世界初の分散型デジタル通貨「ビットコイン」が2009年に誕生してから、暗号資産はその技術的な特徴、および投資対象としての注目度の高さから、世界中に大きな影響を与えています。今や暗号資産の銘柄数は約1,000種類ともいわれています。
しかし、暗号資産の仕組みや実際の活用方法、その将来性について、十分に理解している人はまだ多くありません。
そこでMetaStepでは、代表的な暗号資産を取り上げ、それぞれの特徴について学んでいく連載を開始します。各暗号資産の基本的な仕組みから、具体的なビジネスでの活用法、導入されている実例に至るまで、幅広く解説していきます。もちろん初回はビットコインからです。
ビットコイン(BTC)は、中央管理者を持たない分散型のデジタル通貨システムです。その仕組みは、従来の通貨や金融システムとは大きく異なっています。
2008年、サトシ・ナカモトという匿名の人物(もしくはグループ)によって発表されたビットコインは、翌2009年に運用が開始されました。
当初はごく少数の技術者の間だけで注目されていましたが、その後急速に普及し、現在では世界中で取引されています。2013年には初めて1BTC=1,000ドルを突破し、大きな注目を集めました。
ビットコインの核となる技術がブロックチェーンです。ブロックチェーンは取引記録を分散して保管する仕組みで、分散型台帳とも呼ばれます。これにより、中央管理者なしで取引の正当性を確保し、データの改ざんを極めて困難にしています。
全ての取引はブロックと呼ばれる単位にまとめられ、暗号化技術によって連鎖的に結びつけられます。また、この技術はビットコイン以外の分野でも広く応用されつつあります。
ビットコインの分散型システムは、単一障害点をなくし、システム全体の堅牢性を高めています。これにより、従来の金融システムでは難しかった、国境を越えた迅速かつ低コストの取引が可能になりました。
また、政府や金融機関の介入を受けにくいという特徴も、ビットコインの大きな魅力の一つとなっています。この特性は、特に金融システムが不安定な国々で重要視されています。
ビットコインは単なる投機の対象ではなく、実際のビジネスにおいても様々な活用方法があります。その特性を理解し、適切に活用することで、新たなビジネスチャンスを創出することも可能です。
ここからは、ビットコインの活用方法の中でも代表的なものを紹介します。
ビットコインを決済手段として導入することで、国際取引における送金手数料の削減や処理時間の短縮が可能になります。特にクロスボーダー取引を行う企業にとっては、大きなメリットとなるでしょう。
具体的には、海外のサプライヤーやフリーランサーへの支払い、グローバルなeコマース事業での代金回収といったケースでの利用が考えられます。これらの取引では、従来の銀行送金と比較して、ビットコインを使用することで大幅なコスト削減と処理時間の短縮が期待できます。
また、チャージバックリスクの低減も、ビットコイン決済の利点の一つです。チャージバックリスクとは、クレジットカード決済において、購入者が取引を否認し、支払いの強制的な取り消しを要求するリスクのことです。
ビットコイン取引では、一度確定した取引を一方的に取り消すことはできません。返金が必要な場合は、新たな取引として反対方向に送金する必要があります。これにより、事業者は不正なチャージバックによる予期せぬ損失を避けることができ、より安定した事業運営が可能になります。
ただし、この特性は消費者保護の観点からは課題となる可能性もあるため、事業者は明確な返金ポリシーを設定し、必要に応じて迅速に返金対応を行うなどの対策が重要です。
(引用:CoinEX)海外では、現金を入れることで簡単にビットコインを購入できる「ビットコインATM」も存在
従来の銀行システムを介した国際送金と比較して、ビットコインを利用した送金は迅速かつ低コストです。特に、銀行口座を持たない人々が多い新興国への送金において、その利点が発揮されます。
例えば、フィリピンのように海外労働者からの送金が多い国では、ビットコインを活用した送金サービスが急速に普及しています。これらのサービスでは、送金者がビットコインを購入して送金すると、受取人は現地通貨で受け取ることができます。
