MetaStepの提携メディア「メタカル最前線」を運営し、VRやメタバースの事業支援を行っている株式会社V(ブイ)。メディアとコンサルティングの両方からメタバース業界を盛り上げている同社が開催したのは「リアル×メタバースの融合で拡大する可能性」と題したオンラインセミナー。
2024年11月21に行われた本セミナーでは、メタバース活用の先進事例として注目を集める「メタバースヨコスカ」プロジェクトを手掛ける横須賀市文化スポーツ観光部観光課主任の小山田絵里子氏をゲストに迎え、地方自治体におけるメタバース活用の実践知が共有された。
「メタバースは失敗だった」―。
そんな声が聞かれる中、株式会社Vは、VRChat・Roblox・ZEPETO・Fortnite等、主要なメタバースプラットフォームにおいて、ワールド・アバター・衣装アイテムの企画制作を行う。さらに国内最大級のコミュニティや自社メディアを活用した販売プロモーション並びに販売を一貫して支援する事業も展開中だ。
本セミナーシリーズでは、適切なプラットフォーム選定と実行計画により収益化を実現したリーディングカンパニーに、その実践知を共有。
初回のゲストとしてお呼びしたのは、観光メタバースの最前線である「メタバースヨコスカ」プロジェクトを手掛ける横須賀市文化スポーツ観光部観光課主任の小山田氏。展開されてきた施策を通じて得られた、地方自治体や観光PRにおけるメタバース活用の可能性、具体的な事例に基づく成功の秘訣、メタバースプラットフォームの選び方・戦略立案のポイントが語られた。
「メタバースヨコスカ」プロジェクトは、横須賀市によるメタバースを活用した、都市魅力の発信や観光PRを目的とするプロジェクト。現在はメタバースプラットフォームVRChatにおいて2つのワールドを運営中。2023年10月の運用開始からわずか1年で、VRChat上の2つのワールドで累計16万人の訪問者を達成。さらに、横須賀の象徴的なアイテムであるスカジャンの3Dデータは5万5000ダウンロードを記録するなど、具体的な成果を上げている。
小山田氏は、このプロジェクトの立ち上げの背景について、「東京23区から横須賀市への転入者の60%以上が、観光で3回以上訪れた経験を持つ」というデータに着目したと説明します。「3回のうち1回をメタバースで代替できれば、定住促進にも繋がるのではないか」という発想から、プロジェクトが始動したという。
プラットフォームとしてVRChatを選んだ理由について、小山田氏は「初期のインターネットで見られたような創造性と自由な表現が、今のVRChatにある」と説明。「メタバースならではの楽しさを提供できるよう、現実をそのまま再現するのではなく、ちょうどいい距離感とサイズ感で横須賀らしさを表現することを心がけている」と語る。
プロジェクトの成功要因として小山田氏が強調したのは、メタバースコミュニティとの関係構築。特に注目すべきは、その具体的なアプローチ方法だ。必ずしも大規模なインフルエンサーとの協業ではなく、フォロワー数300~400人程度の中規模インフルエンサーとの細かな協業が効果的だったと明かされた。
「VRChatでは、コミュニティ内に信頼されているキーパーソンがいます。そういった方々と関係を築くことで、自然な形で集客につながる」と小山田氏は説明。例えば、今年1月には、横須賀市とかねてより関係値のあったダーツマシン開発・販売のダーツライブとのコラボ企画を実施。VRChat内にてプライベートで遊んでいた時に「放課後ダーツ部」というコミュニティに、たまたま出会ったことからコラボレーションに至ったとのこと。小山田氏は、「たまたま(今回は)ダーツだったが、例えば電車好きな人や麻雀好きな人などが集まるなど、いろいろな集会やイベントがある。そういったコミュニティと一緒に何ができるのかを考えるのは、すごく面白い」と話す。
また、プロジェクトの継続性についても、年間計画を細かく立てるのではなく、コミュニティの反応を見ながら柔軟に企画を組み立てていく方法を選択しているとのこと。例えば、小山田氏が最近見つけたという集会イベントが「プルタブを開ける集会」。プルタブ式の飲み物を開けた際の「カシュッ」という音を、みんなで缶を持ち寄って楽しむというイベントだ。小山田氏は「例えば、こういったイベントと飲食業界とで、何かコラボができるかもしれない」と話し、日々こうしてアイディアを集めていることを共有した。
興味深いのは、必ずしも大きな予算をかけずとも効果的な展開が可能だという点だ。小山田氏は「既存のコミュニティとコラボレーションし、お互いが楽しめる形を考えながら企画すれば、予算をかけずとも参入できる」と指摘。
実際、プロジェクトでは VRChat内での観光ツアーの実施、コミュニティイベントへの出展、地元クリエイターとの協業による3Dモデル制作、AI技術を活用した相談員の実装実験など、多様な展開を実現。また、VRChatのプライムタイムが夜間(22時〜深夜1時)である点については、必要に応じて柔軟な運営体制を組むことで対応しているとのこと。
将来展開については、観光PR以外の行政サービスへの展開可能性も示唆された。特に、高齢者向けのサービスや、引きこもり支援などの福祉分野での活用も検討中だ。
本セミナーを通じて明らかになったのは、メタバース活用の成功には「正しいプラットフォームの選択」「コミュニティとの関係構築」「継続的な展開」の3点が重要だということ。横須賀市の事例は、必ずしも大規模な予算や派手な仕掛けではなく、地道なコミュニティ育成と関係構築が成功への近道であることを示唆している。