講師・生徒が一斉にメタバース空間にアクセスし授業を行う。早稲田大学法学部が開講する早稲田大学法学部寄附講座「メタバースと法」での一幕だ。先端科学技術が社会に実装された際に生じる倫理的・法的・社会的な課題(ELSI:Ethical, Legal and Social Issues)を考えるための本講座。VRゴーグルを装着することで、メタバース・ワールドに没入し、ELSIに迫るという。(文=MetaStep編集部)
インターネット上に作られた仮想空間であるメタバース・ワールドは、様々な分野への活用が期待される。その一方で、アバターの法的地位やアバター間での迷惑行為など、依然として多数の法的課題が存在する。早稲田大学法学部は、先端科学技術が社会に実装された際に生じる倫理的・法的・社会的な課題(ELSI:Ethical, Legal and Social Issues)に対して、リーガル・マインドをもって取り組むリーダーを育成すべく、2022年度に「先端科学技術と法コース」を開講した。
同コースの一環として、あいおいニッセイ同和損保と早稲田大学法学部は、双方の知見をもとにメタバースの法的課題を整理し、ELSIに対処できる法的素養を備えた人材を育成することを目的に、全国の大学の法学部系の授業科目の中で、メタバースに係る法的課題を取り扱う初めての本格的な授業科目で、2023年度秋学期に寄付講座「メタバースと法」として開講した。2023度は、PCデバイスからメタバース・ワールドにアクセスし、メタバースに対する理解を深めながら、法規制やルールのあり方について講義を行ったが、2024年度はVRゴーグルを装着することで、よりメタバース・ワールドに没入し、ELSIに迫る内容だ。
講義で使用するメタバースシステム「POPUPWEB3D」を開発・提供したのは、VLEAPだ。VLEAPは「拡張された情報で五感を埋め尽くす」ことをミッションに掲げ、WEB3Dやメタバース・VR技術を活用して未来を創り続けるベンチャーだ。
「POPUPWEB3D」は、VLEAPが提供する3Dモデルを組み込める次世代webサイト開発サービスで、ランディングページから本格的なメタバースシステムまで柔軟な提案をしている。VLEAPはメタバース開発で培ってきた技術を生かし、従来の平面的なものではなく、3Dモデルを組み込んだwebサイトを開発している。
VLEAPは本講義に合わせ、同一ワールドに最大35名がVRゴーグルでアクセスできる専用のメタバース空間を提供しました。
講義するメインワールドは、東京恵比寿にあるあいおいニッセイ同和損保の本社ビルを再現した。ワールドは最大で35名がVRゴーグルでアクセスしても快適な講義を受けられる環境を実現するため、VLEAP独自の軽量化技術を使用しているという。
また使用するVRゴーグルに合わせたメタバースの調整を行い、授業体制と合わせ、より授業に集中できるメタバース空間を実現している。講師や受講者は、学校まで足を運ばずとも遠方からでも快適にメタバース空間にアクセスする事が可能になる。さらに円滑な授業運営をサポートする機能として、出席記録の自動取得の他、グループワークの振分機能が実装された。
VLEAPはメタバースを活用した円滑な授業体制の構築を目指し、授業運営における実地サポートも実施。計14回行われる授業を現地でサポートし、メタバースやVRゴーグルで起こる技術的課題をサポートしている。
担当する肥塚肇雄教授は「受講生に文理融合の視点と、メタバース体験=没入感と臨場感から、メタバース・ワールドに求められる新たなルールを考察することに力点を置きたいと思います。この体験を通して、受講生が脳の仕組みや認識論にまで関心を広め、新しい時代のルールについて多面的に考察できるようになることを期待しています。 進取の精神で新しい課題に挑戦することが早稲田大学の建学の精神です。メタバース・ワールドにおいて必ずしも課題についての「解」が用意されていない法的課題に取り組むという点では、寄附講座「メタバースと法」はまさに早稲田大学法学部だからできる「学び」の場です」と本講義の意気込みを語る。
本講座の開講を機に、あいおいニッセイ同和損保と早稲田大学「先端技術の法・倫理研究所」は、教科書『メタバースと法』(成文堂、2025年)を共編して、2025年秋頃の発刊を目指すという。あいおいニッセイ同和損保は、安全・安心なメタバースの発展に資する商品・サービスを進化させるとともに、早稲田大学法学部と協働して有為な人材育成を行い社会に貢献していくという。