自宅のデバイスから仮想空間にログインし、リアル店舗で働く。常連のお客様との会話を楽しんだり、空席にご案内したり、片付けも行ったり…。テレワークを超えたメタバースとリアルの融合――。2024年現在では考えられない日常が、近い将来訪れるかもしれない。鍵を握るのが「ロボット技術」と聞いたら意外に思うだろうか。実現に向け奮闘する人々の最前線を追った。(文=MetaStep編集部)
2023年10月25日~27日に幕張メッセで開催された「第2回 メタバース総合展 秋」。THK株式会社の出展ブースでは、来場者とコミュニケーションをとるVTuberロボットが注目を集めていた。モニターに映った可愛らしいVTuberが、前を通る人たちに声をかけている。
私たちMetaStep編集スタッフを見つけると「こんにちは~」と呼び掛けてきた。しかも、固定のディスプレイではない。モニターに付属した台車が動きだし、こちらに近寄ってくる。支柱が昇降し、スタッフの目線に合わせてくれる。VTuberはモニター越しなのに、動きが伴うと「人間らしさ」を感じ、コミュニケーションが深まる感覚になるのが不思議だ。至近距離で目が合うと、画面越しなのにドキドキするものだ。

VTuber ロボットは、THKのロボット技術が活用され開発されたものだこの「VTuberロボット」は、インターネット回線を介して遠隔地から搭乗することで、リアルタイムにイベント会場の来場者と会話ができる移動型ロボットだ。前述の通り、VTuber自身の意思でブース内を自由に移動できることが大きな特徴。本人の意思で歩み寄り、カメラを通じて相手と会話することができる。
従来VTuberやアバターは、PCや屋外の据え置き型モニター上で活用することが多かった。だが、場所の固定化はコミュニケーションの弊害となり、イベント会場内の人の輪に入りづらいことが課題だった。ロボット技術を活用することで、これを解決した。
このように、日進月歩のロボット技術を活用することで、アバターやメタバース活用の新たな可能性が期待されている。
ロボット技術を提供するTHKは、産業用機器の業界では誰もが知るグローバル企業だ。自動車や各種機械に利用される要素部品の開発・製造を行う機械部品メーカーで、近年産業用ロボットから、一般層向けの「サービスロボット」事業に力を入れる。サービスロボットとは、観光・宿泊、飲食店などいわゆるサービス業で活用されるロボットだ。前述の事例も、THKのサービスロボット部品“SEED-Solutions”が活用されたものだ。現在、実証実験を通じて、さまざまな企業と協業でロボット開発を行い、社会実装に向けたソリューションを生み出そうとしている。前述の例はまさにその一例だ。
興味深いのが、THKはロボットメーカーとして、ロボット単体を販売しているのではなく、ロボットを開発するための部品やソリューションを提供している点にある。
「私たちは、さまざまなノウハウを持つ企業と連携し、サービスロボットを共創しています。その一つの事例であるVTuberロボットは、等身大アバター遠隔コミュニケーションシステム「Monolis」を事業展開する三五屋、リアルとバーチャルを繋ぐ試みに挑戦する山葵音楽学校プロジェクトを運営する合同会社ViREM、遠隔地から操作可能なアプリ「UGOKU-KUN」を開発したアダワープジャパンと協業で開発されたものです。日々、実証実験と試行錯誤を繰り返しながら、本当に必要とされるサービスロボットを生み出すべく努力しています。自社でロボット技術を持たずとも、ロボット開発ができることを知って頂きたいですし、是非ご一緒に価値を共創していきたい」そう熱く語るのは、THKでサービスロボット事業を担当する小林久朗氏だ。
利用できるロボット部品は大小さまざま
同社のサービスは、ロボットを活用した素晴らしいアイデアがあっても、作るノウハウが無いといった課題を抱えている企業に好評を得ている。すでに多くの業界と協業を実現。鉄道会社と協力し、駅構内の自律搬送ロボット制作や、商業施設の自律走行型デジタルサイネージアナウンサーとして現場リポートをする人型ロボット、といった活用事例がある。
小林氏は、「さまざまな協業先のうち、メタバース業界には特に可能性を感じる」と語る。
