動きの背景には、米国でのビットコイン現物ETFの承認や、暗号資産が投資対象として確立されつつある国際的な潮流があります。暗号資産を有価証券並みの「金融商品」として位置づけられることで、投資家保護の強化や、取引の透明性向上が期待される一方、より厳格な規制への対応も必要となってきます。
新制度では、ビットコイン現物ETFの国内解禁も視野に入れられています。米国では2024年1月にSEC(米国証券取引委員会)がビットコイン現物ETFを承認し、ブラックロックやフィデリティといった大手資産運用会社が取り扱いを開始しました。その結果、機関投資家からの大規模な資金流入が実現しています。
日本でも同様の動きが実現すれば、より多くの投資家が暗号資産市場に参入する可能性があります。特に、直接的な暗号資産の取引に慎重だった機関投資家にとって、ETFという従来の金融商品の形態での投資が可能になることは、大きな変化となるでしょう。
制度改正では、現行の最大55%という税率を、金融所得課税と同じ20%に引き下げる可能性も検討されています。日本の現行税制は主要国と比較して相対的に高水準とされ、投資家に大きな税負担を強いている状況です。税率の引き下げが実現すれば、投資家の負担が軽減されるだけでなく、海外と比較して不利な立場にあった日本市場の競争力向上にもつながる可能性があります。
ただし、全ての暗号資産を対象とするのか、あるいはビットコインやイーサリアムといった特定の暗号資産に限定するのかは、今後の重要な論点となっています。
今回のような規制強化により、従来の取引環境は大きく変化する可能性があります。しかし、それは同時に新しい取引手段や活用方法が注目を集めるきっかけともなっています。ここでは、今後注目される可能性のある選択肢について見ていきましょう。
分散型取引所(DEX)は、中央集権的な管理者を必要としない取引プラットフォームとして注目を集めています。DEXでは世界中のトークンを自由に取引することができ、法規制の対象となりにくいという特徴があります。
ただし、ウォレットの準備やオンチェーンでの資金操作など、技術的な理解が必要となる点や、ほとんどのサービスが英語での提供となっている点は、一般のユーザーにとって課題となる可能性があります。さらに、投資家保護の仕組みが整っていないため、詐欺などのリスクにも注意が必要です。
(引用元:FiNANCiE)
日本市場において暗号資産やトークンを活用する手段として、国内の適切な法規制に基づいたプラットフォームの利用も選択肢の一つとなります。これらのプラットフォームでは、法的に問題のない形でトークンを発行・流通させることが可能です。
特に企業や個人がトークンを活用した独自の経済圏を構築する際には、国内の規制に準拠したサービスを選択することで、安定的な運営が可能となるでしょう。
規制強化は一見するとマイナスに思えますが、適切な規制の整備は市場の信頼性を高め、より多くの参加者を呼び込む効果も期待できます。特に今回検討されている制度改正には、ETF解禁や税制改正など、市場の活性化につながる要素も含まれています。
重要なのは、投資家保護と市場の発展を両立させる枠組みを築くことです。そのためには、規制当局と事業者、ユーザーが建設的な対話を続けていく必要があるでしょう。
海外取引所アプリの削除から始まった一連の動きは、日本の暗号資産取引環境の大きな転換点となる可能性があります。ただし、これは必ずしもマイナスの変化だけではありません。有価証券並みの「金融商品」化やETFの解禁、税制改正など、市場の成熟化につながる動きも進んでいます。また、DEXの活用や国内プラットフォームの利用など、新たな可能性も広がっています。
重要なのは、これらの変化を正しく理解し、自身のニーズに合った適切な対応を選択することです。Web3時代における暗号資産の活用は、より安全で効率的な形へと進化していくことでしょう。