数千万人のユーザー基盤を持つフリマアプリ「メルカリ」は、2023年3月から暗号資産事業を本格的に開始し、わずか1年で200万口座を突破。その83%が、暗号資産取引未経験者という特徴的な成果を上げています。既存のプラットフォームとWeb3技術を組み合わせた同社の戦略から、ビジネスにおけるWeb3活用のヒントを探ります。
メルカリの暗号資産事業は、既存のフリマアプリとの密接な連携を強みとしています。メルカリで得た売上金での暗号資産購入や、暗号資産の売却益を用いたアプリ内での買い物など、独自の経済圏を形成することで、一般ユーザーにも利用しやすい環境を実現しています。その特徴と効果について見ていきましょう。
(引用元:メルコイン)
メルカリの暗号資産サービスでは、フリマアプリでの売上金やメルペイ残高を直接暗号資産の購入に利用することができます。2024年12月からはメルペイ残高からの自動引き落としにも対応し、つみたて購入の際に取引口座残高が不足している場合は、自動的にメルペイ残高からチャージされる仕組みも整備されています。
このような連携により、ユーザーは複雑な手続きを経ることなく、自然な形で暗号資産取引を始めることができます。さらに、暗号資産を売却して得た資金でメルカリでの買い物もできるため、暗号資産の実用的な活用方法も提示していると言えます。
(引用元:メルコイン)
メルカリの暗号資産サービスの利用者の83%が、暗号資産取引未経験者であることが報告されています。この高い比率の背景には、フリマアプリという身近なプラットフォームからの自然な導線設計があります。
最小取引単位を1円からに設定することで参入障壁を下げ、さらにメルカリの売上金を活用できることで、初めての暗号資産投資に対する心理的なハードルも軽減しています。また、暗号資産購入者の50%がメルペイ残高を保有し、売却者の51%がメルカリで買い物をしているというデータからも、既存サービスとの相乗効果が表れていることがわかります。
メルカリの暗号資産事業は、ビットコイン取引サービスの開始以降、段階的に機能を拡充しています。ユーザーのニーズに応じた機能追加と、利便性の向上を重視した展開により、着実な成長を遂げていると言えるでしょう。
(引用元:メルコイン)
メルカリは2023年3月のビットコイン取引サービス開始以降、着実にサービスの拡充を進めています。2024年5月にはイーサリアムの取引サービスを追加し、同年8月にはビットコインのつみたて機能、10月にはイーサリアムのつみたて機能を順次導入しました。
このような段階的な機能拡充により、ユーザーは徐々に新しい機能に慣れながら、自身のニーズに合わせたサービスを選択することができます。また、イーサリアム導入の理由として「暗号資産をより身近なものとして感じていただけるように」と説明しており、ユーザー目線に立った展開を重視していることがわかります。
(引用元:メルコイン)
メルカリの暗号資産つみたて機能は、1円から100万円の範囲で任意の金額を設定できます。また、つみたて頻度は月1・2・4回、日付は7・14・21・28日から選択可能という柔軟な設計となっています。
つみたて機能は、短期的な売買ではなく、長期的な資産形成を視野に入れたユーザーのニーズに応えるものです。特に、メルペイ残高からの自動引き落とし機能により、給与日に合わせた定期的な投資や、フリマアプリでの売上金を自動的に運用に回すといった、ユーザーの生活スタイルに合わせた資産形成が可能となっています。
メルカリの暗号資産取引サービスの利用実態からは、興味深いユーザー特性が浮かび上がります。ユーザーの行動パターンや利用傾向を分析することで、暗号資産サービスの新たな可能性が見えてくるでしょう。
メルカリにおける、2024年2月時点での平均取引金額を都道府県別に見ると、徳島県が全国1位となっています。これに東京都、滋賀県、島根県、青森県が続いており、必ずしも大都市圏に集中しているわけではありません。
特に徳島県は、ソニー生命の調査によると「家計管理が得意」な県として全国1位にランクインしており、資産運用への関心の高さと暗号資産取引の活発さには一定の関係があることが示唆されています。このデータは、暗号資産取引が投機的な動機だけでなく、計画的な資産形成の手段として認識され始めている可能性を示しています。
メルカリの暗号資産サービス利用者には、新しい投資行動のパターンが見られます。フリマアプリでの売上金を暗号資産で運用し、その売却益を再び買い物に使用するという循環が生まれています。このような行動は、従来の暗号資産取引所では見られなかった特徴です。
実際の商取引と暗号資産投資が密接に結びついたこの形態は、Web3技術の実用的な活用例として注目に値します。ユーザーにとって、日常的な経済活動の延長線上で暗号資産との関わりを持てることが、新規参入のハードルを下げる要因となっているようです。
メルカリの暗号資産事業は、今後さらなる展開が期待されています。また、既存のサービスとWeb3技術の融合により、新たなビジネスの可能性も広がりつつあります。その展望と、企業がWeb3戦略を検討する際のヒントについて見ていきましょう。
(引用元:メルカリ)
メルペイ代表取締役CEOの永沢岳志氏は、今後の展開としてデジタルアセットを取り扱えるデジタルマーケットプレイスの構想を示しています。具体的には、トレーディングカードやチケットなどのデジタルアセットが循環する仕組みの構築を視野に入れているとのことです。
これは、現在のフリマアプリの取引対象を、デジタルアセットへと拡大していく可能性を示唆しています。デジタルアセットの真贋性や価値の担保には課題もありますが、メルカリはすでにブランドバッグやスニーカーの真贋鑑定サービスを開始しており、この知見を活かした展開が期待されます。
また、2025年1月にはメルカリ独自のNFTマーケットプレイス「メルカリNFT」の提供がスタートし、SNSなどで注目を集めています。
メルカリの事例は、既存のビジネスプラットフォームとWeb3技術の融合において、重要な示唆を提供しています。特に注目すべきは、ユーザーにとって身近な既存サービスを起点として、段階的にWeb3サービスを展開していく手法です。
メルカリの売上金やメルペイ残高との連携、1円からの取引、つみたて機能の導入など、ユーザーの生活習慣に寄り添った機能展開が、新規ユーザーの獲得に大きく貢献しています。このアプローチは、Web3技術の導入を検討する他の企業にとっても、参考になる事例といえるでしょう。
メルカリの暗号資産事業は、既存のプラットフォームビジネスとWeb3技術の融合による新たな可能性を示しています。200万口座という規模、そして83%という高い新規参入者比率は、適切な導入戦略によるWeb3サービスの一般普及が実現可能であることを示しています。
既存サービスとの自然な連携、段階的な機能拡充、ユーザーの生活習慣に寄り添った設計など、メルカリの取り組みから得られる気づきは、今後Web3戦略を展開していく企業にとって貴重な参考事例となるでしょう。Web3技術は、必ずしも既存のビジネスを否定するものではなく、むしろ既存の強みを活かしながら、新たな価値を創造する可能性を秘めているのです。