人型アナウンスロボット「しおりん」。TV番組のレポーターの他、イベントや展示会の司会やMCなど、活用の場は広い
「VTuberロボットは当社がすべてを作っているわけではありません。当社が手掛けているのは、あくまでロボットを構成する要素部品。このロボットでは、走行台車と昇降柱の部分になります。ディスプレイ部分は、自由に選択ができ、好みのサイズや、コストで設計が可能です。メタバースに注目をする大きな理由が、仮想空間に存在する3DCGモデルを現実世界で活動することが可能する点です。サービスロボットが現実世界とメタバース空間のゲートウェイになる可能性を感じずにはいられません」
理想的なサービスロボットを実現するTHKの技術のコアは走行台車と昇降柱の部分だ
小林氏は、ロボット技術とメタバース空間が「つながる」ことで、革命的なニーズが生まれると考えている。「現在は、VR機器を使ってメタバース空間上のコップを取る、といった実際の動きを仮想空間上に再現するのが主流ですが、THKの技術を応用させることで、“メタバース空間での行動を、現実世界のロボットに反映させる”ことが可能になります。
例えば、メタバース内でコップを取ると、現実世界のロボットが同じ動作をし、コップを取る動きをする。ディスプレイを通じてアバターで接客しているものに、アクションという新たな価値も生まれるでしょう。」この「メタバース側から実際のロボットを動かし、現実に反映させる」という発想は、労働力やサービス向上など、多くの期待がある。自宅のデバイスからメタバース空間を通じて、リアル店舗の接客ができるようになれば、新たな人材確保につながるだろう。
ロボットを製造するだけでなく、アフターメンテナンスやサービス化してからの協業など、THKとしても全面的にサポートしている
サービスロボットが普及すれば、人手不足といった課題解決だけでなく、新規サービスや雇用といった新しい価値が創出されることは間違いない。が、課題もある。日本では、まだサービスロボットへの理解や活用が発展途上にある点だ。将来は自動車産業を超えるとも言われるサービスロボットだが、まだ企業の参入も少ない。小林氏は「現在、産業用ロボットメーカーの参入というケースは多いですが、可能性のある分野だからこそ異業種同士のコラボレーション、いわば産業のクラスター化が必要」と答える。
ロボット技術にワクワクしてくださる方と是非ご一緒したい、と熱く語る小林氏
「サービスロボットの取り組みは、限られた地域や企業・団体だけで行ってもうまくいかないと考えています。例えば、旅館業でサービスロボットを活用するとしましょう。1つの旅館だけでロボットを導入しても、インパクトはたかが知れています。大きなインパクトを得るには、地域全体で取り組む必要があります。つまり、各地域の観光サービスと連携することが求められる。その中で、土地の人たちがアイデアを出して、どのようなことを実現したいのかを考えていくわけです」
今回紹介した事例にも、アバター×ロボットが活躍できるシーンは数多いだろう。とはいえ、どのような業種やサービスでの活用に向いているのかについて明確に答えることは難しい。仮想空間と現実世界をつなぐゲートウェイとなるアバターロボットが提供できるシーンは無限だからだ。
また「単に生身の人間をロボットに置き換えようとすると取り組みは失敗しがち」だと小林氏は強調する。なぜならアバターロボットは全く人と同じような行動をするわけではないからだ。つまりアバターロボットを生かすには、そのポテンシャルを最大化するための活用法を考えなければならない。
ずらりと並ぶサービスロボットソリューション「SEED」。東京都大田区東糀谷にあるTHKテクノセンターにて
「SEED」のようなソリューションの登場でロボットをつくる技術的なハードルは確実に低くなっている。つまりロボット製作のノウハウはなくても、アイデア次第で大きなビジネスチャンスを得ることが可能なのだ。結局のところ、アイデアを生み出す発想力が“ものを言う”のである。
最後に、小林氏はメタバースとロボット技術のコラボレーションに関して「もしかしたら産業革命のようなことが起こりうる」と大きな期待を寄せた。将来、メタバース業界にとって飛躍のきっかけとなるのは、ロボット業界からのアプローチかもしれない。