「ブロックチェーン」という言葉は、ビットコインなどの暗号資産の文脈で頻繁に登場するため、ロボット業界とは縁遠い存在に感じるかもしれません。しかし、ブロックチェーン技術は、ロボットの性能向上やデータ管理の効率化、さらには新たなサービス創出の鍵を握っているのです。
本記事では、まずブロックチェーンの基本的な仕組みを解説した上で、ロボット業界におけるブロックチェーンの応用可能性や最新の事例を紹介します。ロボット業界の未来を見据える上で、ぜひ知っておきたい内容です。
(※)今回、RoboStepで開始した連載コラムを、MetaStepでも掲載いたします。Web3のビジネス活用を学ぶ上で、ブロックチェーン技術が様々な分野にも活かされていることは知っておくべき情報です。是非お役立て下さい。
まずはブロックチェーンの基本的な仕組みを理解しておきましょう。
ブロックチェーンとは、多数のコンピュータが取引記録を共有し、お互いに監視し合うことで、データの改ざんを防ぐ技術のことです。
従来の取引では、銀行などの中央機関が台帳を管理していましたが、ブロックチェーンでは、ネットワークに参加する多くのコンピュータが分散して同じ台帳を持ち、取引の正当性を検証し合います。
この分散管理の仕組みによって、データの信頼性が高まるのがブロックチェーンの大きな特徴なのです。
(引用:NTT DATA)
具体的に、ブロックチェーンがどのように機能するのか見ていきましょう。
ブロックチェーンでは取引データを「ブロック」と呼ばれる単位で記録します。各ブロックには、複数の取引データと、直前のブロックのハッシュ値(ブロックの内容から生成される固有の値)が含まれています。
そして、このブロックが時系列に連なることで、「チェーン」(鎖)が形成されるのです。
新しい取引が発生すると、それを含むブロックが生成されてチェーンに追加されていきます。この際、ネットワーク上の多数のノードがブロックの内容を検証し、承認のプロセスを経てブロックが正式に追加されるのです。
もし、誰かが過去の取引データを改ざんしようとしても、その後のブロックのハッシュ値が全て変わってしまうため、他のノードに拒否されることになります。こうした仕組みにより、ブロックチェーンは高いセキュリティを実現しているのです。
(引用:Blockchain Biz)
さらに、ブロックチェーン上では「スマートコントラクト」と呼ばれる自動契約の仕組みを実装できます。
スマートコントラクトとは、事前にプログラムされた条件が満たされると、自動的に契約が執行される仕組みです。
例えば、「Aさんが商品を発送したら、Bさんから代金が自動的に支払われる」といった契約を人の手を介さずに実行できるのです。
この仕組みにより、契約の自動化・効率化が可能となり、様々な分野での応用が期待されています。
それでは、ロボット業界におけるブロックチェーンの活用事例について見ていきましょう。ブロックチェーン技術は、ロボットの自律性を高め、新たなサービスを創出する上で大きな役割を果たすと期待されています。
以下、具体的な実証実験やユースケースを紹介します。
株式会社Datachainは、ブロックチェーンを活用して工場内のロボットに関する情報を、関係者間で安全に共有するための実証実験を行いました。
ロボットの管理にはメーカーや工場の担当者など、多くの人が関わります。しかし、情報がバラバラに管理されているため、トラブルの防止や対応に時間がかかるという問題がありました。
そこで、ブロックチェーン技術を活用し、関係者全員が同じ情報を見られるシステムを構築。実験の結果ロボットの状態をすぐに確認できるようになり、トラブルへの対応も速くなることがわかりました。
この取り組みは、工場をより効率的に運営するための第一歩になる可能性があります。
参考:Datachain、大手グローバルメーカーと、ブロックチェーンを活用しスマート工場の実現を目指す、ロボットデータ共有PFの実証実験を実施
ドローン業界では、ブロックチェーン技術の導入により、信頼性と効率性の向上が期待されています。
米国運輸省の報告書によると、ブロックチェーンを活用したフライトレコーダーにより、ドローンの飛行データをリアルタイムで検証・追跡することが可能に。これにより、規制当局や保険会社、パイロットなど、関係者間でのデータ共有がスムーズになるとされています。
また、ドローンを使った配送サービスにおいても、ブロックチェーン上で配送状況を記録・管理することで、透明性と信頼性の高いシステムの構築が可能です。
IBMやウォルマートなどの大手企業も、ドローンの認証やセキュリティ面での活用を見据え、ブロックチェーン関連の特許を申請しています。
今後、ブロックチェーン技術がドローン業界の発展を加速させることが期待されています。
日々の生活に役立つ分野として、配達ロボットにおけるブロックチェーン活用が実用化されています。
ZMP社は、自律走行する宅配ロボット「CarriRo Deli」を使った無人配送サービスにおいて、ブロックチェーン技術の活用を進めています。
(引用:ZMP)
このシステムでは、配送の各段階(注文完了、商品積込完了、配送完了、受取完了など)の情報をブロックチェーンに記録し、管理画面で視覚化。ブロックチェーンは、データの改ざんを防ぐ強力なセキュリティを持っているため、配送状況の信頼性と透明性を高められます。
ブロックチェーンとロボット業界の融合は、まだ始まったばかりです。実用化に向けては、いくつかの課題もあります。
例えば、ブロックチェーンのスケーラビリティ(拡張性)の問題や、ロボットの標準化・互換性の問題などが挙げられます。
また、ブロックチェーンを活用したロボットシステムの導入には、コストの問題も無視できません。新しい技術の導入には、初期投資や人材育成など、一定のコストがかかります。特に、中小企業にとっては、ブロックチェーン技術の導入ハードルが高いと感じるかもしれません。
さらに、ブロックチェーン技術自体への理解不足も、普及の障壁となる可能性があります。ブロックチェーンは、まだ一般の人にとって馴染みの薄い技術です。ロボット業界でブロックチェーンを活用するためには、技術者だけでなく、経営者や現場のスタッフにも、その仕組みや効果を分かりやすく説明していく必要があるでしょう。
しかし、こうした課題を一つひとつ乗り越えていくことで、ブロックチェーンとロボットの融合は大きな可能性を秘めていると言えます。ブロックチェーンの高いセキュリティ性と、ロボットの効率性を組み合わせることで、これまでにない革新的なサービスが生まれるかもしれません。
本記事では、ブロックチェーンの基礎知識とロボット業界との関連性について解説しました。
ブロックチェーンは、分散型台帳技術により、高いセキュリティと透明性を実現しており、スマートコントラクトにより自動的な契約執行も可能になります。
こうしたブロックチェーンの特性はロボットの自律性を高め、新たなサービスを創出する上で大きな役割を果たすと期待されています。
現状、実用化に向けての課題はありますが、ブロックチェーンとロボットの融合は大きな可能性を秘めていると言えるでしょう。
次回からは、実際にロボット業界にブロックチェーン技術が活用されている事例を、より詳しく解説していきますので、楽しみにお待ちください。