代表的な暗号資産を取り上げ、それぞれの特徴について学んでいく連載の第2回。今回は「イーサリアム」です。
イーサリアムは、2015年に登場した次世代の分散型プラットフォームです。ビットコインに続く第二の暗号資産として知られていますが、その機能性はビットコインを凌駕する部分も多く、非常に注目度が高い暗号資産だといえます。
特に、スマートコントラクト機能を備えたブロックチェーン技術により、金融取引だけでなく、様々な分野でのビジネス活用が期待されています。
本記事では、イーサリアムの基本的な仕組みから具体的なビジネスでの活用法、すでにイーサリアムが導入されている実例に至るまで、幅広く解説します。
(引用:https://ethereum.org/ja/assets/)
イーサリアム(ETH)は、分散型アプリケーション(DApps:Decentralized Applications)を構築・実行するための、オープンソースのブロックチェーンプラットフォームです。2024年現在、DApps開発において最も広く採用されているプラットフォームの一つであり、その豊富なエコシステムと開発者コミュニティにより、多様なアプリケーションの構築が可能となっています。
2013年、当時19歳だったヴィタリック・ブテリンによって考案されたイーサリアムは、2015年7月30日に正式にローンチされました。
当初は暗号資産マニアの間で注目されていましたが、その後急速に普及し、現在では時価総額でビットコインに次ぐ第二位の暗号資産となっています。2018年には初めて1ETHが1,000ドルを突破し、大きな注目を集めました。
イーサリアムの最大の特徴は、スマートコントラクト機能にあります。スマートコントラクトは、ブロックチェーン上で自動的に実行されるプログラムで、これにより複雑な取引や合意形成を自動化することが可能になりました。
スマートコントラクト技術を利用することで、単なる価値の移転だけでなく、条件付きの取引や複雑なビジネスロジックをブロックチェーン上で実装できるようになりました。
イーサリアムは、分散型アプリケーション(DApps)の開発・運用プラットフォームとしても機能します。DAppsは、中央で管理するサーバーに依存することなく、ブロックチェーン上で動作するアプリケーションです。
これにより、従来のアプリケーションよりも高い透明性、セキュリティ、耐障害性を持つサービスの提供が可能になりました。2024年現在では、イーサリアムを含む様々なブロックチェーン上で、金融、ゲーム、SNSなど、様々な分野のDApps開発が進んでいます。
イーサリアムは、その高い機能性により、様々なビジネス分野での活用が期待されています。スマートコントラクトやDAppsの特性を理解し、適切に活用することで、新たなビジネスモデルの創出や既存プロセスの効率化が可能になります。
ここからは、イーサリアムの活用方法の中でも代表的なものを紹介します。
分散型金融(DeFi:Decentralized Finance)は、イーサリアムを活用した金融サービスの革新的な形態です。従来の金融機関を介することなく、貸借、取引、保険などのサービスを提供します。これにより、金融サービスへのアクセスが世界中どこからでも可能になり、金融包摂の促進に大きく貢献しています。
具体的には、Compound(貸借プラットフォーム)やUniswap(分散型取引所)、Aave(流動性プロトコル)などのDeFiプロジェクトが注目を集めています。これらのサービスは、低コストで24時間365日利用可能であり、従来の金融サービスと比較して大幅な効率化が図られています。
(引用:Compound)
例えば、Compoundを利用すれば、担保を預けることで暗号資産を借りたり、逆に暗号資産を貸し出して利子を得たりすることができます。また、Uniswapでは、中央管理者なしで暗号資産の取引ができ、流動性提供者は取引手数料の一部を報酬として受け取ることができます。
DeFiの大きな特徴として、スマートコントラクトによる自動執行があります。これにより、仲介者を介さずに取引が行われるため、処理速度の向上とコストの削減が実現しています。また、オープンソースで開発されているため、誰でも新しい金融商品やサービスを作り出すことができます。
ただし、DeFiにはリスクも存在します。スマートコントラクトのバグや脆弱性を突いたハッキング、暗号資産の価格変動による清算リスクなどがあります。また、規制の観点からも不透明な部分があるため、今後の法整備の動向には注意が必要です。
イーサリアムのスマートコントラクトを活用することで、サプライチェーン管理の透明性と効率性を大幅に向上させることができます。従来のサプライチェーン管理システムと比較して、情報の改ざんが困難で、リアルタイムでの追跡が可能となるため、企業間の信頼性向上にも貢献します。
