MetaStepのパートナー企業の皆様へインタビューを通じ、近況や2025年に描く戦略・展開などを読者にお届けする新春企画。第5回目は、「Metaverse Japan(メタバースジャパン)」さん(以下敬称略)。
昨年は独占インタビューをはじめ、数々のイベントを取材させていただいた同社が考える2025年の展望とは?共同代表理事の馬渕邦美氏にお答えいただきました。
馬渕邦美
2024年は、メタバースが「バーチャル空間でのコミュニケーション」という枠組みを超えて、さまざまな産業や社会インフラに浸透し始めた転換期でした。以前はゲームやエンターテインメントの文脈で語られることが多かったメタバースですが、近年の生成AI(Generative AI)の急速な進化が「空間そのものを自動生成する」可能性を切り開き、医療・教育・観光・ビジネス会議・インフラ監視・生産管理など、実用レベルの領域まで活用の幅を広げました。
特に、世界的にはインダストリアルメタバースへの注目が高まり、リアル空間をデジタルツインとして再現してモニタリングやシミュレーション、さらには遠隔制御を行う試みが盛り上がりました。自動車や家電といった製造業はもちろん、建設、物流、エネルギー産業などでも新たなビジネス機会と効率化が追求されています。
日本国内でも、都市部だけでなく地方自治体がメタバースを用いた地域活性化に積極的に取り組む事例が相次ぎ、バーチャル展示会による伝統産業の発信や観光サービスの強化など、「仮想がリアルを補完する」動きが一層進んだ一年だったと実感しています。
当法人(一般社団法人Metaverse Japan)では、「メタバース技術の社会実装」というビジョンを掲げ、以下の3つの柱を中心に2024年の活動を展開しました。
1)会員によるワーキンググループ(WG)の活性化
会員企業・団体によるテーマ別WGを拡大・活性化させ、特に「教育」「自治体」「マーケティング」などの観点から課題とソリューションを深掘りしました。産業界やアカデミア、スタートアップが一堂に集まることで、技術的・ビジネス的なノウハウが共有され、実務に即した具体的なアイデア創出が加速。こうしたWGを通じて得られた知見やベストプラクティスが、会員間のメタバース活用を後押ししています。
2)Metaverse Japan Summit 2024 の成功
当法人主催のカンファレンス「Metaverse Japan Summit 2024」には、国内外の企業や研究機関、行政関係者などが多数参加し、大盛況となりました。生成AIを活用したインタラクティブ展示や、バーチャル会場でのセッションを通じ、最新の技術動向や事例を体験いただいたほか、製造業・物流・都市開発など、“社会インフラ”としてのメタバースが注目を集めました。ここから新たな連携や商談が生まれ、日本のメタバース産業を広範に盛り上げる重要な場となったと感じています。
3)Metaverse Japan Lab によるインダストリアルメタバースの実証研究
本格始動したMetaverse Japan Labでは、工場やプラント、物流拠点をデジタルツイン化し、メタバース空間上で監視・制御する実証研究を推進。生成AIを組み込んだシミュレーションや最適化の取り組みにより、ロボットの稼働計画や保守点検の効率化など、現場課題の新たな解決策を提示しています。2024年はまさに「メタバースが実務的・実用的なフェーズへ移るターニングポイント」だったと言えるでしょう。
メタバースのビジネス活用は、すでに黎明期を脱し、産業界が本気で導入を始める段階に入っていると感じます。生成AIのめざましい進化がメタバース構築と運用にかかるコストを下げただけでなく、ユーザーに「その場で最適化された体験」を届けやすくしたことで、多様な企業が意欲的に参入し始めています。
大手IT企業や通信事業者はもちろん、製造、物流、建設などの「リアル現場重視」と思われていた業界でさえ、教育やシミュレーション、設計などをメタバース上で行うことが当たり前になりつつあります。ただし、法律やセキュリティ、データ管理など課題はまだ多く、これらに関しては産官学の連携が不可欠だと考えています。
まず、生成AIが一層進化し、メタバース空間での高度な情報処理がさらにスピーディーになるでしょう。AIが環境やアバター、コンテンツをリアルタイムで生み出すことで、ユーザーはより柔軟かつ臨機応変な体験を享受できるようになります。
インダストリアルメタバースの領域では、工場や物流拠点の運用効率が大幅に向上すると期待できます。センサーから集まるビッグデータをAIが解析し、仮想空間でロボットの動きを最適化してから実機へ指令を送る――これがほぼリアルタイムで実現すれば、予兆保全やメンテナンスの精度が高まり、作業員の負担軽減や人手不足対策にも大いに役立つでしょう。
さらに、メタバースとロボットの融合は製造業以外の領域にも広がり、農業・医療・防災など、地理や人的リソースの制約で発展が難しかった領域での「新たな協働モデル」を生み出す可能性があります。その一方で、セキュリティやガバナンス面の整備は急務です。2025年は技術の進歩と同時に、ルール整備や倫理観の醸成が進む年になるでしょう。
当法人では、2025年に向けて大きく2つの軸を強化します。
1)社会実装に入ったメタバースの会員企業への支援
2024年の成果を踏まえ、メタバースを本格導入したい企業・団体へのサポートを加速します。カスタマー体験設計や運用ガイドラインの策定など、実務面を強力にフォローし、多様な領域への社会実装を後押しする考えです。加えて、会員同士が相互に学び合える場を設け、導入事例や失敗事例を共有することで、課題解決のスピードと質を高めていきます。
2)Metaverse Japan Labによる生成AIとインダストリアルメタバースのさらなる実証研究
2024年に培った実験成果をもとに、製造業やインフラ分野のさらなる効率化を目指します。生成AIの精度向上や、自律制御ロボットとの連携により、シミュレーションと最適化のレベルを引き上げる取り組みを継続。海外との連携や国際カンファレンスでの成果発表も視野に入れつつ、産業界全体でのメタバース活用を広げていきます。
2024年は、メタバースと生成AIが多様なビジネス領域へ実用化の兆しを見せ、「社会インフラとしてのメタバース」を実感できる年でした。2025年は、そうした取り組みを本格的に花開かせ、社会全体へ浸透させる重要なステージだと考えています。
もちろん、新たなテクノロジーには予期せぬリスクや課題が伴うのも事実です。しかし、それを乗り越えるには多様なプレイヤーとの共創が欠かせません。時には国際連携や産学官のパートナーシップを活用しながら、人間の暮らしに寄り添うテクノロジーを築いていくのが、私たちの使命だと信じています。
イノベーションは常に困難とともにありますが、未来に対する希望や創造の力はそれ以上に強いと確信しています。2025年こそ、新しい産業構造や価値観を生み出す転換点になるでしょう。引き続き、多様な皆さまと手を携えながら、日本社会を次のステージへと押し上げる一端を担っていきたいと思います。