従来の送金方法と比べて手数料が大幅に低く、送金にかかる時間も短縮されるため、労働者の収入をより多く家族に届けることが可能になります。さらに、スマートフォンさえあれば利用できるため、銀行口座を持たない人々にも金融サービスへのアクセスを提供しています。
インフレーションに悩む国々では、ビットコインが資産保護の手段として注目されています。ビットコインの総発行量は2,100万枚に固定されており、これ以上増えることはありません。この希少性により、従来の法定通貨のように政府の政策によって無制限に発行されることがなく、長期的な価値保存の手段としても期待されています。
例えば、年間インフレ率が数百パーセントを超えるベネズエラやジンバブエのような国では、自国通貨の価値が急激に下落し続けています。供給量が限られているビットコインは、このような状況下において相対的に価値が保たれやすいと考えられています。
そのため、これらの国々では、ビットコインが事実上の「避難通貨」として機能しているケースもあります。実際に、これらの国々ではビットコインの取引量が増加しており、市民が自身の資産価値を守るための手段として活用しています。
ビットコインの実用化は着実に進んでおり、様々な分野で導入事例が増えています。これらの事例を知ることで、ビットコインの実際の活用方法とその可能性がより明確になるでしょう。
テスラやマイクロストラテジーなど、一部の大手企業がビットコインを資産として保有したり、決済手段として導入したりしています。これにより、ビットコインの信頼性と実用性が高まっています。
例えば、電気自動車メーカーのテスラは2021年2月に15億ドル相当 のビットコインを購入し、一時期は米国での車両購入にビットコイン決済を導入しました。しかし、環境への懸念から後にこのサービスを中止 しています。
一方、ビジネスインテリジェンス企業のマイクロストラテジーは2020年以降、積極的にビットコインを購入し、2024年7月時点で22万6,500BTC を保有しています。これは同社の総資産の大部分を占めており、ビットコインを長期的な価値保存手段として位置付けています。
また、決済大手のPayPalは2020年から米国ユーザーを対象にビットコインの売買サービスを開始し、2024年にはビットコインやその他の暗号資産による決済サービスを拡大しています。
エルサルバドルのようにビットコインを法定通貨として採用する国も現れています。銀行口座を持たない人々にとって、ビットコインは金融サービスへのアクセスを提供する重要なツールとなっています。
エルサルバドルでは、海外送金コストの削減や金融包摂の促進を目的にビットコインを導入しました。政府は「Chivo 」という専用のデジタルウォレットを開発し、国民に配布するなど積極的な取り組みを行っています。しかし、技術的な問題や国民の理解不足、ビットコインの価格変動性への懸念など、課題も指摘されています。この試みは、他の新興国にとってもビットコイン活用の可能性と課題を示す重要な事例となっています。
機関投資家の間でも、ポートフォリオの一部としてビットコインを保有する動きが広がっています。例えば、大手資産運用会社のFidelity InvestmentsやBlackRockなどが、ビットコイン関連の投資商品を提供し始めています。
また、ビットコインETF(上場投資信託)の登場により、より多くの投資家がビットコインに投資しやすくなりました。カナダやヨーロッパでは既にビットコインのスポットETFが取引されており、特にカナダのPurpose Bitcoin ETFは2021年の設立以来、高い人気を集めています。
(引用:Purpose Bitcoin ETF)
そして2024年には、米国でもビットコインETFが承認されました。これにより、今後は機関投資家からの資金流入がさらに加速する可能性があります。このような動きは、ビットコインが従来の金融システムに徐々に統合されつつあることを示しています。
ビットコインは、金融とテクノロジーの融合がもたらした、まったく新しいデジタル通貨です。その仕組みを理解し、適切に活用することで、新たなビジネスチャンスにつながる可能性があります。一方で、技術的な課題や規制環境の変化など、克服すべき問題も存在します。
今後も、継続的な技術革新と社会の受容が進むことで、ビットコインはより一層私たちの生活やビジネスに浸透していくでしょう。ビットコインを含む暗号資産の動向に注目し、その可能性と課題を冷静に見極めていくことが重要です。