例えば、製品の生産から配送、販売までの各段階をブロックチェーン上で追跡し、品質保証や偽造防止に役立てることができます。具体的には、食品業界では原材料の調達から消費者の手元に届くまでの過程を透明化し、食品の安全性向上や偽装問題の防止に活用されています。また、高級ブランド品業界では、製品の真贋証明にブロックチェーンを利用し、偽造品対策を強化しています。
さらに、スマートコントラクトを利用することで、取引条件が満たされた際に自動的に支払いが実行されるなど、決済プロセスの自動化も可能になります。これにより、支払いの遅延や取引に関するトラブルを減少でき、キャッシュフローの改善にもつながります。
在庫管理においても、イーサリアムの活用は効果を発揮します。リアルタイムでの在庫状況の把握や、需要予測に基づいた自動発注システムの構築が可能となり、在庫の最適化やコスト削減に寄与します。
ただし、イーサリアムを活用したサプライチェーン管理システムの導入には、初期投資やシステム移行のコストが必要になります。また、関係する全ての企業がシステムに参加する必要があるため、業界全体を横断する取り組みも求められます。さらに、データの秘匿性の確保や規制への対応なども課題となっています。
イーサリアムの実用化は着実に進んでおり、様々な分野で導入事例が増えています。これらの事例を知ることで、イーサリアムの実際の活用方法とその可能性がより明確になるでしょう。
多くの大手企業がイーサリアムを活用したプロジェクトを展開しています。これにより、イーサリアムの実用性と信頼性が高まっています。
例えば、JPMorgan Chaseは2016年に独自の企業向けイーサリアムブロックチェーン「Quorum」を開発し、銀行間取引の効率化に活用しています。その後、2020年には暗号資産ウォレットのメタマスクを開発するConsensysに売却されました。
非代替性トークン(NFT)の分野でも、イーサリアムは中心的な役割を果たしています。イーサリアムの代表的なトークン規格であるERC-721やERC-1155などにより、NFTの作成と取引が容易になりました。
(引用:opensea)
2017年に設立されたNFTマーケットプレイスのOpenSeaは、主にイーサリアムブロックチェーン上で運営されています。2024年7月現在でも、OpenSeaの月間アクティブユーザー数は100万人を超えています。
また、2020年に立ち上げられたNFTマーケットプレイスのRaribleは、クリエイターがNFTを簡単に作成・販売できる機能を提供しています。100万人を超えるクリエイターがRaribleに登録しており、デジタルアート、音楽、ビデオなど多様なNFTが取引されています。
これらのプラットフォームを通じて、多くのアーティストやクリエイターが新たな収益源を見出しています。例えば、デジタルアーティストであるBeepleの作品は、2021年に6,900万ドルの高値で落札されました。これは、ビジネスとしてのNFTアートの可能性を世界に示した一例だと言えるでしょう。
イーサリアムは、エンターテインメント産業でも新たな風を巻き起こしています。
ゲーム業界では、ブロックチェーンゲーム(いわゆるPlay-to-Earnゲーム)が注目を集めています。例えば、世界的に知られるブロックチェーンゲームのAxie Infinityは、2018年にイーサリアム上でローンチされ、2021年のピーク時にはデイリーアクティブーユーザー数で280万人以上を記録しています。プレイヤーは、ゲーム内で自身のキャラクターやアイテムを所有し、売買することができます。
音楽業界では、Audiusが2018年にイーサリアムを活用した分散型音楽ストリーミングプラットフォームをローンチしました。Audiusは、アーティストとユーザーを直接結びつけ、中間業者を介さずにロイヤリティを分配する新しいモデルを提示しています。
これらの事例は、イーサリアムが単なる金融取引のプラットフォームを超えて、クリエイティブ産業にも大きな影響を与えていることを示しています。
イーサリアムは、ブロックチェーン技術とスマートコントラクトの融合により、従来の金融システムや中央集権型サービスを超えた、新しい分散型経済の基盤を提供しています。
DeFiやNFT、分散型アプリケーション(DApps)など、イーサリアム上で展開されるサービスは、金融、エンターテインメント、サプライチェーン管理など、幅広い産業に変革をもたらしています。
一方で、スケーラビリティの問題や規制環境の変化、セキュリティリスクなど、克服すべき課題も存在します。今後、これらの課題に対する取り組みと、継続的な技術革新を通じて、イーサリアムを基盤とした分散型経済はより一層私たちの生活やビジネスに浸透していくはずです。